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炎の騎士伝  作者: ものぐさ卿
第二節 約束の騎士
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第百六話 その炎に応えたい

 たかが一刀、されど一刀。

 一撃で、また一撃で私のカタナは断ち切られる。

 私の目の前で、私の技がまた一つ、また一つと目の前の炎に消えていく。

 まるで泡沫の夢を見せられているかのように、私の技は目の前の剣士に届かない。


 「っ!!!」


 一撃、また一撃と加速する。

 私の刃が、私の技はより速く、より重く

 より鋭く、刃は放たれる。


 しかし………


 「こんなっ!!」


 届かない。


 「まだっ!!」


 届かない、届かない………。

 それどころか、遠くなる………。


 「まだ私は戦える!!!」


 戦いの形勢は、こちらが優勢。

 私の攻撃の方が、覚醒間もない今の彼よりも技と速度は遥かに上だ。

 向こうは防戦一方、しかし………。


 「っ!!!」


 激しい熱と音と共に刃が目の前で融解する。

 彼の剣に触れる間もなく、私の刃が融けてなくなるのだ………。


 私の刃を雪や飴細工と同列だと蔑まれた気さえ覚える程に、私と目の前の彼との実利差は明白だった。

 

 「こんなところで!!!」


 一刀が融けてなくなる、その直前に空いた手に魔術を行使し新たな刃を錬成、次の刃を放つ。

 その繰り返し、魔力と体力の消耗があまりに激しく数分の維持が出来れば上々だろう。


 だが、魔力と体力の消耗以上に………。

 

 「っ………はぁはぁっ……!!!」


 熱い、身体が焼けるように………。

 喉が焼ける、あの熱量を前に私の身体が悲鳴を上げている。

 でも、今引いては形勢が覆ってしまう。


 攻めろ、動き続けろ。

 有余は与えない、隙を与えてはいけない。

 届かせろ、炎が……この程度の熱で私のカタナは……。


 私は折れてはならない!!!


 「はぁァァァ!!!」


 「っ!!!」


 お互いの剣筋が交錯した。

 衝突間もなく、幾度となく折られた私のカタナは形をようやく保ったのだ。

 彼の剣が初めて私と鍔迫り合った。


 「私も勝ちたい、あなたの炎に……!!」


 力一杯に、彼の剣を押し退ける。

 そして、不動とも言えた彼の剣がようやく上に浮いたのだ。


 「っ!!!!」


 好機を間もなく、握っていたカタナがまた一つカタチを失った。

 でも、幾本目となった次の刃は既に私の手の下へ……。


 この距離では熱で肺が焼けるだろう。

 でも届く、私の刃は彼に届きうる………。


 いや届かせるんだ、この技を………。

 私の持ちうる最高の絶技を………。


 今ここであなたに勝つ為に!!


 唱えよう、その言の葉を……

 口にしましょう、その名前を

 その御技を預かる身体にその一銘を……


 「ヤマト流剣術………」


 我が刃、この御技を身体が身卸し成す為に

 我が最奥、今カタチを為さん


 「…………三千年草ミチトセクサ


 私の持つ、最強の絶技。

 神速を超える神速にて放たれる五連撃だ。


 防がれた試しのない私の持つ最高の技。

 一撃、一撃と、彼の身体を斬り伏せていく。


 私の刃が一撃を放つ度に融けてく。


 それでも全てが消える前に………。


 私はその目で捉えたのだ。


 最後の一撃が彼の身体を焼き貫いた瞬間を……。


 間もなくして、攻撃の余波で私達の身体が大きく吹き飛び意識が消え去った。



 視界が霞む中、全身に激しい痛みが遅いかかる。

 身体が斬られた、彼女の技に俺の身体が傷を負ったのだ。


 爆発の衝撃が傷を開かせるが、それ以上に自分の身体はその傷を治そうと無理やり治ろうとしている。

 激しい痛みに、俺は歯を食いしばるが徐々に俺はこの炎の力に適合している。


 彼女の鬼気迫る攻撃が視えつつあった。

 溢れる力が徐々に自分の身体に馴染んでいく。


 この力の扱い方がようやく分かってきた。


 「………。」


 僅かに霞む視界の先に俺は、目の前の剣士を捉える。

 勝たなきゃならない。


 俺に全力を示してくれたこの人に応える為に。


 目の前の剣士の全霊に、俺も全力で応える。


 「っ………嘘でしょ………私の全力が………?」

 

