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炎の騎士伝  作者: ものぐさ卿
第二節 約束の騎士
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目覚め、動き出す


 目の前には大きな屋敷があった。

 そして、俺の体は木に腰掛けて眠っていたのか、地面の土が服やズボンに付いていた。

 「……ここは……一体?」

 「……やっと見つけた、こんなところで寝てたら風邪引くよ。」

 声の方向を見上げると、薄焦げ茶色の髪の少女がいた。

 しかし、その顔は逆光により遮られはっきりと分からない。

 「誰だ……お前は?」

 「もう、何を言っているの。先月から私の両親と一緒に暮らしているのにさ……。」

 「暮らしている?」

 「そう……全く寝ぼけて……。」

 「……。」

 「まさか、明日の事も忘れてるなんて言わないよね?」

 「明日……何の事だよ?」

 「何よ……そんな事も忘れるなんて……。私は先にお屋敷に戻ってるからね。」

 そう言って、少女は消えていく……。

 あの少女は一体、誰なんだろう……。

  

    

 帝歴403年10月18日

 

 「……っ。」

 ゆっくりと目を開けると、見覚えのある天井がそこにあった。

 完全な白を基調とした清潔感のあるそれは、自分が病院にいる事を知らせていた。

 全身に、かなりの倦怠感があるがそれを振り切り無理矢理その体を起こす。

 見渡すとそこは病室の一室、横には謎の精密機器がおいてあり脈拍が表示されていた。

 「……そうか……俺は奴に負けたんだよな……。」

 記憶が徐々に鮮明に浮かんでいく、意識を失う以前の記憶が脳に流れる。

 激しい戦いを繰り広げた……恐らく自分が本来出せる実力以上の力を扱ったはずだ……。

 神器本来の力と呼ばれる、深層解放という力……。

 そして、神器の力を学習し模倣する奴の力……。

 その戦いの果てに、俺は奴に敗れた……。

 「…………。」

 自分の腕を見ると、包帯が巻かれているがあの戦いで折れた骨は既に繋がっていた。少なくとも数日で退院出来るだろう。

 周りを再び見るが、この部屋には誰もいない。俺一人の個室となっている部屋を見ると俺は横に倒れ込む。 

 《俺は……負けたんだよな……。》

 そう考えていると、部屋の扉が開いた。

 入って来たのはルーシャとシルビアの二人だった。

 「ハイド、目が覚めたんだね……。」

 「……ああ。」

 俺のベッドの横に置いてある椅子に、二人は並んで座る。

 「ハイドさん、調子はどうですか?」

 「……折れた骨は繋がっているみたいだ……。恐らく数日で退院出来る。魔術の発展を思い知らされたよ……。」

 「そうですか……。」

 「今日はいつだ?」

 「10月18日だよ……。」

 「そうか……。」

 会話は続かない、二人は俺を気遣っての事なのかあの試合について頑なに話そうとはしない。

 「試合は何処まで進んだ?」

 俺の問いにルーシャが答える。

 「準決勝の第二試合が昨日行われて、昨年の優勝者であるローゼンが決勝に進んだの。明後日、その決勝戦が行われる。」

 「…………そうか。」

 「……。」

 「気遣わなくていいよ、俺は奴の試合に負けた事は事実だからさ……。」

 「ハイド……違うのそうじゃなくて……。」

 「……姉さん達は俺の戦いに何て言ってた?」 

 「神器を扱えるようになった事に、シファ様は驚いていました。そして、あなたの使った神器本来の力も……。」  

 「そうか……。」

 「シファ様から伝言を預かっています。あの力は無闇に多用しないようにとの事です。」   

 「理由は何て言っていましたか?」  

 「あの力は、使えば使う程浸食という呪いを受け最終的にその呪いによって契約者は死に至ります。」

 「そうか……。」

 違和感を感じた……何故だろうか……二人の顔が暗過ぎる……。俺の事を気遣っている事以外に何かあるのか?

