第百二十三話 勝ち上がる者は
帝歴403年10月12日
闘武祭は順調に進んでいき、試合を重ねる度に盛り上がりは最高潮を更新していく。
準々決勝第一試合。
ルークス・ヤマト対メルサ・ハーヴィー。
何らかの因縁があるという両者の試合、壮絶な激闘を極め両者が一歩も引かぬ戦いの末に、その試合はルークスの勝利で幕を閉じた。
続く準々決勝第二試合、現学院最強であるローゼンが出場する。
対戦相手は為す術なく圧倒的な実力差でを見せ付けると彼の勝利は約束されたものであった。
そして、続いた第三試合……。
「勝者!
オキデンス代表、シラフ・ラーニル選手!!」
「「ーーーーーーーー!!」」
激しい戦いの末に、相手はその場で膝を折りその場で倒れ伏せていく。
観客達の盛大な歓声を浴びながら、俺はその手に握られた燃え盛る炎の剣を軽く振り払うと、元の腕輪へと剣は姿を戻していく。
シグレとの戦い以降、心境の変化があったのか俺はある程度まで炎の力を扱えるようになっていた。
今まで俺を苦しめてきた炎の神器。
ようやく、俺はその力の一端を扱えるようになった事に俺は喜びを噛み締め、成長を肌で感じている。
俺は少なくとも、他の十剣達と同様の舞台に上がったのだから……。
勝利の歓声を浴びながら俺はゆっくりと会場を後にしようとすると例のアイツと通路ですれ違ったのだった。
「また会ったな……ラウ」
「そうだな。
全く、会って早々私に対して随分と敵意が剥き出しとは、先程の試合で勝利したというのに気分が悪いとはお前はどのような神経をしている?」
「当たり前だろ……?
お前が姉さん達を傷付けるというのなら、俺はお前達に決して容赦はしない」
「…………」
「お前は姉さんをたぶらかし、何を企んでいる?
あの人が誰かと付き合うなんて今まで無かった……。
お前が何か姉さんの弱みでも握っているのか?」
俺の問いに、目の前の奴は呆れながら返答をする
「彼女はあくまで協力者だ……。
私にとっても、彼女にとっても同じこと」
奴の返答に俺は疑問を感じた。
姉さんが奴の協力者?
そして、お前と何らかの目的が同じだと?
姉さんがお前と同じ目的で動いていることに、俺は納得がいかず、再びその意味を問いただしていた。
「どういう意味だよ?」
「いずれ分かるだろう……。
彼女がお前に説明していないのなら、それまで。
そして、わざわざ私からお前に説明する義務はないのだからな」
「…………」
俺の横を素通りしようとすると立ち止まり、俺の方を見返して口を開くと………。
「次の試合、私とお前が戦うことになるだろう。
シラフ、いや……ハイド・カルフ。
全力で来るといい、お前の望み通り私自ら相手になろう」
そう言うと、奴は俺に背を向けて次の試合に向けて歩いていく。
俺は奴の後ろ姿を見送りながら、奴の言葉の真意を考え込んでいた。
奴は俺の事をハイドと呼んだ。
何処でそれを知ったのか定かではないが、姉さんを探る目的か、あるいは協力者として姉さんから直接聞き、俺の名前を知ったのだろう。
前者としての可能性が一番高い。
が、奴の言葉が全て真実であるなら……。
いやだが、それでどうなる?
名前を知って、素性を知った上で奴が直接俺を害してきた事は一度もない。
あくまで、俺に対してだが………。
自身の目的を果たす上で俺の情報を得る必要があったのだろうか?
あるいは、この祭典で彼を優勝させるべく姉さんが彼に必要な情報を与えた?
