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炎の騎士伝  作者: ものぐさ卿
第二節 約束の騎士
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第百二十八話 そして駒は進んでいく

 私は昨夜の会話を思い返していた。

 目の前の敵に勝つ方法、あの翼に刃を届かせる方法。


 「この姿を前にしても、まだ諦めませんか?」


 「諦める必要はない、勝てる可能性は消えていない」


 「………」


 「魔力を用いての威圧か……。

 実に君達の種族らしいやり方じゃないか?

 だが、威圧だけで引く程こちらの戦意は削がれていないのが事実。

 かえって、無駄な魔力を消費しただけに過ぎない」

  

 「この期に及んで、まだそんな口を………

 人間もどきが………」


 「なら試して見ればいい、天人族。

 お前は、その人間もどきに敗北するのだからな」



 「天人族は、その種を象徴とする翼を中心に魔力が集中しているの。

 この点に関しては分かるよね、ラウ?」


 「ああ、そうだな」


 「この翼を中心に巡る魔力が、外部からの物理的な攻撃は愚か粗方の魔術も弾いちゃうの。

 人間の扱う程度の魔術じゃ、まず通らないくらいね」


 「で、その対策はあるのか?」


 「勿論あるよ、体内に巡る魔力に対して攻撃ではない干渉をすればいいって話。

 ほら、手術とかで麻酔をするでしょう?

 似た感じで、彼等の体内に巡る魔力に対して麻酔をして、流れを鈍らせるの。

 魔術の強さって魔力量とその密度は当然として、魔術を行使する為に流れる魔力の速度が速さが重要なの。

 魔力量と密度に関しての干渉にはこっちも同様に物量で何とかしないといけないんだけど、魔力の速度を遅らせる事に関しては簡単でしょ?

 要は、いかに強力な魔力から放たれる大魔術と言えど、対処する猶予が生まれやすくなるって話。

 いい、つまりはね?

 試合が始まって最初の方は攻撃ではなく、相手の魔力に対して干渉する糸口を掴む事に尽力すること。

 そうする事で、あなたの魔術は彼女の身体に通すことが可能になる」


 「相手の魔力に対して干渉か……」


 「そそ、まあラウにはグリモワールもあるんだしその辺りは簡単でしょ?

 あとね、あの子みたいな高位の天人族には結構挑発に乗りやすい傾向があるから、活かしてみると良いかも」


 「この場に及んで挑発が、アレ相手に有効だと?

 本気で言ってるのか?」

 

 「本当、本当だって。

 私達、実戦でちゃんと試したもん!

 天人族ってさ?ほら、獣人とか他の種族と違って純血思想というか、そういう古い習わしに対してかなり強い拘りを持ってるのよ。

 いわゆる、自分達の種の在り方こそ正義みたいな?」


 「………」


 「感情任せになると、血の流れは当然として魔力の流れも乱れやすくなるからね。

 感情を高ぶらせ、相手の隙を手繰り寄せる。

 これも戦術の一つだからね」



 試合開始から間もなくして、相手はこちらの思惑通り、感情に踊らされこちらの攻撃を受けた。

 一時的でありながら、魔力の乱れを引き起こし翼に流れる莫大な魔力はこちらの干渉を受けることになる。


 その結果、一時的でありながらこちらの攻撃は通るようになりその身体を撃ち落とすことに成功。


 そして次の手に向けての布石は、既に………。


 

 「そういやさ、ラウって前にクラウスと戦った事があるんだよね?

 あの時のあの子って、神器の力を使ってくれた?」


 彼女の質問に当時の事を思い返す。

 実技試験の一環として、クラウスという人物と確かに試合をした事はある。

 その時の試合の内容に関して、終盤以外のほとんどが魔力を用いた身体強化はありつつも神器の使用はまずなかった。

 しかし、終盤に差し掛かると奴はその力を使用し、こちらに攻撃を仕掛けてきた。


 グリモワールの観測から判明した奴の所有する神器の名は、エレボス。

 主な効力としては、対象の五感に対しての干渉。

 攻撃能力自体はほとんどないが、攻撃を受けた場合体内に巡る魔力の流れから対象の五感に対して干渉。


 手足の動きや、視覚の一部を奪うなり、様々な効力を一時的ながら対象に付与してくる。

 時間経過と共に、効力は薄れるものの強く能力を受ければ廃人、最悪の場合死亡する可能性あり。


 「確かに、奴はその力を使っていたが……。

 あの力が天人族に通用するとでも?

 確かに強力な力ではあるが、お互いの魔力量に差があり過ぎる場合、幾らグリモワールと言えどその力は届かないと思われるが?」


 「確かに、そのまま使ったら無理かもね。

 だから、」


 「条件だと?」


 「条件は二つ。

 まず一つ目の条件が、さっき伝えた魔力の流れを少しでも鈍らせること。

 二つ目の条件は、あの種族特有の天臨っていう力を相手に使わせること。

 この前貴方が戦ったカイルって子の扱った獣刻って力と似たようなものだね。

 これを扱うと、天人族の魔力の流れが加速してより強力な力を扱えるようになるの」


 「意味があるとは思えないな。

 わざわざ魔力の流れを遅らせたにも関わらず、向こうの魔力の流れを加速させてどうなる?」


 「それはね?

 体内を巡る魔力に速度差を生じさせて歪みを作らせるの、そうする事で歪みの部分からこちらの攻撃が通るようになるの。

 だから、戦いが始まったら真っ先に彼女の翼を狙って、魔力の流れを少しでも遅らせる事に専念して。

 一度攻撃が入れば、仮にすぐに元の状態に戻ったとしても魔力の流れが元の流れと同じに戻るまでには時間が掛かるはずだから。

 あとは、天臨を向こうに使わせるように上手く誘導して、そこからが勝負だからね」


 「賭けに等しい行為だな」


 「大丈夫だって、あなたなら出来るでしょ?

