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炎の騎士伝  作者: ものぐさ卿
第二節 約束の騎士
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第百五話 炎の覚醒

帝歴403年10月6日


 私は全力を放った。

 持てる力の全てを、あの技に込めた。

 しかし、攻撃の瞬間。

 私の刃は確かに捉えたはずなのに……、この違和感。


 技を終え、余韻に浸りつつある身体を奮い起こすように私は視線を右手で握り締めるカタナへと向けた。

 剣先が消えていた、それも根元から跡形もなく消えていたのだ。

 

 騒然とする会場の雰囲気。

 後ろから感じる異様な気配。


 何かがおかしい。

 何だ、何が起こっている?

 先程の彼の身に何が起こった?

 

 先程の悪あがきにも等しい惨めな様とは思えない、最後の瞬間……。

 私の攻撃は確かに捉えたはずなのだ………。


 視線をゆっくりと後ろの存在へと向ける。

 激しく燃え盛る炎を纏った剣を持つ存在がそこにいた。

 その髪は赤く染め上がり、まるであの燃え盛る剣と同様の炎を彷彿とさせる。

 炎を纏った剣、私の握るカタナと似た細く華奢な一振りと言えよう。

 しかし纏っている炎の熱量が桁違い。

 刀身の一番近いところに至っては、蒼く燃え盛っているのだ。

 これだけ離れているにも関わらず、この位置にまで火傷しそうな程の熱が伝わってくる。


 「その姿は……一体?」


 あれが、シラフの……サリアに伝わる神器の力。

 でも、あの姿は何だ?


 ルークス様の扱う力とは違う。

 神器によってあんな姿に変わるとは、私は見たことも聞いたことも無い。

 先に行われたシトラ・ローランとの試合でも彼はあの姿を見せなかったのは確かだ………。


 この場になって、使わざるを得なかった。


 あるいは………。

 私との戦いを通じて、何らかの力に目覚めたとでも言うのか?

 

 気付けば私は震える右手を左手で抑えつけていた。


 私は恐怖していたのだ。

 炎の化身と化した彼の存在に………。

 


 端末越しに見える彼の変貌に、私達は激しく動揺していた。

 燃え盛る剣を携え、その全身すらも炎の衣のようなもので身を包みまるで別人と化したかのようで………。


 「シファ様……。

 シラフのあの姿は一体……」


 私はその様子に耐えかね、彼女に彼の変化について訪ねる。

 彼女の顔を見ると、私と同じく驚いた様子。

 それもそうだろう、だってシラフは神器の力を扱えた試しがこれまで一度も無かったからだ。

 だから、今回が初めて彼が神器の力を扱った状態。

 しかし、私達の知る神器の力と彼の変化は全く合致しないのだ。


 武器から力が溢れる、あるいは武器を通じてその力を行使するのが神器の力。

 妹のシルビアは愚か、祖国の彼と同じ十剣であるクラウスさんやアストさんに至っても同様。

 今の彼のように、その見た目や姿形が大きく変化するなんて事はないのである。


 「アレが、シラフさんの神器の力?」


 シルビアも少し怯えているような驚きの反応である。

 神器を扱う当人があの反応なら、やはり今の彼の変化は本来あり得ない光景なのだろう。


 「………深層解放。

 まさか、本当に成し遂げたというの?」


 深層解放、そう彼女は告げた。

 それがシラフの変化と何か関係があるのか?


 「シファ様、それは一体?」


 「神器の力の一つだよ。

 神器の担い手の中でも、ほんの一握りしか扱えない最奥の力だよ………。

 十剣の中でもかの英雄以来誰も到達出来なかった力」


 シファ様の驚きように、私達は言葉を失った


 何故なら彼が神器の力を扱えない事実は、この場にいる全員が知っている事。

 彼が神器を使えば必ず異常をきたし最後は倒れてしまう事を分かっているからだ……。

 なのに彼は、神器の力を使用し担い手の中でも限られた存在しか扱えない力を使用したと、シファ様は仰っているからだ。


 到底、信じられない。 


 「シファ姉……。

 シラフ、本当に大丈夫なのかな……?」


 「分からないよ……。

 私、シラフが神器の力をまともに使うところなんて一度も見た事無いし……。

 そもそもの深層解放なんて、数えるくらいの例しか知らないからアレが本当にその力なのかも分からない。

 でも……」


 「でも?」


 「シラフが何らかの要因で神器の力を覚醒させたのは事実だと思うよ。

 炎に対する恐怖に、何らかの要因で打ち勝ち今のあの姿に至ったこと。

 どうして今になって当然なのかは分からないけど」


 変貌した彼の様子を心配そうに見つめる彼女。

  

