第十三話 対談
帝歴403年7月13日 午後8時半頃
船の甲板の上で、俺は人を待っていた。
今日の朝、突然部屋を訪ねたラウの従者であるシンが主と共に俺に対して話があるらしい。
そして、約束の時間を迎えた。
正直姉さん達も呼んだ方が良さそうだと思ったが、姉さん達はこの手の話にあまり興味がないらしく、俺にこの手の案件を投げ出されてしまったのだが………。
「既に来ていたようですね。
お待たせてしてしまい申し訳ありません」
「別に構いませんよ」
俺の目の前にいる藍色の髪が特徴的な彼女がシン。
俺達と同じく学院に編入するラウの従者である。
彼女も主と同じく学院に編入するが、その素性は主と同じくよくわかっていない。
昨日、俺達は海賊達の襲撃を受けたが事件はその日の内に片付き死者を出す事無く人質も無事に解放された。
しかし事件を解決に導いたのは、俺と彼女の主であるラウである。
俺は賊の一人を捕らえた程度の事をしたが、ラウは賊のほとんどをたった一人で片付けてしまったのである。
あの時一番驚いたのは、彼の異常な強さだ。
ラウは賊数人からの一斉射撃を受けたにも関わらずそれを剣で全て弾くだけで無く、弾いた玉で賊等を迎撃して見せた。
圧倒的な力の差を目の当たりにした賊の長は為す術無く、ラウからの最後の警告により膝から崩れ落ち事件は解決したのであった。
「俺に話があるんですよね?」
「はい、勿論です。
今回、特別に部屋を取ってありますのでそこで行いましょう。
あまりこの話のを他に聞かれたく無いので」
「聞かれたく無いとは?」
「そのままの意味です。
内容は部屋に着いたらお話致します。
ラウ様も部屋におりますので」
「………分かりました。
案内して下さい」
そしてシンが歩き出すと俺もその後に着いて行く。
不審な点が多いが、奴等の情報を少しでも多く知れる機会を無駄にする訳にはいかない。
何かの裏があることは、俺も姉さんも薄々と感じていたからだ。
そして俺は船内の廊下を彼女の後に続いて進む。
「何故、姉さんではなく俺を?
俺よりも、姉さんの方が適任のはずでしょう。」
「あなた様が人との約束を破る人だとは思えませんし、シファ様はこちらでも信用できるか微妙なところですので」
「何の基準があって俺に言えるんだ?
あなたとはそこまで親しい間柄では無かったと思うんだろう?
数日前に顔を合わせたくらいだからな、それとも以前に何処かで関わっていたとでも?」
「お会いするのは初めてでしたよ。
しかし、理由を分かりやすく言うならば、女の勘というものでしょうか?」
「女の勘って……」
彼女の言葉が腑に落ちず、ため息が僅かにこぼれたかを理由を補足するように彼女は言葉をつづけた。
「ふふ、根拠を申すのであれば昨夜私の話をしている時に気遣いをしようとしていた事ですね。
人に対しそこまでの気遣いをする方が簡単に約束を破る事はしないと判断した事です」
「それでも、よく分からない理由です」
それから間もなくして、彼女の案内のもと俺は用意された部屋に入った。
部屋の内部は豪華な装飾に彩られており、三人分の食器が並んでいる。
そして既に一人席についている者がいた。
「……どこからそんな金が出るんだ……?」
「昨晩の活躍ぶりから、この船の船員方から特別にこの部屋での食事を勧められただけです。
お金は向こうで負担してくれるようなので、今回のこの場を設ける為に利用させて頂きました。」
「活躍ぶりね……。
ほとんど貴方の主でしょうに。
それで、当のあなたの主はそこで何をしているんです?」
目の前の席に既に座っている黒髪の人物。
間違いない、ラウだ。
しかし彼はテーブルに置かれた食器類に手を付けそれを眺めている。
ナイフとフォークがそんなに珍しいのか、それ等を手に取るとまるで鑑定士のたぐいが品定めをしてるように、それを必死に見つめているのである。
