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炎の騎士伝  作者: ものぐさ卿
第二節 約束の騎士
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第百十八話 予兆か偶然か

 放課後、一人街を歩いているとリノエラからの突然の連絡に俺は渋々応じる事になったのだが……。


 「あー、何かありましたか?

 リノエラさん?」


 「シラフ様、この前の前夜祭以来ですね。

 今、その時間は空いていますか?」


 「ええ、時間は多少空いていますよ。

 主の用事が終わるまでの間ですが……」


 「なるほど、分かりました。

 では、その、今何処の辺りにいますか?

 今丁度、オキデンスの方に訪れているおりますので」


 「場所ですか……。

 そうですね、何か目印になりそうなものと言えば」


 どうやらリノエラは、俺のいる場所までわざわざ来てくれるらしい。

 丁度近くにいるとは言ってたが、ひとまず俺は辺りを見渡し現在の位置を確認する。

 正直、まだ学院周りの地理には疎いので目印になりそうな前方右側に最寄りの喫茶店がある事を伝える。


 「その、自分の目線の先に学院近くにある喫茶店が見える辺りですかね?

 でも、このくらいじゃその………。

 言っても分かりませんよね……、あはは」


 「なるほど…………、喫茶店ですか。

 分かりましたすぐに向かいます」


 そして通話な途切れてしまう。

 え、本当にそれだけで分かるのか?

 というか、一体何の用があって俺に………?

 そんな思考を巡らせていると、突然強い風が吹き荒れると共に上から女性の声が聞こえてきた。


 「ようやく見つけました、シラフ様!

 お待たせしてしまい申し訳ありません」


 思わぬ上空から声に驚き見上げると、翼を広げ悠々と佇む金髪の少女がそこにいた。

 神話における天使を思わせる姿に思わず威光に近い畏怖を覚えたが………。

 そして少女ゆっくりと降下し俺の目の前で降り立つと体を伸ばし話掛けて来た。


 「え………、幾ら何でも早すぎるのでは」


 「シラフ様が在籍している学院近くの喫茶店を、手当たり次第探し回った甲斐がありましたよ」


 「いや、手当たり次第って……。

 さっきの電話からほとんど経っていませんよね……」


 そう、時間で言うならほんの数十秒とかそれくらい。

 彼女が元々何処にいたのか分からないが、それでも元々かなりの距離があったはずである。

 他の店も回ったという話だから、つまり何店舗か経由してこの時間という訳だ。


 「あー、驚くのも無理ありませんよね。

 私達天人族には、この翼がありますから。

 この翼に魔力を掛け、大幅に加速させれば弾丸と大差ない程の速度で飛び回れますから」


 「そうなんだ………へぇ……。

 やっぱり翼があると便利なんですね、あはは……」

 

 笑顔でそんな事を言う彼女に、俺は苦笑いを浮かべる。

 流石、異種族……。

 獣人系もそうだが普通の人間とは明らかに常軌を逸した能力を持っている。

 確か天人族は、獣人程の身体能力は保有しない代わりに魔力量が多く1000年生きるとか長い寿命を保有しているという話だったはずだ。

 生きる時間の尺度が違うのは姉さんを見ていて何となく察しがつくとはいえ、目の前でされると当然反応に困ってしまう。

 本人に何の悪気もないのが何とも……。

 


 「あの……それで俺に何の御用があって?」


 「はい、勿論シファ様の件です!

 あの日からシラフ様から一度も連絡を頂いていないので直接赴いた方がいいかと思った次第です、ええ!」

 

 社交辞令で言ったこと本気にしたよ、この人。

 というかあの場に姉さんも居たのに、何で俺に連絡してきたんだ?


 「ああ……なるほど、そうでしたか。

 でも、以前会った前夜祭から1週間程しか経ってないですよ?

 その、自分もリノエラさんも今は学院の祭典に出場している身ですし……」


 「あっ!