 「シファ様、シラフのところに向かって下さい……」


 私はそう彼女に訴えかけた。


 「ルーシャ……?」 


 「私は彼を信じています……。

 でも、いざという時に私達には彼をどうする事も出来ません。

 でも、シファ様ならいざという時に彼をなんとか出来る力があります。

 ですから、私達の代わりに向かって下さい……。

 どうかお願いします、シファ様………」

 

 「分かった……。

 シラフの事は私に任せて。

 ルーシャは彼の戦いを見届けてあげて。

 あなたの想いは、きっと彼に届いてくれるはず」


 「はい………」


 「じゃあ私は行ってくる。

 リンちゃんも、ここでルーシャ達とお留守番ね。

 大丈夫、何かあったら私が必ず彼を止めるからさ」


 そう言って、彼女はシラフの元へと急いで向かった。


  

 全身が燃えるように熱い。

 しかし、今までの感覚とはまるで違う。

 激しい熱量が身体から溢れてくるが、その熱は今の俺にとてつもない力を与えてくれている。

 蓄積していた疲労感が薄れ、溢れるような全能感。


 燃え盛る剣を握ろうと、恐怖以上に炎が俺に力を与えてくれる。

 

 見た目や身体の変化以上に、溢れ出るこの圧倒的な魔力の流れ……。

 今まで感じたこと無い感覚だが、炎の熱に包まれても恐怖ではなく、確かに俺に力を与えてくれる信頼が今の炎には存在している。


 「その姿は一体なんですか、シラフ?」


 「………自分にもよく分かりません。

 でも、これであなたに追い付ける」


 「追い付ける………なるほど……。

 その謙虚さ本来あなたの優れた美点でしょうが、今のあなたを見ていると無性に怒りを覚えますね。

 その力を私に今のまで隠していた事実に」


 「別に、隠していた訳ではありませんよ。

 今の今まで、俺はこの力を扱えなかった。

 でも、あなたに負けたくなかった。

 勝ちたかった、そして超えなきゃいけないと思った」

  

 「………」


 「もう二度と失いたくないから。

 守ると決めた人を、守り抜く強さが欲しかった。

 だから、俺は勝たなきゃいけない。

 俺を信じてくれた人の為に、俺は目の前のあなたに勝たなきゃならないんだと………」


 「全く、面倒な役割に回っていたようですね。

 ですが、戦いはこうでなくては……」


 そう言うと、折れたカタナを放り投げ新たなカタナを魔術で錬成する。

 先程までのモノとは違い、俺の握る剣と同じ炎を纏った一振りである。


 「その姿、まさに英雄そのもの……。

 ならばこちらもあなたの誠意に応えなくてはなりませんからね……。

 炎には炎、剣には剣を……。

 神の力。

 確かにあなたの力は脅威です。

 ですが、人が扱う以以上、それは人の域の力。

 ならば如何様にも私には勝ち筋はあります。

 人はカタナで斬れますし、そして殺せますから。

 あなたのその力、その全てを私は斬り伏せる」


 顕現した炎の刀を目の前の彼女は握り締め、剣先をこちらに向けた。


 「さぁ来なさい、シラフ。

 私の炎と、あなたの炎。

 どちらが真に勝るか、白黒はっきりとさせましょう」


 「勿論、俺もそのつもりです。

 決着をつけましょう、シグレ」


 お互いの吐息が合図に、その時は訪れる。

 嵐の前触れにも似た静けさは、間もなくしてかき消され灼熱の炎が俺達を包み込んだ。

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