いや、だったら俺の神器に関するモノと剣術の癖とかその辺りの情報を与えるはずなのだ。
つまり、奴は何らかの理由で俺個人についての詳細を知る必要があったということ。
分からない。
奴が何を企んでいるのか意図が読めない。
思考重ねても答えは見つからない。
だが、奴は必ず勝ち上がってくるだろう。
そんな確信を抱きつつ、誰もいない通路で彼の去った跡を見続けていた。
●
観客席に向かう途中、俺は端末の画面を開きこれから行われる試合の内容を確認する。
闘武祭準々決勝第四試合。
ラウ・クローリア対リノエラ・シュヴル。
大きく端末のお知らせに大々的と表示されたそれを眺めながら
「準々決勝突破、おめでとうシラフ!
流石私の専属だね」
と、観客席には誇らしげにそう語るルーシャの他にシルビアやクレシアの姿が見えてきたのであった
「ありがとう、ルーシャ。
わざわざ応援に来てくれたんだな」
「当たり前でしょ?
みんな、あなたに期待して応援してるんだからさ?」
「そうか……。
あー、そういえば、思ったんだけどさ?
そういや、今日の観客席の熱気がいつもより凄い気がするんだが……。
今回の試合もかなり注目されてたりするのか?」
「確かにそうかもね。
まあ……今回の対戦がかなり注目されていたからさ?
ほら、次の試合って今年初参戦の例のシファ様の彼氏さんでしょ?
対戦相手も学位序列二位のあの人だからね。
彼女は異種族特有の人間とはかけ離れた圧倒的な魔力とか身体能力を持っていて、可憐なその容姿から学院内でも絶大な人気を誇っている。
天人族である彼女はその姿と戦い方からワルキューレって二つ名を与えられているから」
と、端末内に表示されている概要欄をチラチラ見ながら説明していた。
ラウについては言わずもがな見聞きしていたが、リノエラについては多分そこまで詳しくないのだろうとは思う。
「成る程、ワルキューレか……」
「そうそう。
あの人って見た目だけなら、ほらこの写真見る感じだと結構可愛い子って感じじゃない?
でもさ、いざ実際に彼女と相対した者の中には剣を握る事を拒む者まで現れたくらいなんだよね。
この人の試合、去年の試合も観戦しに行ったんだけど始まって早々相手がすぐに戦意喪失したり棄権も多くてさ、もう観客からの苦情が多過ぎて結構問題になっていたんだ、だからその後始末は大変らしくて………。
二年連続決勝トーナメントの準決勝までほとんど自ら戦う事が無かったから、そう呼ばれてみたい……」
と、ルーシャの説明を聞くと確かに詳しくないのは当然と言えば当然なのかと納得。
それこそ姉さんみたいな圧倒的な格上と対峙させられて絶望したって感じだろうか……。
俺も同じ状況ならするかもしれない。
そんな剣を拒む程の実力者……。
それが、リノエラという者の実力なのだろう。
実際に戦う力も如何ほどなのか、この目で見れる事に期待もしている。
だが、相手も相手なんだよな………。
「…………。」
「どうかしましたか、シラフさん?」
と、会場の方を眉間にシワを寄せて考え込んでいるとシルビア様が俺を心配そうに尋ねてきたのだった。
「いや、前の試合で少し疲れているだけです。
苦戦はしましたからね」
「そうですか、なら良かったです。
でもあまり無理はしないで下さいね?
その、飲み物も空になっていますし………。
私のがまだ余ってるでよければどうぞ………」
と、余程顔色が悪いのか本気で彼女は心配していた。
その優しさと厚意にはとても嬉しいが、喉が渇いてる訳でもないので俺は遠慮した。
「そこまでしなくても俺は大丈夫ですよ。
ほら、試合もそろそろ始まりますし」
「そうですね……。
その、本当に体調が悪かったら私にすぐに言って下さいね、シラフさん?」
と、彼女の優しさに触れながらも俺はこれからの試合に注目していた。
良い意味でも、悪い意味でも……。
この試合での勝者が次の俺の対戦相手なのだから。




