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炎の騎士伝  作者: ものぐさ卿
第二節 約束の騎士
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第百十七話 控える戦いに向けて

帝歴403年10月8日


 昨日の夕方頃に退院し、帰宅すると俺はルーシャに出迎えられ先日の試合の勝利を彼女は祝福してくれた。

 しかし、勝利の祝福以上に俺が神器の力を振るった事に関してはかなり心配していたらしく、その点に関して俺は彼女に終始責め立てられる始末だった。


 まぁ、長らく神器の力を扱えなかった俺が突然神器の力を使い始めたのだから心配しない訳がない。

 学院に訪れてから俺は、鍛錬中に神器の力を使用して暴走させたり試合の途中にも何かの拍子で発動し大きな被害を与えてしまったりと、やらかした数は考えたくもない。


 しかし、あの試合で俺が神器の力を制御出来るようになった事に彼女は喜んではくれた。

 これで正式な十剣の仲間入りだと誇らしげにルーシャは自分の事のように喜んでくれたがそう簡単な話ではないのである。


 入院の際に、この前の試合で神器を使用した際に起きた自身の姿の変化について、俺は姉さんから釘を刺されたのである。



 「いい、シラフ?

 あの力は深層解放っていうモノなの。

 神器の持つ本来の力を引き出した状態で、歴代十剣でも数えるくらいしか出来なかった代物。

 理由は簡単、その力を扱えるだけの器に誰も至らなかったこと、そして命を前借りするかの如くその身を破滅させてしまう破滅の御業ととでも表現できるのかな。

 あまりの危険性に、リースハイルの代でその技術の継承を禁止させられたのよ」

  

 「深層解放……。

 でも、あの力を俺以外の十剣が使えないなんてことは流石に………」


 「クラウス含めて、あなたより上の現役達は誰も使えないどころか、そこまで神器を扱える器じゃなかったのよ。

 私が幼少期からの神器の契約に反対していたのは、この深層解放っていう技術が主な理由。

 幼少期から神器に馴染ませる事で、深層解放の習得は容易になる代わりに契約者達の平均寿命は今の半分くらい………。

 四十半ばで天寿を全うしたってくらいだし、そもそもそれだけやっても深層解放を習得出来たのは一握りで、十剣では例のハイド・アルクスを最後に解放者が現れることは無かったの」


 「…………」


 「彼が歴代最強と言われたのはこれが主な理由。

 そして、サリアが帝国の統治下に入って以降は大きな戦争も無くなったからって過剰な戦力が不要になった。

 あくまで力の象徴として神器の担い手を十剣として置くという事に定めたの、これに関しては帝国も同意する事を条件の一つに、サリアは帝国の傘下に入ることになったのよね。

 その結果、リースハイル主導の政策として、第一に神器の契約において一定年齢以下に選定の儀をさせる事を禁じたのよ。

 その結果、深層解放に至るまで神器が身体に馴染むことはほとんど無くなった。

 だから、あの力を使える現役は今のあなただけ。

 でも、使えるからって使い過ぎると命に関わるからあんまり多用はしないこと」


 「多用と言うとどれくらいです?」


 「魔力量と代謝にもよるけど、今のシラフなら一日一時間くらいが限度じゃないかな?

 で、一回使ったら三日くらいは最低限安静にしないと代謝が追いつかず、そのまま死ぬんじゃない?」


 と、軽い感じで衝撃の事実を告げる彼女。

 思わず顔が引きつり、正気を疑った。


 「いや、流石に冗談ですよね?

 三日は安静ってそれじゃ身体が使い方を忘れちゃいますよ流石に……」


 「……アレの力を甘く見すぎ。

 まだ発展途上とはいえ、その腕輪の力で既にサリア王国の最大戦力に匹敵している。

 完全に習得すれば、国なんていつでも消し飛ばせるくらい強い力が秘められているの。

 それが、生身の身体で耐えられると思う?

 魔力量が比較的多くて代謝も良いあなただから三日の安静で済んでるくらいだよ?

 相手がシルちゃんなら、一ヶ月の安静は確実。

 もう少し、自分の扱う力の危うさを自覚しなさい」



 と、それ等を含めて俺は長々と姉さんから色々と言われたのである。

 故に、ようやく神器の力を扱えたんだとそう簡単に喜んではいられないのだ。

 いやそれ以前に、俺は再びあの力を扱えるのだろうかと不安を感じていた。


 シグレとの戦いの中で、高ぶった感情から偶然誘発されただけなのかもしれない。

 同じ事を俺はもう一度出来るのかも言われたら、実際のところ不安しかないのだ。

 

 神器の力を扱えるようになったとしても、俺自身の中から炎に対する恐怖が消えたという訳ではない。

 炎の力が扱えても、炎の恐怖が俺の中に残っているのは何ら変わっていない。


 一日二日程度で何とかなるんなら、俺は今の今まで神器の力を扱えなかった事で苦労しなかったのだから。

 

 そして現在、俺はルーシャの生徒会での仕事が終わるまで時間が空いたので一人で外をふらふらと散策していた。

 いつも何かと一緒になる事が多いクレシアやシルビアは片や名のある客人の対応で早めに帰宅と、友人との用事の為に鍛錬を控えますといった連絡が先程自分の端末に連絡が飛んできた。