これには、従者であるシンも絶句である。
僅かに動揺し、俺の方へと一歩下がってきた程だ。
「ラウ様……一体何をなさって」
あまりの奇行にシンが動揺隠せず、恐る恐る尋ねる。
彼女の声に気づいたのか、ラウは……。
「シン、これはどのように使う物だ?」
そのセリフに思わず俺も言葉を失い反応に困った。
俺がそんな思考をしていると、彼女は……
「ラウ様、それは食事をする道具でございます。
あと、食事をする前に食器に手を付ける事はあまり行儀がよろしくありませんので、どうかお控え下さい。
お願い致します」
「了解した、次回から気を付けよう」
そしてラウは持っていた食器を元あった場所に置く。
相当おかしい奴かもしれない……。
まあ道中の宿ではナイフを使う食事をした事が無かったから気付かない訳だよな……。
うん……そうに違いない……。
「来ていたようだな、シラフ・ラーニル」
「お前が俺を呼んだんだろ?」
「とにかく、座れ。
話はそれからにさせて貰おう」
そして俺はラウに指定させた奴の目の前の席に腰掛ける。
シンも同様に俺達の間の席に座る。
テーブルの形は四角であった為かシンの目の前に空席が空く。
妙な違和感を感じながらもラウは話を始めた。
「では、本題へ移ろうか」
そしてラウは話を切り出した。
「率直に言おう。
私達の目的に協力して欲しい」
「何の為に?
それに、目的はなんだよ?」
「それをこれから話す。
私達も未だにその全容を把握していないのが現状だ」
「前置きはいい、早く続けろ」
「そうだな。
始めに言っておくが、我々は人間では無い。
かつて、帝国の科学者であったノエルによって造られた存在が私とシンだ」
「造られただと?
まさかお前達はホムンクルスの類いか?
だが、そんなのとっくのむかしに帝国が製造を禁止した遺物もいいところだろうに」
ホムンクルス。
それは、人間を科学と魔術の粋を集めて人工的に生み出した疑似生命体的な存在である。
200年程前に帝国が製造法を確立するも、製造が本格化する間もなくしてを禁止されたのだ。
以降ホムンクルスやそれ等に関する研究及び開発を長らく禁じられた物であり、今も尚国際法で禁じられたモノである。
禁止された理由としては倫理的な問題。
そして危険極まりない兵器としての問題もあったからであると言われているが、この辺り詳細は詳しくないので相手の反応を待つしかないだろう。
「いや、それとも少し違う。
シンはホムンクルスを基盤に体内に機械を埋め込み強化された世で言う人造人間。
だが私はそれと全く違う存在。
そうだな、私は世で言われるクローンをベースとして生まれた改造人間と表現すれば良いだろう。
どちらもホムンクルスという類いに一括りとして扱えるからそれでも構わんが」
「………気味の悪い話だな。
で、それがなんだっていうんだよ。
お前達が人間じゃなくてホムンクルス。
そして、帝国の科学者だったノエルって人に生み出された訳で……。
それと俺に何の因果関係がある」
「これから、それを話すところだ」
「ああ、分かったよ…」
「私が人間とは違う存在だと言う事は既に話した」
「そうだな。
で、その人間ではないお前達が?
ある目的を果たす為にここにいるんだろ。
だが、お前達の果たそうしていた目的を持っていた帝国様は今はもうないんだ。
そんなお前達に今更何が出来る?
既に滅んだお国の再興でもするつもりなのか?」
「昨日の時点ではお前の姉であるシファについての事を含めてであったが、現状は少し変わった」
「姉さんの事から、現状が変わっただと?
そもそも何で、お前達の目的と姉さんが関係あるんだ?」
「ある人物の殺す事、それに関係する」
「ある人物?」
「カオスの契約者だ」