 だって、ラウは………」

 


 そうだったな、シファ。

 いずれは、お前を倒そうとしているんだ。

 

 たかが天人族の一人に私は負けてなどいられない。

 


 「私の目的を果たす為に、お前を倒そう」


 

 膨大に膨れ上がる魔力の塊と化した、かの天人族。

 正面からの攻撃は通らない、しかしシファの助言の通り魔力の流れに乱れが見られ幾つかこちらの魔術が通りそうな部分が見える。


 とはいっても、指先程度の大きさ。


 向こうの攻撃は一つ一つが致命傷。

 だが、ここまで繋いだ勝利への糸口を無駄にはしない。


 片腕の再生も、間もなく終える。

 残りの魔力量からして、銃及び弾の錬成は厳しい。


 しかし、右の方に視線を向けると先程斬られた腕と銃がそのまま落ちているのが見えた。


 残弾数は四発。


 元々持っていて壊れた銃のソレを見やり、新たに別の武器へと変換する。

 向こうが余裕を見せ、わざわざこちらを待ってくれているのが好機であり、大きな油断だ。


 まだ己の魔力の流れに生じた乱れも認知していない様子であり、私に勝機はまだある。


 「準備は済みましたか、ラウ?」


 「………問題ない」


 壊れた銃は簡易的な直剣に生まれ変わっている。

 その強度は不安だが、それで問題ない。


 「では、終わらせましょうか」


 そう言って、こちらを宙からこちらを見下す彼女は右手を空に掲げる。


 頭上に浮かぶ円環の更に上空に巨大な魔法陣が出現。

 会場全体が震える程の強大な魔力の圧力に、私自身思わず息が詰まりかけた。


 「グリモワール……再演算開始………。

 対象の観測及び、解析………軌道を予測………」


 「裁きを、受けよ…………」

 

 天使の宣告から間もなく、辺りは無数の光の柱に包まれた。

 数多に巡る光線を掻い潜りながら、私は落ちた片腕に向かってその場を駆け抜けた。


 そして、落ちた腕に握られた拳銃を拾いあげると向こうの私はこちらを見下す彼女に拳銃を向ける。


 「今更、そのような玩具で私が怯むと………!!」


 声は確かに、私に向けられていた。

 そう、彼女の光が生んだ影の私に向けられたもの。


 この事実を彼女がやっと認識出来た瞬間、彼女の背後を私の本体が奪い去り、その翼ごと地に叩きつけた。


 「………っ!!!」


 破砕音を辺りに撒き散らしながら、全身を激しく打った天人族の彼女はゆっくりと立ち上がる。


 そして、立ち位置が入れ替わった私を見上げていた。


 「お前……一体何故……?

 さっきまで、確かにお前は、私が上から見ていたはずだ………。

 間違いない、そのはず………

 なのに、お前は…………」


 「…………」


 「いつからだ?

 いつから私の背後を取っていた?」


 「決まっているだろう?

 私は、最初にこちらの攻撃が通った瞬間からお前の背後を狙っていた。

 そして、今この瞬間をもってお前の敗北が決定する」


 間もなくして、地に立つ彼女を取り囲むように黒い鎖が周囲に現れ対象を拘束する。

 本来、彼女の切り落とされたはずの腕に仕込まれた魔術の効果によるものである。

 

 「鎖の魔術?

 だが、この程度の魔術で私を封じれる訳が………。

 アレ……流れない?

 私の魔力が、魔術が……使えない?」


 「…………」

  

 「何で、どうして?

 まだ魔力には余裕があったはず………。

 そもそも、人間の魔術程度なら簡単に弾けるはず……、

 でも、何で………どうして急…………」


 焦りを覚え、狼狽える彼女であったが間もなくして手足の動きが鈍り始める。

 そして、頭上に浮かぶ光輝く円環が光を無くして忽然と消え去ってしまう。


 動揺を隠せない様子、当然か。

 つい先程まで勝利を確信していたが、ものの数分もたたずに立場が逆転してしまっていたのだから


 「お前……一体私に何をした?

 何故、私の身体は動かない?」


 「サリア王国の所有する神器の力に依るものだ。

 その力は主に対象の五感に作用し、ありとあらゆる感覚を奪っていく代物。

 さっさと降参しなければ、流石の天人族であろうと本当に死ぬだろう」

 

 「そんな……、私が?

 四大天使の私が、こんな無様な敗退を?

 あり得ない、こんなの絶対に………!

 私はお前に勝っていたはずだ!

 私の勝利は当然だったはずだ!!

 なのに、何故です?

 どうしてこんな事が………」 

 

 「本当に分からないのか、お前は?

 最初の攻撃が通ってからずっと、お前の視覚はこの神器の力によって幻覚を見せられていたとでも言えば伝わるか?

 実に精巧なものだっただろう?

 貴様が現実の出来事である区別が出来なくなる程に、貴様が勝利を確信してまう程にな」


 そして、私は鎖に拘束された彼女の元へと歩みよりその手に握られた拳銃を彼女の額に当て、銃口突きつける。


 「私の勝ちだ、リノエラ・シュヴル。

 己の敗北を認め、大人しく投降しろ。

 このまま戦闘を継続しおめおめと死に晒したいのなら、別だが?」

 



 帝歴403年10月12日


 闘武祭準々決勝第四試合。

 ラウ・クローリア対リノエラ・シュヴル。


 勝者 ラウ・クローリア

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