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炎の騎士伝  作者: ものぐさ卿
第二節 約束の騎士
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第百二十六話 神を討つ為の検証を

 「グリモワール・エレボス、起動」


 その言葉と共に目の前の男は黒い瘴気のような魔力に包まれた。

 その忌まわしい力に嫌悪感を抱いたが、魔力の総量からして私に通せる程の威力があるとは思えない。

 

 このまま膨大な魔力で押し切れば十分。

 その判断に至るまで時間は掛からなかったが、すぐにその思考を私は撤回した。


 彼を包んだ魔力が弾け、その姿が露わになると劣化した麻黒いローブを纏ったその男の姿があった。

 魔力量は大して変わってないが、あのローブは見た限りでは市販のソレに近い代物、しかし放たれる魔力の雰囲気がこれまでと大きく異なっていた。

 

 私の知る魔力の系統と違うナニカ……。

 人間が独学で築いた異端な力、いやそれも違う……。

 

 アレは、あの力は……。

 神器そのもの。


 いやだが、彼は神器を所有していない。

 なのに、神器特有の異質な魔力を彼から感じる。

 

 一体、どうやって?


 「貴様、その力……まさか本当に………」


 「生憎、私は正攻法で貴様には勝てない。

 故に、その手段は選ばないことにした」


 「神器の力に頼って程度で私に勝てるとでも?」


 「試してみれば分かる。

 そして断言しよう、この力が私の元にある限りお前は私に決して勝てはしない」


 「ふざけたことを………」


 「ならば、ソレを証明するまで。

 …………これより対象の殲滅を開始する」


 男はそう言うと、右手の拳銃を私へと向けた。

 引く気はない、そして本当に私に勝てるつもりで戦うようである。


 随分と私を舐められたものだ。

 

 天人族を……四大天使を………私を……、神を軽視するその低脳ぶり………。

 ならば、その身体に刻み込むまで………。


 「………そうですか。

 いつでも来なさい、ラウ・クローリア。

 逆らったことの恐ろしさ、愚かさ、あなたの魂の隅から隅まで刻み込んであげましょう」


 


 動いたのは同時。

 こちらが武器を放つ直前、魔術の発動までの僅かな時間の間に私の間合いは目の前の天使に詰められていた。

 喉元に目掛けて、身の丈程の大きさの剣が振るわれる最中、私は反射的に現在発動していた魔術を中断し、身体強化へと以降。

 剣が私の喉元を掠めかけた寸前で、私の身体の動きが追い付き左手で攻撃の軌道を無理矢理逸らす。


 「対象の観測を再開、演算修正。

 再試行、並行して………」

 

 魔術の並行詠唱、その裏でグリモワールによる演算補助を同時に開始。

 向こうの攻撃が想定よりも早いが、想定内。

 こちらに対して、未だ様子見の内に次の手を打つ。


 「小賢しい!!!」


 空気が割れるような、激しい魔力の歪み帯びつつ目の前の天使は勇猛果敢に攻め立てる。

 こちらに攻撃の隙を与えない為。

 確かにその手は有効だが、速度だけなら以前戦ったカイルの方が威力も精度も上である。


 目の前の感情に呆気に取られて技術が抜けている。

 冷静さを欠いているなら、攻撃は非常に単調。


 攻撃の隙を見抜くのも、難しくはない。


 「演算終了、対象……補足」

 

 「っ!!」


 拳銃一つにつき、弾倉は六発。

 両手に装備している為、最大十二発。

 

 最初の急襲に対応した結果、途中で魔術の発動が止まった為、弾倉には右手に三発、左手に四発。

 

 七発の弾に込めた魔術は、以下の三種類。


 軌道変換、分裂、魔力遅延の第一の弾が三発。

 軌道変換、軌道変換、貫通の第二の弾が二発。

 速度強化、貫通、魔術融解の第三の弾が二発。


 向こうは依然として頭に血が回っている。

 その間に罠を少しでも多く仕込む


 右手の拳銃を向け、身体は敵の追撃から逃れるべく身体強化で無理矢理加速………。


 「この程度で逃げれると思うな!!」


 剣を振るう彼女に向けて第一の弾を一発、放つ。


 が、当然の如く弾は弾かれ軌道が逸らされる。

 しかし、彼女が弾を剣で弾いた事で第一の弾に仕込まれた魔術の一つが起動。

 弾の起動が切り替わる、正確に言うなら発射時と同等の速度で再び彼女に向かって放たれたということ。


 既に彼女の後ろに弾かれた弾が、彼女の背の死角に向けて放たれる。

 弾の存在に勘付いたのか、身体を捻り剣に魔力を込めて弾ごと消し飛ばすべく彼女は魔力を込めた。


 この瞬間を以て、第一の弾に込められた第ニの魔術の起動条件がここで満たされる。

 

 弾は十数発程に分裂、その数全二十八発。

 

 「な?!!」

 

 数が増えたことにより彼女は迎撃の手を止めた。

 流石の判断能力、普通の人間なら第ニの魔術で十分なところだ。

 彼女の背に生える純白の翼に魔力が集まり、防護壁の如く強力な防衛魔術が構築されているのが確認出来る。


 激しい爆発と共に、彼女の姿が弾幕の中に消え去る。

 結界がガラス片の如く破壊されているように見えた。


 が、この程度で彼女の構築した結界が打ち破れるはずがない。

 弾幕を抜けた先で、ほぼ無傷の彼女の姿がそこにはあったのだから。


 「随分手の込んだ、悪戯ですね?