 慢心創痍の身体の剣士。

 しかし、それでも尚。

 傷ついた身体を鞭打つように彼女もまた俺の意思に応えるように再びカタナを錬成した。


 戦う意思はまだ残っている。


 「今度は俺の番です、シグレ!」


 踏み込んだ、そして一撃を………。

 彼女が反応するまでもなく、向こうが認識する頃にはその手に握られたカタナは目の前から消失していた。


 「っ?!!!」


 次の一撃で終わるかに思えた。

 でも、彼女の目からは闘志は失われていなかった。


 一撃を振るう直前、目の前から彼女が消えたのだ。


 「っ?!!」


 そして、俺の死角から気配を感じて間もなく。

 俺は背中に一太刀を受け、僅かに態勢を崩す。

 追って振るわれた追撃には反応し、俺はすぐさま彼女から距離を取る。


 どうやら、そう簡単に勝ち星はくれないようだ。


 「………全く、大したものですよ。

 私の目標としている人よりも、今目の前にあなたがこれまで戦った誰よりも強いだなんて」


 「…………。」


 「流石は神器の使い手、神の恩恵を受けたというのはあながち間違いではないようです。

 その力、強大で権威の象徴。

 世界の歴史において、大きな歴史の動きには神器の力が介在していた。

 あなたと剣を交えて、いや交える事すら今の私では困難を極めてしまうとは、本当に神器というものは厄介極まりない存在ですよ、シラフ」


 そう言って彼女は一息間を置き、口を開いた。

 

 「私の二つ名は、武神と呼ばれているそうです。

 全く、当の私としては不名誉極まりない名を冠してしまったとたまに思うのですが………」


 「…………」

 

 「ですが、それでも今この時、私は初めてその名を冠して嬉しいと感じています。

 あなたのような剣の使い手と戦うことが出来た事に」


 「そうですか」


 「ええ、しかしいかにこちらの技が優れていようと、あなたの炎を前にしては刃が届かないようですから。

 ですが、それだけです。

 届かないのなら、届くまで私は技を振るうのみ」


 そう言ってシグレの魔力が再び上昇する……。

 彼女の心は折れていない。

 流石だろう、いや俺も同じだ。


 劣勢になろうが、諦めなかったから。

 俺は、目の前存在に勝ちたい思ったから立ち上がった。


 何度でも、何度でも……。

 だから彼女も同じなんだ。


 「八席や王族としての責務ではありませんよ。

 ただ私もあなたには負けられないだけです。

 私も負けたくないんです

 あなたに勝ちたい、勝たなければならない。

 私の在り方を示す為に……。

 私が私である為に、私の意志を貫く為に……」


 そう言って、彼女は再び魔術でカタナを錬成し始める。しかし、現れた一振りのソレは彼女が今までに生み出したどのカタナよりも高い魔力が集約しているのである。

 姿を現したカタナの全貌に俺は驚愕する。

 炎を纏った黒い片刃の直剣……。


 まるで俺の握る炎の力を模したかのように……。


 「魔刀、煤祟(ススタタ)リシ灼陽ノ剱(シャクヨウノツルギ)

 あなたが覚醒し成長するなら、私もまた成長する。

 あなたに勝ちたいから。

 あなたがその身で神に近づくなら、私は自らの足であなたの力に追い付くまでです。

 私の技が、その刃があなたに届くまで……」

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