 胸騒ぎがする……それが何かまだよく分からない……。

 何かが欠けている……何かが……誰かが……。

 「ルーシャ……クレシアはどうしたんだ?」

 「ルーシャは……連れ去られたの……。」

 「連れ去られた……何を言って……。」

 「昨日私の目の前でフード被った何者かに連れ去られたの……。」

 「なんだって……。」

 「……ハイド……こんな事をあなたに頼むのは駄目だって思ってる……でも今頼れるのはあなたしかいないの……。」

 「ルーシャ……。」

 「ハイド……。お願い、クレシアを助けて!」


  帝歴403年10月17日

   

 ルーシャとクレシアは並んで帰路に着いていた。

 他愛ない話をしながら歩いていると、フードで顔が隠れた者がそこにいた。

 「…………。」

 二人の通り道を塞ぐように真ん中に立つ怪しい存在に二人は警戒心を抱く。

 「あなた……何者?」

 ルーシャが声を掛けると、フードの者の姿が消える。

 その瞬間、凄まじい衝撃が響き渡る。

 「っ!」

 「ハイドさんがいない時を狙うとは、多少は考えがある相手ですね……。」

 フードの者の襲撃を何処からか現れたシルビアが止めに入っていた。

 「姉様とクレシア様は逃げて下さい、ここは私を食い止めます。」

 「……分かった、行こうクレシア。」

 ルーシャはクレシアの手を引き逃げ出す。

 「……あなたは何者ですか?」

 「…………仕方ありませんね。」

 フードの者は両手に白を基調とした拳銃を出現させる。

 両手に銃を構え、臨戦態勢に入っていた。

 謎の者から放たれる異様な程強力な威圧感にシルビアは警戒する。

 《この人、強い……。せめて時間稼ぎだけでも……。》

 シルビアは精神を集中させ、神器を具現化する。

 目の前に現れた白を基調とした狙撃銃を手に取り構える。

 そして両者が動き出す……。

 初撃にフードの者が左手の拳銃を構え放つ。魔力で更に加速された弾丸をシルビアは紙一重で躱す。

 《……速い……でも私だって戦える。》

 シルビアの姿が消える。

 そして、何も無いところから弾丸が放たれる。

 しかし、それをフードの物は軽く躱して見せ、その後数多の方向から弾丸が放たれるがそれすらもフードの者は容易く躱して見せた。

 《どうして……。全部見切られて……。》

 その刹那、右手に構えられた拳銃の銃口がこちらに向けられる。シルビアがほぼ完全な光学迷彩により姿が消えているにも関わらず……。

 放たれた弾丸がシルビアの頬を掠めた。

 《まずい、このままじゃ……。》

 銃を構え、フードの者に向けるがそこに姿は無い……。

 「……これで、終わりです。」

 声の方向に目線が咄嗟に動いた、自分のほぼ真横に拳銃を振りかざすフードの者の姿……。

 至近距離にいる事により、僅かだがその素顔が見えた。金髪の女性、そしてその者と一瞬視線が重なる……。

 その瞬間、シルビアの頭に異様な情報がなだれ込む。

 

 炎に包まれた、祖国サリアの光景が……。

 自分の前に立ち塞がり何者かの攻撃を受けた者の姿……。

 そして私を庇った者の亡骸を抱き締め泣き叫ぶ者……。

 《何なの……この記憶……私はこんな事知らない……。》

 そして、血塗れで倒れ伏す銀髪の女性……。

 何かを呟いていた。

 「私を恨んでくれて……ありがとう……。やっと終われる……。」

 「っ……。」

 それを見ている誰かは後ろに後退った。

 「運命を変えて…託せるのはもうあなたしかいない……。」

 「……っ。」

 「………さよなら……シルちゃん……。」

 

 一瞬の出来事に流れ込んだ記憶からシルビアは現実に戻される。

 《あなたは……一体……。》

 視線の先にいる女性の顔は何処かシルビアに似ていた……。

 そして衝撃と共にシルビアの意識は途切れた。

 

 フードの者から逃げる二人、全力で走っている二人の体力は徐々に限界が近付いていた……。

 《こんな時に、ハイドがいてくれれば……。》

 ルーシャはクレシアの手を引き走り続ける。

 《でも……ハイドは今……。ハイド無しで逃げきれる……いや無理かもしれない……シルビアが神器使いだとしても向こうも相当手練のはずだ。そして、あえてハイドのいない今日を狙った……つまりこれは計画的に行われて……。》