 わざわざ自分に言わなくても良いのだが、ルーシャに関連するであろう連絡は俺にも一応話を付けて置くべきという判断なのだろう。

 シルビアにも、そろそろ専属の護衛を付けるべきだとは思うが学内では不要、王国内部でも権力争いの材料に成りかねないと言うことで、特に決まった護衛を付けないくらい程。


 専属を設けているのは、彼女の兄達とルーシャくらいであろう。

 しかし、学内でも付ききっきりで護衛を付けるのは目立ちたがり屋かよほど過保護な貴族くらいである。

 当然、ルーシャもその例に漏れず特に用事も無ければ護衛は要らないと言われてしまうくらい。

 

 いや、ルーシャの場合はシルビアへの過保護ぶりが凄まじいので彼女の送迎に俺を出したり、あるいは友人のクレシアに対して護衛として派遣させたり……。


 よくよく考えたら、かなり人遣いが荒いとは思う。

 護衛は必要ないと言ってる割には………。


 「本当に勝ったんだよな、俺……」


 夕暮れの空を見上げながら、俺はふとそんな事を呟いていた。

 

 先日の試合を思い返しながら、俺は今後の事に思考を巡らせる。

 学位序列四位、この学院内における四番目の強さを誇るシグレに対して、俺はどうにか勝利した。

 これからの戦いにおいて、彼女と同列か匹敵する強さの人物達と戦うことになる訳だが……。


 彼等の戦いは一応学院内の記録に残っている。

 どれもかなりの実力を誇りその中で、俺が特段高い評価をしたのがルークスとシグレ、リノエラ、ローゼンの四人である。

 

 目を付けた一人にはお互いギリギリでの辛勝。

 神器の力無くして、勝利は無かった。

 シグレに関して、他と違う点は神器のような特殊能力を何も持っいなかった事。

 魔術を多少行使するとはいえ、人類の持つ能力の限界を突き詰めて技を磨き上げた言わば達人と言うべき存在なのである。


 他の彼等に関しては、神器を含めて人類の持つ能力から何かしら逸脱した能力を持っている。

 ルークスに関して言えば、シグレの尊敬する存在として技も彼女以上か匹敵する実力。

 加えてそこに神器の力、俺の見た限りでは剣にまつわる能力らしいが………。

 加えて、何か俺達とは逸した奥の手とも言える能力を保持している模様。


 で、問題は他二人……。

 リノエラとローゼン。

 リノエラは言わずもがな、俺達人類とは違う天人族と言われる異種族である。

 異文化交流の一環だかで、人類と近年交流するようになった話らしいがその実力は人類の常識を覆す圧倒的と言わざるを得ない。

 

 背にある翼で空を飛び、間合いを保持しながら攻撃を飛ばすのもあるが飛ばさずとも生半可な攻撃は彼女の圧倒的な魔力によって届かない模様。


 そして、ローゼン。

 現在ラークにおいて最強の存在が彼である。

 神殺しの異名を持ち、先程俺が名前を挙げたルークスとリノエラに前年度完膚なきまでに叩き潰した。

 神の遣いとまで称される天人族と、神の力を行使する神器の担い手を倒したが故の神殺しだ……。

 当然、その実力は本物。


 少し気になった点として、彼はこのラークの生まれらしいが素性に謎が多く学院内でもその姿を見ることは少ないらしい。

 八席としての特権で授業を欠席しているだけとも噂は流れているが過去の彼の戦いの映像から並ならぬ鍛錬と経験から発揮されている実力だというのが俺には分かる。

 学院内での戦いでは常に余裕のある様子だが、試合の後には常に余裕のない表情を浮かべている異質な雰囲気を放っていた。

 

 そして、俺が最も警戒するべき相手はラウであろう。

 何らかの目的でサリア王室と関係を持ち、学院への編入許可を得たこと。

 姉さんと接触し、その敵意を俺に露わにして以降いつの間にか彼女と交際関係に至っている。


 奴は一体何がしたいのか、俺には分からない。

 分からないこそ、一番の脅威であろう。

 奴の従者であるシンは、彼の行動に関して自分の存在が何なのかを探りたいだとかの知識欲に由来するとかというのが彼女の見解。

 姉さんからは、別に悪い子ではないから大丈夫だと余裕をこいてる始末。


 正直、その真相を俺が直接問い詰めようにも奴が素直に教えてくれるとは思えないが……。


 実力に関しては姉さんのお目にかかるくらいで尚且つ、結果として俺と同様に決勝トーナメントにまで駒を進めているのだ。

 

 ここまで勝ち上がるくらいだ、当然実力はある訳でこの先も厄介な戦いが続くのは目に見えていた。

 この先の戦いをどうするべきか、対策やら色々と思考を巡らしていると、俺の端末から着信音が響いてきた。

 ポケットから端末を取り出し画面を確認すると、相手はリノエラという名前である。

 

 リノエラという名前に、先程思考していた天人族の彼女の姿が過ぎった。

 連絡先は確か、前夜祭の時に交換した記憶がある。

 何か特別な用件だろうか?

 一応知人ではあるし、何かと緊急を要しているのかもしれないと思ったので俺は彼女の通話に応じる事にしたのだった。

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