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炎の騎士伝  作者: ものぐさ卿
第二節 約束の騎士
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第百四話 全てを燃やせ

 かつての記憶を思い返し、ふと意識が別な場所に戻っていく。

 何処が上か下かも分からない暗闇の中。


 その中で、俺は先程過ぎ去った過去の記憶を再び思い返していた。

 

 弱い自分が嫌だった。

 だから俺は、がむしゃらに力を求めていた。

 そんな幼少時代から代わり映えしない記憶。

 違うとすれば、その幼さ故に自身の力の使い道をそこまで考えもせずにいたことだろう。


 ただ強くなりたかった。

 怖かったから、また失うのが怖くて……。

 姉さんの圧倒的な強さを見て、そきて剣を教わった。

 剣を覚えるのはそこまで難しい事では無かった。

 でも、例の神器だけは扱えずに倒れてしまう日々。


 周りの人々からは当然陰口を叩かれた。

 俺だけならまだ良かった、それが姉さんやルーシャに及ぶのが嫌だった。

 俺の弱さのせいで、俺と関わった人達が傷つくのが嫌だった。


 でも、それでも……。

 自分の傷を顧みず、俺に手を差し伸べてくれたのが姉さんやルーシャだったんだ……。


 その手に、その声に、俺は支えられていた。

 だから、今はどれだけ辛くても………。

 いつか、いつか必ず応えたい。


 俺を信じてくれた、大切な人達の為に……




 『あなたの騎士になります。

 僕を必要としてくれたあなたを守る為に』




 『僕はいつか、この国で最も強い騎士になりますよ。

 サリアの民達が、あなたと僕を心から誇りに思える存在だと示せるように……。

 僕を認め、信じてくれる。

 あなたの為に』



 

 過去の自分がかつて、ルーシャに告げた言葉。

 俺は、その言葉を果たせただろうか?

  

 言葉通り、俺は彼女を守れたのだろうか?

 彼女の騎士に相応しかっただろうか?


 いや、駄目だ。

 結局、俺は今も弱いままだ……。

 十剣に選ばれたとしても、俺は神器を扱えない。

 あの時から何も変わってない。

 気付けば無能の騎士という悪評が祖国では定着した。


 俺のせいで彼女により酷い悪評が付いているのだ。

 

 このままでいいのか?

 守ると誓った人を、自分のせいで傷付けてしまっているのにか?


 お前は結局弱いままだ。

 これまで誰一人守れていないのだから。


 守れる強さが欲しいと望んだ。

 その為に俺は、誰も失わずに済む強さを求めた。


 姉さんに剣を教わったのもその一つ。

 



 『いつか君に本当に守りたい存在が出来た時に。

 その時君が大切なその人を守れる為にね』



 

 自分が本当に守りたい存在……。


 自分にとって大切な人……。


 悲しみの欠けた自分にとって、涙を見せたくない人。


 不意に脳裏にとある言葉が流れた。

 ルーシャの親友であるクレシアに、以前面と向かって言われた突拍子もない言葉を……。


 「私を守ってくれるよねシラフ……。

 私を悲しませない為に……。

 自分が悲しまずに済む為に」

 

 悲しむだけで済むのか?

 俺はサリアの騎士として、ルーシャ・ラグド・サリアの騎士として彼女を守り抜くと誓った。

 姉さんやリン、俺が得たもう一つの大切な家族をもう二度と失わせない、失いたくない。


 俺のせいで、誰かが傷つくのは嫌だ。

 強くなると決めたじゃないか………


 なのに、俺はこんなところで負けられない。

 俺は騎士だろ……?

 主に忠誠を誓い、主の身を守るのは当然の務め。

 騎士として、俺は守ると誓ったんだ。

 

 炎の神器に選ばれたこと。

 実の両親を炎で失い、あの日の恐怖が今も俺を縛り付ける。

 ほんの小さなろうそくの灯火でさえ、直接火を見るだけでも身体は恐怖で動けなくなる。


 もし再び、あの時のように炎の中に居たらどうする?

 俺の大切な人達が、あの炎で苦しんでいたら。

 

 俺を信じてくれた人達が、あの中に居たなら。


 今のように、俺は動けず目を背けるのか?

 逃げるのか、また失う事になるのに?

  

 そんなの嫌に決まっている!


 失うのはもう嫌なんだよ!!

 だから、だから俺は絶対に見捨てない。


 俺は守ると誓ったんだ!!

 あの日の後悔を繰り返さない為に!!


 火が……炎が、恐怖がなんだよ………。

 関係ない、そんなもの全部燃やしてしまえ!!

 騎士としての務めを果たす為に!!!


 その身を燃やせ、全てを燃やせ!!

  

 全てを糧に、己の全てを炎に変えろ!


 もう二度と、誰も失わせない為に!!


 もう二度と、同じ過ちを繰り返さない為に!!!



 身体が熱い。

 全身が燃えるように熱い。

 灼熱に包まれる中、俺の意識が目覚める。


 試合は終わっていない。


 目前の敵は、目の前の剣士は俺を待ち受けている。


 超えなくてはいけない。

 戦いを通して、彼女は成長している。


 俺も同じだ、同じなんだ。

 炎がなんだ、そんなの関係ない。

  

 全身が燃え尽きるまで、最後まで戦い抜く。

 相手への敬意、俺の覚悟を示す為に。


 超えなきゃいけない。

 目の前の恐怖を、炎の恐怖に打ち勝つんだ。


 燃やせ、全部を、俺の全てを燃やし尽くせ!!

 俺の剣が、俺の炎が目の前の剣士に届くように!!


 「進め……」


 一歩でも前に……


 「進め……、進め………」


 一歩、一歩を確実に踏み込んでいく。


 剣先が激しく燃え盛る。

 炎は広がり、剣の全体を………。

 やがて俺の全身を包み込むように……。


 「全てを燃やせぇぇぇ!!!」

  

 絶叫と共に全身を炎が包み込んで間もなく。

 目の前の剣士の間合いに俺の身体が入り込んだ。


 一瞬の閃光、遅れて激しい爆発と共に会場全体が大きく揺れた。


 激しい爆発の余韻の如く、そよ風と共に開花する。


 「ヤマト流剣術……山茶花」


 それはまるで剣技の花が開くかのように、炎の爆発がまるで花びらが開くように広がっていく様。

 彼女の絶技に、会場全体が騒然とした。


 だが、俺の身体は存在している。

 身体はまだ動く………。


 戦える。


 俺はまだ、戦える。


 溢れる熱量に身を任せ、待ち受ける剣士の元へ歩み始める。


 身に起きた変化を認識したのは、

 その直後の事である。

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