 全く、こんなことに余計な力を使ってしまった」


 「………」


 「言葉も出ませんか?

 まぁ切り札を使っておいて、私にはかすり傷すら与えられない。

 所詮は人間の魔力量でしかないんです。

 我々天人族の圧倒的な魔力量の前に、あなた程度の量の魔力では力の差は覆らない」


 「効いてないだと、本当にか?」


 「何を言うかと思えば、そんな……」


 「魔力量が少ないのは確かにそうだが、だがあくまで総量の話だろう?

 出力量に関しては、また違う」


 「ならば、もう一度試してみればいい!!」


 再び彼女が勇猛果敢に攻め立てくる。

 しかし、身体のバランスを崩したのか即座にその場に転がり込んだ。

 

 「え………なんで………」


 「先程撃った弾には三段階で魔術を仕込んでいた。

 第一の魔術、起動変換。

 弾が発射されて以降物理的な強い衝撃を受けた際に発動し、起動すると物理的な衝撃を与えた対象に向けて弾が追尾するもの。

 そして、第二の魔術は分裂」


 「何を言うかと思えば……!!!」 


 転んで間もなく、すぐに彼女は立ち上がり勇猛果敢に再び剣を振りかざし斬りかかる。

 しかし、魔力を上手く扱えない状態の今の姿で私に攻撃が与えられる訳がない。


 「なんで………どうして!!!」


 「第二の魔術は、第一の魔術発動後に対象から強い魔力の流動を感知した際に発動する。

 流動とはつまり、別の魔術を使用したことによって起こる現象だ。

 使用した場合、条件が満たされ弾は近くの大気中から魔力を吸収し急速に分裂し数を増やす。

 そして………第三の魔術」


 彼女の振るう剣が私の拳銃の銃身に衝突。

 魔力の流れが鈍った彼女の攻撃はとても軽く、身体強化の魔術を持ってすれば受け止められない威力ではない。

 攻撃を受け止められ、身体に思うように力の入らない彼女は焦りを覚え、焦燥感に駆られている。


 「なんで、どうして効かないのよ!!

  私の身体に何をしたの、人間ごときがぁぁ!」

 

 「第三の魔術、魔力遅延。

 対象の魔力の流動性を著しく落とす魔術だ。

 発動条件は、対象の魔術に触れること」


 「それが何だと言うんです?」


 「弾の分裂に危機感を覚えたお前は、迎撃を取りやめ瞬時に防御の姿勢へと移行した。

 その判断は確かに正しい、一発程度ならともかく数十発の弾を正確に弾けるあるいは処理するのは至難の技。

 が、自らの羽に防壁を張って守りに転じた事が唯一の過失、いやこの癖がお前の命運を分けたと言えよう」


 「何?」

  

 「昨年度の試合記録を参考に私は独自でお前達、天人族の戦い方を研究した。

 そして一つの答えを得た。

 天人族特有の癖、あるいは体質的な問題だ。

 それは、身体強化及び魔術を使用する際には全身の魔力が種を象徴するその翼に集まる。

 血液を巡らせる心臓のように、天人族の魔力というのはその翼を中心に巡っているというもの」


 「何を言うかと思えば、そんな事がこの今の私に何の関係があるというのです!!

 小賢しい人間如きが、我が種の何もかもを知ったような口振りで!!」


 「頭に血が上り過ぎだな。

 結論から言おう、お前は弾丸に込められた第三の魔術によって魔力の巡りが悪くなり身体能力が大幅に落ちている。

 お前の貼った防衛魔術が、第三の魔術の発動条件を満たしそれが起動した。

 その結果、防衛魔術及び翼に着弾した魔術の効果によって魔力の流れが遅くなっている。

 まだ分からないのか?

 今のお前は、その翼で飛ぶことすら叶わない」


 「貴様ぁぁぁぁ!!

 許さない!我等を愚弄するか、地上の猿がぁぁ!!」


 魔力の流れか活性化していく。

 つまり、第一の弾の効力が切れたということ。

 想定していた効果時間より半分以下した保たない。

 拳銃の弾程度の大きさに、三つの魔術を段階的に仕込んだ影響か魔術自体の効力が弱かったか。


 いや、彼女の持つ膨大な魔力量を抑えるのはそもそも不十分な効力だったということ………。

 

 徐々に力の優劣が逆転していき、怒りに任せた天使の蛮刀が私に向けて放たれる。

 

 「絶対に貴様を許さない!!!

 覚悟しなさい、人間!!!」


 「いや、何の問題はない。

 この程度で倒せるお前ではないからな。

 だが、こちらの攻撃はどうやら有効のようだ。

 人間でも勝てる可能性は十分にある」


 「貴様………我等を、天人族を……愚弄したなぁ!!」


 「では、次の検証に移ろうか?

 天人族、リノエラ・シュヴル。

 この戦いにおいてお前は、神を討つ為の私の検証に付き合って貰うのだからな……」

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