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炎の騎士伝  作者: ものぐさ卿
第一章 理想の生き方
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第十二話 亡国の遺志

帝歴403年7月12日

 

 賊の男は事の顛末を語り終えると気付けば、ずっと涙を流していた。

 涙と嗚咽が漏れる中、何度も目の前の男は懺悔の言葉と後悔と憤りの感情を吐露し続ける。


 「俺、ほんとに……馬鹿だよなぁ……。

 自分が生きる為に目先の金に乗せられて何人もの人を殺して、駄目なのは頭では分かってるのに……。

 気付けば、何人もの人間の命を踏み台にした……。  この姿になってから………、ただかつての友を、自分の同僚を弔ってやりたかっただけなのに……。

 ほんと、何人殺したんだろうな………。

 帝国が滅びなければ、ラウ達が生きてくれれば俺は、おれは……!!」


 自分の愚かさに、自分の弱さに悲嘆する男の姿に、何を言えばいいか僅かに悩んだが。

 私の得た経験上で出せる答えは決まっていた。


 「お前の、お前達の事情は理解した。

 だが、お前達のした過去は罪は何も変わらない。

 お前が踏み台にした命は本来、失われるはずがなかったはずのもの。

 相応の裁きが向こうで下るだろう、それを覚悟しておけ」


 「ハハハ……そりゃ重々承知の上だよ。

 そして俺から話せる事はこれで全部、以上だ。

 この上で、まだ俺に聞きたい事でもあるか?」


 それを聞き、私は自分の首に掛かっている首飾りを長に見せた。

 黒い八面体の鉱物で構成された首飾り。

 それを見るなり賊の長の見る目が変わった。


 「お前、それを何処で?」


 「私の従者が、とある人物から譲り受けた物だ。

 時が来れば何なのかが分かると、そう言っていた」 


 そしてラウは長に問う


 「私は、ノエルによって造られた存在だ。

 現在は、私が何の為に造られた存在のかを求めて学院に向かう道中ということになる。

 ノエルの助手をしていたお前は、かつての彼女に関わる何かを知っているか?」 


 「ノエル、彼女がまだ生きているのか!?」


 「今から5年前に死亡したよ。

 抱えた持病、お前と同じ重度の魔力中毒と過度な栄養失調が重なった事が要因らしい」


 それを聞くと長は間を開けると


 「そうか……。

 そして、済まないが俺はお前が何の為に造られたのかは知らない。しかし彼女はある研究をひたすら続けていた事を覚えている。

 そもそも帝国はその研究を遥か昔から行っていたんだ」


 「何の研究だ?」


 「神を殺す研究だよ」


 「神だと?

 そんな者が一体何処に存在しているんだ?」


 「分からない、がその存在は確かだ。

 根拠はこの世界中に散らばっている神器と呼ばれる存在だ。

 あれは人間が造った物では無い。

 我々よりも遥か上位の文明を持つ存在、それを俺達の間では神と呼んでいたが………」


 「つまりノエルは何らかの目的を果たす為に神を殺す研究をしていたと?」


 「いや、そうじゃ無い……。

 確かあれは……。」


 長が何かを思い出すと、


 「カオス……」


 「カオス?」


 「確かそうだ。

 カオスの契約者を殺す研究だった……」


 「カオスの契約者……」

 

 自分達の探している存在、それに関しての手掛かりだった。

 ラウは長を更に問い詰めるが、長は首を振る。


 「今の俺にはそれが限界だ。

 俺程度ではこのぐらいの情報しか話せない。」


 「そうか……」


 「そういや、確かお前達は学院に編入するはずなんだよな?」 


 「そうだ」


 「なら学院に、元八英傑のアルス・ローランがいるはずだ。

 奴を訪ねれば必ず力になってくれるはずだろう」


 そして長は名前を名乗る


 「俺の名前はサバン。

 以前、ノエルの助手だったサバンの知り合いと言えばいい。

 それと、お前が持つその首飾りを見せればそれで奴に話が通じる。

 お前の持つソレは、生前ノエルさんが自身の研究室を得た記念に自身の婚約者であった先代皇帝から貰った代物だからな」


 「了解した」


 「こんな事をしておいて言えた義理では無いが、話を聞いてくれてありがとう。

 最後の最後であの人の為になれたんだ、たまには悪くないなこういう人助けも………」


 「そうか、では私は失礼する。

 一度、情報をまとめておきたい」


 賊の長であるサバンにそう告げ、私はこの場を後にする。

 ようやく掴んだ手掛かりに、拳を握りしめる。

 そして、学院に我々の求める物が必ずあると私は確信した。

  

 私が何者なのか、何の為の存在なのかようやく分かる



 ラウの姿が見えなくなると、手下の一人が俺に話しかけてきた。

 

 「珍しく長く話をしましたね……。

 こんな時に……、俺達これから殺されるの確定しているですよ?」


 部下の言葉に俺は何処か楽しげに言葉を返す。

 こんな気分はいつぶりだろうか。


 「そう言うなって。

 俺は人生の最後にとんでもない者に出会えて、恐らく人生で一番興奮している瞬間に立ち会えたんだからな」


 「どういう事です?

 さっきの青年、あなたの知り合いと関係あるんでしたっけ?

 それに、今のあなたの顔少し気味悪いですよ」


 「亡国の英雄が生まれ変わって現れたんだよ」


 「はぁ……。

 全く、頭がおかしくなっているんですよあなたは」


 部下の言葉をよそに俺は笑いながらその場に倒れた。

 俺の今の感情を部下たちは理解出来ずに首をかしげながら船が到着するのを待っているのだけである。


 しかし私は確信した。


 これから世界はあいつによって大きく変わると。

 あの人が残した、最高傑作によって。

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