第百十六話 勝利を求め、頂きで待つ
俺は強さを求めた。
誰よりも強くなる為に。
戦えば戦う程に俺は強くなる。
だが運命はあまりにも残酷だった。
戦う程に強くなる俺にも限界はあった。
己の生まれ持った宿命が、俺の強さの限界を突き付けたのである。
戦えば俺はより強くなれる。
でも、戦えなくなればそれまで。
俺は、そう遠くない未来で戦えなくなる。
己の意志に反し、己の身体がそうさせるのだ。
つまり俺はもう強くはなれないのだ。
このまま、アイツに一度も勝てないまま俺は半端者の一人として処理され無数の中にある同世代達と同様。
数枚の紙切れと化した被検体の資料の一つとして処理されておしまいなのだ。
勝てないまま、弱いまま。
何の結果も残せないまま、俺の生涯は幕を下ろす。
許せない、認めたくない。
だから俺は抗った、抗うことにしたんだ。
その運命に少しでも、ほんの少しでも抗う為に。
俺は強くなると決めたんだ。
最後の最後まで戦い抜くと。
自身に訪れる最後まで、戦い抜くと。
それが神の決めた定め、いや関係ない。
神だろうと何だろうとその全てを糧にして、己の強さに変えてやる。
話によれば、今年の祭りがどうやら最後らしい。
俺が存分に戦える最後の機会。
しかし幸運な事に、今年の俺は本当に運がいい。
マスターと肩を並べたかつての者が残した俺達と同じホムンクルスがこの祭典に来ているという話だ。
興味が湧いた、いや違う。
奴等と戦い、俺はそれを糧にするんだ。
あいつ等を糧にして、より強くなって……俺は……。
アイツに勝利するんだ。
俺が俺として戦い続ける為に。
己の運命に少しでも、ほんの少しでも生きた意味を見出す為に。
俺の糧となった同世代の想いを汲み取る為に。
俺の最後が勝者である為に………
●
「降参してください、ローゼン」
視界が霞む。
俺の視界を立ち塞ぐ、白い女の姿を前に動けない。
ふざけてる、こんなところで負けるのかよ?
俺の最後の戦いが、死に場所がこんなところだと?
「ふ……」
認めない、あってはならない。
何の為に、俺は何の為に戦い続けた。
勝つ為だろ、勝つ為の糧にする為だ。
それがこんなところで敗北する?
「ふざけるなよ……シン?」
体内の魔力が何らかの影響で固まっている。
結晶化、視界にもまばらだが星のような結晶が目の中を漂っている。
確かに地獄のような苦しみだ。
だが、だが、それでもぬるい、ぬるすぎる。
俺の見てきた地獄とは………。
勝つ為に、生き残る為に俺が犠牲にしてきた彼等の苦しみと比べるまでもない。
「俺は負けられないんだよ?
ああ、お前は強いよ。
取引は成立、最初の発言通りお前達の為に上手く話を付けてやる。
だがな、勝利を譲るとは言っていない」
魔力中毒か何かは知らないが、身体はまだ動く。
アイツがデコイの偽物とはいえ、記憶から能力を生み出せたのなら俺も同様な可能なはずである。
「特別に見せてやるよ、俺のとっておきを……。
光栄に思え、シン・レクサス。
そして、この戦いを見ている観客共もな!」
深く息を吸う、そして俺は体内に秘めたソレに魔力を込めた。
「神器、解放………」
●
「あー、やっちゃったよ。
あの馬鹿ったら、ほんと何を考えてるんだか」
「…………」
「先輩もそう思いますよね?
勝手にアレを使用したら、後で始末書大量に書かされるのわかりきってるのに………。
本当、何考えてるんでしょうね?」
「そうね、本当に馬鹿な子だと思うわ」
「ですよね、本当何がしたいんでしょう」
「本当に、馬鹿な子………。
自分の事しか考えてない、大馬鹿者よ」
●
目の前の男の変化に私は驚愕した。
己の身体に訪れた限界を忘れて、目の前に立つこの男の変化に私は目を離せなかった。
私のマスターであるノエルはグリモワールの模造品であるグリモワール・デコイの製造に成功し量産化の理論を打ち立てた。
そして目の前のこの男が何者なのか私はようやく理解した。
ノエルの師であるアルクノヴァ・シグラス。
彼の行った研究の一つに神器の人工的な製造及び量産化が存在していた。
何故今まで私は気づかなかった?