 そうでした……、本当に申し訳ありません。

 流石に気が早かったですよね……」


 俺の言葉にようやく自分の今の行動を理解したのか目の前の彼女は肩を落とし、少し残念そうする。

 何だろう、この人多分凄い人ではあるんだが少し抜けてるというかなんというが、残念な人じゃないのかと薄々感じていた


 「あと、多分今日は姉さんは来れないと思いますよ。

 今日は同室の彼女の見舞いに向かっていますので……」


 「お見舞いですか?」


 「ええ、昨日ローゼンと対戦したシンという人物をご存知ですよね。

 姉さんはその、彼女と同室で暮らしているので今日はそのお見舞いなんですよ」


 「ローゼン……」


 「ええ……、そうです」

 

 彼の名を出した途端、彼女の表情が険しくなった。

 確か、昨年彼女は彼と決勝戦の舞台で戦い一方的な敗北をした記憶がある。

 当然、負けたが故の因縁というか思うところが彼女にはあるのだろうが、あまりの表情の変わりように思わず恐怖する。


 何だろう、自分ってつくづく厄介な女性と絡まれてばかりなんだろうなと再認識せざるを得ない。

 別に自分の主や身内が厄介という訳ではない、うん。


 「はぁ……そうでしたか。

 なるほど、分かりました。

 では後日、日を変えてまた連絡を致しますね」


 「ええ、そうして貰えると助かります」


 次も来る気なんだなこの人。

 まぁ、ちゃんと連絡くれるだけマシか。

 すると彼女は、俺の顔を見て何かを思い出した様子でふと俺の持つ腕輪に視線を向けた。


 「シラフ様、あなたはいつ契約者に?」


 「契約者って……この神器の事ですか?」 


 俺は右腕にはめられた腕輪を彼女に見せる。 


 「はい……。

 随分と馴染んでいる様子だと思いましたので、他の方々よりも明らかに年月に差があるのでしょう?」

  

 彼女の言動に俺は驚く。

 確かに、学院内での他の神器の持ち主は俺の知る限りヤマトのルークスさんと、こっちのシルビア王女くらいである。

 シルビア王女が数ヶ月、ルークスさんも神器を持ってるとはいえ多分長くても3年かそこら辺くらいだろう。

 幼い頃から神器を手にしている自分が目に付いたのは当然と言えば当然か……。


 しかし、彼女は何故そこまで分かったのか?


 「まぁ、俺の年代では珍しい例ですよね。

 確か10年程前だと思いますけど……。

 それが何かありましたか?」


 「十年っ……あの神器の銘は分かりますか?」


 「銘?」


 「あの、分かりませんか……?

 例えば、能力以外に何か見たり感じた物とか見聞きした名前とか心辺りは?」


 「能力以外……」


 俺は彼女の言葉の意味を考える。

 神器の銘……炎刻の腕輪はこっちでの名前だから多分彼女の言う銘とは違うモノだろう。

 そんな物があったのかと思い当たりそうな部分を考えていると不意に何かの姿が浮かんだ。


 赤髪の女……。

 

 確かあれは……もう一人の俺だとか変なことを言ってた奴である。

 その人物が、俺に名乗ったのだ……。

 確かその名前は……。


 「……ヘリオス。

 確かそんな言葉を、聞きました」


 「ヘリオス……。

 では、あなたではありませんでしたか……。

 申し訳ありません、私の見当違いでしたね」


 「あなたでは?

 どういう意味です?」


 「あ、その……。

 いえ……ですが……あなた以外にお話をするのは……。

 ですが、時期と場所を考えるなら………」


 彼女はふとそんな事をぶつぶつと口にし始める。

 色々と内容が気になるところだ。

 そもそも、神器の銘を尋ねた意図が分からない。


 「あの、話くらいは聞きますよ。

 心辺りがあれば何か御力になれると思いますし」


 天人族は長らく人間との関わりを控えていた存在。

 神器について、俺達の知らない何かを知っている可能性もあり得る。

 それこそ、姉さんに関わる話だったり……。

 ラウやシンが関与しているとされる帝国関連の秘密について何か分かる可能性がある。


 「………。

 あなたにはお話しても良いかもしれませんね……」


 僅かに話すか悩んだ挙句、彼女は俺に話す決意を固めた模様。

 とても深刻そうな彼女の様子に俺は思わず息を呑む。

 

 「シラフ様、私達天人族がこちらと関係を深めようという流れが生まれたのはとある目的があっての事なんです。

 私達の元から離れた炎の神器を取り返す為に」


 「炎の神器?」

  

 彼女の言葉にあった気になる単語。

 俺以外にも炎の神器が存在している事もだが、加えて取り返すというのは一体彼女達の元で何が起こっているのだろうか?

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