第百十五話 固執した、そのあり方に
力の前には無力だった。
俺は固執した、より強い力を得る為に……。
それでもアイツには届かなかった。
幾ら戦いを挑もうと、一度も勝てない。
あの目を見る度に苛立ちを覚える。
あの炎に俺は何度も俺を地に落とされた。
アイツに……俺は一度も勝てなかった。
力求めた、より強い力を………。
気付けば、俺の同世代は皆淘汰されていた。
違う、俺が全てを淘汰したのだ。
それでも一度たりとも、俺は勝てなかった。
勝てないまま、月日は流れる。
俺は強くなれる、戦えば戦う程に強くなれる。
だから俺は戦いを求めた、より強くなる為に。
アイツよりも強くなる為に……。
●
「なら、試してみろよ。
お前の全力を、俺に放ってみればいい」
目の前の男は私にそう言い放った。
正直これ以上の戦いはかなり不味い。
引くべきなら今だろう、今ならまだ間に合う。
この男とのこれ以上の戦闘は私にとって不利益になり得る。
でも……、ラウ様はどう思うのだろうか?
私に期待してくれているのだろうか?
私を必要としてくれているのだろうか?
記憶の中のあの人の姿。
周りには基本的に無関心。
でも、でも……無関心なだけであって……。
私を蔑ろにはしなかった。
私の事を信じてくれた。
だから私はラウ様と共に学院に向かう選択した。
あの人の為になりたくて、だからこそ………。
ラウ様がこの祭典で戦い抜く選択をした以上。
私もこの戦いを最後までやり通す。
「…………。」
気付けば私は再びナイフを握っていた。
魔力を込める、そして一呼吸を置く。
「グリモワール・デコイ、起動……。
対象の観測を開始……」
再びグリモワールを使用する。
彼の話通りならば同じ方法は通用しない。
同じ魔術、攻撃、戦術は通用しない。
魔力量及び出力も私は目の前の彼に及ばない。
ならば、私が、私だけが出来ることをするまで。
私に出来るだろうか?
いや、私が可能だと証明すればソレは本物を持つあの方も可能であると証明出来るだろう。
「再演算開始、及び再構築の申請………」
あの日々を、あの時を思い起こす。
私が、私だけが知るあの日々を、あの戦いを………。
水晶に包まれた街達、そして………
白き銃を携えた、あの勇ましき少女の姿を………。
「再演算完了、形態移行を開始………」
髪が白く染まっていく。
そして淡い青の魔力が身体が漏れ出ていき、私の前に透明な水晶の刃が現れる。
氷の刃のような魔力の冷気のようなモノを帯び、目の前の彼は僅かに震えていた。
「その姿………まさか神器の?
いや違う、その魔力……貴様その力を何処で見た?」
「かつて、生前のマスターと共に帝都オラシオン二訪れた際に私が得た記憶を元に生み出したモノです。
そしてこの姿は、私が以前戦ったサリア王国第三王女であるシルビア様の御力を活用させて頂きました」
「何だと?
あり得ない、あの魔水晶の解析は未だに俺達マスターでも困難な代物だぞ?
それをノエルのホムンクルスの末端風情が再現しただと?」
「あくまで擬似的な代物です。
その力を制御する為に、シルビア王女の神器の力を再現し私の扱いやすいように加工したんです」
「面白い、その力で俺を燃やすのか?
それとも姿通りに氷にでもするのか?」
そう言って、私に攻撃を仕掛けてきた。
当然私は例の短刀を振るうも、彼はそれを回避し私の背後に周り攻撃を仕掛けてきた。
私の身体は追いつかない……だが、十分。
「っ?!!」
彼の動きが止まった。
当然だ、擬似的とはいえあの魔水晶と同性質のモノにホムンクルスが触れたのだから。
アレだけの大量の魔力を全身に内包し滝のように垂れ流す彼にとって、この魔水晶の性質はあまりに毒性が強すぎるのだから。
「ゔぁぁぁぁっ……?!!」
私に触れる事も叶わず、彼は目の前で膝を落とした。
当然だ、今現在彼の体内は人間でいう重度の鉛中毒にも似た症状が出ているのだから。
それもホムンクルスならば、人間よりも魔術的な構造の割合が多い為毒の周りが非常に早い。
帝都に存在するあの魔水晶には劣る効力だが、あの至近距離で耐えれるホムンクルスはまず誰も居ない。
「お前っ………俺に何を……?!」
「ただの魔力中毒ですよ、ローゼンさん。
私が生前、マスターと共に見た帝都オラシオンで起きた全てをあなたが今体験しているんです」
「魔力中毒……いや、そんな……」
「ホムンクルスは他の生物と違い、物理的な耐性は他よりも優れていたとしても魔術及び魔力による影響を受けやすい事はご存知のはずです。
そして今現在、あなたの体内組織はあの魔水晶と同質のモノに侵されているんです。
ソレはたちまち全身に巡り、あなたの身体を確実に死に追いやるモノですが………」
「そんな馬鹿な話が………?!!」
「ええ、馬鹿な話ですよ。
そんな馬鹿な魔水晶に関わった事で、マスターは死にましたからね?
本当に馬鹿な事ばかりする人でしたよ。
あんなにお酒ばかりので、ほんとに救いようのないくらい酷い人でした。
でも……、私はそれでも、あの方に託された。
ラウ様を託されたから、私はここに居るんです」
私男にそう言い、水晶の短剣を彼に向ける。
「戦いはもう十分でしょう、ローゼン?
降伏してください。
無駄な犠牲を出したくはありません」
「っ………」
当然これが使用者である私に対してのみ全くの無害なんて都合の良い話はない。
いや、それ以上にこれは私にとって一番の毒。
彼に放っている魔水晶の汚染は、私の体内でろ過した魔水晶の魔力のごく一部によって作用しているのだから。
そう、だから……。
私はもう動けない。
このまま、勝負がついてしまえばそれでいい。
あの人の前で醜態を晒してしまうその前に……。
「降参してください、ローゼン」