私の目の前の彼は、人工神器に初めて適合したホムンクルスの一人なのだから。
第三世代ホムンクルス、人工神器の契約者の量産化。
ほんとうにやってくれましたね、アルクノヴァ。
流石はマスターが認めるだけの……
そして、マスターは第四世代を完成体だと……。
つまり、二人は……コレを見越して………。
「待たせたな、シン?
これが俺の持つ奥の手中の奥の手だよ」
そう言って、その手に持つ赤く禍々しい幾何学的な魔力の光を放つ剣を握った彼がその剣を私に見せつけてくる。
「神器、デウスエクスマキナ・アルファ。
世界初の人工神器の完成形だ。
これが俺達第三世代ホムンクルスの真の力だ」
「そういうことですか、貴方は……」
「さあ、決着をつけようかシン!!!」
そして、敵は私目掛けて神器を振り被る。
その瞬間に私の中の魔力が底を尽きた。
反撃が、防御が間に合わない。
身体が限界迎えた、これ以上はもう………。
申し訳ありません、ラウ様………。
私は………ここで………
衝撃が辺りに響き渡る。
しかし、身体は何処にも異常はない。
誰かが私の身体を抱きかかえて………。
ゆっくりと目を開けると、本来ここに居るはずのないラウ様が私を身を呈して庇っている姿がそこにはあったのである。
「ラウ……様?」
「無理はするな、シン。
これ以上無理に戦う必要はない」
彼の右手には錬成されたと思われる黒い銃がそこにありローゼンの攻撃を難なく受け止めていた。
「ラウ・クローリア?」
「戦いはもう十分だろう、ローゼン。
結果はもう見えている。
いや、今のお前に自分が何をしようとしていたのかすら分かっていないのか?」
「……なるほど、これは面白くなってきたな。
つまり、今度はお前が相手をすると?」
「………お前がこれ以上彼女に危害を与えようとするならば、その抵抗は辞さないつもりだが。
ローゼン、お前は本気で今ここで戦うつもりでいるのか?」
「…………。」
「…………。」
緊迫した状況の中、試合の途中に乱入してきたラウ様に向かって祭典の係員が彼を引き戻そうと集まってくる。
しかし、彼を押さえつけようとした彼等をローゼンは遮った。
「ソイツに構う必要はない。
シン、試合の結果はどうする?」
「私の敗北で構いません。
ですから、ラウ様の身に関しては何卒寛大な……」
「面白くなってきた。
いいぜ、その提案に乗ってやる。
ラウ、俺の戦いに横槍を仕掛けたくらいだケジメは付けてもらうぞ?」
「……私に何を要求するつもりだ、ローゼン?」
「簡単さ、俺の元まで勝ち上がってこい。
このままお前が勝ち進む事になるなら、決勝という最高の舞台において俺とお前はぶつかる事になる。
これが面白くないなんてことはない、そう思わないか、なぁラウ様?」
「………そうだな。
私もお前とは決着を付けるべきだと判断した。
その提案を受けよう。
ローゼン、貴様も私との戦いを前に敗北することのないように」
「当然だろう、俺は学院最強を冠してるんだ。
むしろお前を待っててやるよ、ラウ・クローリア。
この学院の頂きでな?」
彼の言葉を聞き終える間もなく、私を抱えてラウ様は戦いの舞台を後にする。
「ラウ様………。
私、本当にご迷惑を……」
「私は何を言われようと別に構わない。
今は身体を休めておくといい。
後は私を信じて任せてもらいたい」
そう言ってラウ様は私に優しく語りかけてくる。
でも、その優しさの中に静かな怒りの感情感じた気がした、気の所為だろうか?