 「ルーシャ……。」

 「大丈夫……とにかく今は走って……。」

 路地を駆け抜けると、人の気配が無くなっていく……。

 二人は立ち止まり、息を整える。

 「クレシアは……周りを見てて……。私はシファ様に連絡を……。」

 「分かった……。」

 ルーシャが端末を手に取り電話を掛けようとする……。

 その時……。

 「見つけました……。」

 二人の背後から女性の声が聞こえる。

 振り向くとそこには、先ほどのフードの者がいた。  

 《嘘……もう追いつかれて……。》

 そし通話が繋がると、端末から声が聞こえる。

 「ルーシャ……何か用?」

 少し眠そうなその声、しかしこの場はかなり張り詰めていた。

 「通話を切ってもらえませんか?」

 フードの者がこちらに銃を向ける……。

 《この人……本気だ……。》

 ルーシャはその者要求に応え、渋々通話を切った。

 「あなたの目的は何?」

 「彼女、クレシア・ノワールの身柄をこちらに引き渡してもらいます。要求を呑まずとも強制しますが……。」

 「彼女をどうするつもり?」

 「10月20日の正午、シラフ・ラーニルを西の荒野に呼び出してもらいます。その後状況を判断した上で彼女の身柄を返却致します。」

 「……っ何のつもりなの……。」

 「取引については以上です。」

 フードの者が消え、そしてルーシャの手からクレシアの手が消えた。

 「っ!クレシア!!」

 気付けばクレシアはフードの者に背負われており、意識が無いのかぐったりとしている……。

 「私の言葉、必ず彼に伝えて下さい……。」

 忽然とルーシャの目の前から姿が消えた。

 そして、静寂が訪れた……。

 ルーシャは昨日の出来事を、ハイドに伝えた。

 「彼女の事は両親には伝えたのか?」

 「うん……だから今とても慌ただしくなっているみたい。」

 「そして、要求は明後日に俺一人で西の荒野に出向く事……。向こうの目的が読めないな……。そして何故狙われたのがクレシアなのかだ……。普通俺を呼び出したいのなら、ルーシャをさらった方が効率がいいはずだ……。俺はルーシャに仕える騎士だからさ……。」

 「そうだよね……。私もそこが不可解だったの……それに人質なら奴の倒したシルビアの方でも良かったはず……。」

 「あの場でクレシアだけを狙った理由……。恐らく計画性が高い事は確かだが……あの場でクレシアを狙う利点は何だ?ルーシャ、クレシアが狙われる何かに心辺りはあるか?例えば、彼女しか持っていない物とか能力とか……。」

 「………うーん……クレシアしか持っていない物か……。」

 ルーシャはしばらく考え込むと一つの答えに辿り着く。

 「一つだけ、心辺りがある……。」

 「何だ?」

 「クレシアはいつも首飾りをしているの……。いつもは服の下に隠しているから見えないけど、毎日大切に身に付けいる……。でも装飾品一つにそこまでするのかな……。装飾品が欲しいのなら、クレシアの身から取り外せば速いでしょ……。」

 「いや……もしかしたらクレシアと装飾品が揃っていないといけないんじゃないのか?」

 「えっ……?」 

 「あの二つが揃って何らかの条件が揃う……。そして俺を呼び出した理由もそこにある……。そう考えられないか?」

 「……確かにそう考えられるかも……。」

 「クレシア……そして首飾り……そして俺か……。何だろうな、何か引っ掛かるんだよ…何かが……。」

 「ハイド……。」

 「そして……日程を明後日に指定した理由……。これについては分かった……。」

 「何なの?」

 「明後日は闘武祭の決勝だ。これまで以上に戦いは激しくなり学院全体の注意がそちらに向く。注意がそちらに向けば、こちらで何が起ころうと大きな問題にならないからな……。」

 「……つまり、罠である可能性が高いって事?」

 「そうだな……向こうはこちらに勝算があって場所と時間を指定した……。何が起こるのかは、行けば分かるが下手をすれば殺されるかもな……。」

 「……。」

 「だが、行かない選択肢は無い。俺のせいで彼女が殺されるのはあってはならないからな……。」

 「何か作戦はあるの?」

 「協力を要請するしかないな……あまり頼みたい事ではないがクレシアの命が掛かっているんだ打てる手は全て打つ……。」

 俺は枕元に置いてあった自分の端末を手に取り、時間を確かめる。現在の時刻は午後五時を過ぎており授業は既に終わり放課後の時間だろうか……。

 そして俺はある人物に電話を掛けた。

 そして、少しすると電話の主が出る。

 「ハイド……意識が戻ったの?」

 電話に出たのは姉さんだ……恐らくこの状況を打破する鍵になる……。

 「ああ……。事情はルーシャから聞いている、クレシアを助ける為に力を貸して欲しい。」

 「……分かった。それで、私を頼ったって事は何か策があるの?」

 「その為に、姉さんの力を借りたい。そして、ラウ達の力も……。」

 「…………分かった。今からラウ達を連れてそっちに向かうからら、何か必要な物はある?」

 「いや特に無いよ。」

 「分かった。それじゃあ、向こうで合流しよう。」

 そうして俺は通話を切った。

 「ハイド……あなたは何をするつもりなの?」

 「奴らの望み状況をあえて作り、こちらの作戦に誘導させるんだ……。」


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