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炎の騎士伝  作者: ものぐさ卿
第一章 理想の生き方
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第十話 過去の英雄

 帝歴403年 7月12日 深夜


 こちらの引き起こした事件後、俺のその仲間は船内に用意されていた獣用の檻の中に監禁されていた。

 自身の手下達が多少悪態を吐きながらも諦めた素振りで大人しく座り込み、この後に待ち受ける法裁きただ待つのみである。


 昨夜の襲撃作戦は突如現れた乗客の青年によって失敗に終わった。 

 彼の攻撃を受け重症になった者達を除き、自分を含めた比較的軽傷の5名は檻の中にいる。


 そんな時に、その檻を尋ねる一人の物好きな足音が聞こえてきた。


 「俺達をわざわざ笑いにでも来たのか……」


 檻の前にて立ち止まった者に視線を僅かに向ける。

 薄暗い空間の先で視界に捉えたのは、自分達をたった一人倒したあの黒髪の青年であった

 

 「少し、気がかりな事があった」


 「気掛かりだと?」


 「何故あの時、動かなかった?

 あの時、悪あがき程度でも人質を盾にすれば多少の時間稼ぎ程度は出来ただろう?」


 そんな事か……。

 そして俺はその問いに答える。


 「お前相手に無駄だと思った……それだけだ」


 「そうか」


 訳の分からない事を聞いてくる青年に対して、とりあえず俺は興味本位に奴の名前を尋ねる。


 「お前、名は?」


 「……ラウ。

 ラウ・クローリアだ」


 その名前を聞いて、俺は何処か懐かしさを感じた。

 薄暗い中、僅かに見える青年の姿が何処か昔の知り合いに似ていた事に気付き、その面影をそいつに重ねていた。


 「ラウか………。

 そういえば、昔の知り合いにそんな奴がいたな……」


 「知り合いだと?」


 「そうだ。

 かなり昔、帝国時代に一緒に同じ場所で働いてた奴だよ。

 確か名前は……」


 何故こんな事を、目の前にいる奴に話しているのか分からない。

 ただ何故か、気付けば口が動いてた。


 「ラウ・レクサス。

 20年前に死んだ、帝国の英雄だ」



 帝歴403年 7月13日 


 昨夜の事件から一日過ぎた朝。

 シンとの話を終えた後、俺は姉さん達と朝食を共にしていた。


 しかし、朝に聞いたシンの事が気掛かりで俺の食事の手はあまり進んでいない。


 「シラフ、ご飯食べないの?」 


 姉さんが心配したのか、話し掛けて来る。

 俺はそれに応じた。 


 「朝の事を考えてたからかな……。

 ちょっと今はそんな気になれなくてさ」  


 「朝の事……。

 ああ、確かシンって人がシラフの元に訪ねて来た事だっけ?」


 「ああ、あのラウって奴も一緒だ。

 どうやら、俺に話があるらしい。

 自身とラウについての事だって言ってたよ」


 「自身とラウについてね……」


 「いや、昨日の事件の事があったからさ……。

 ほら、あいつ……。

 ラウの強さが明らかに俺達とは異質だったろ?」


 俺のその言葉で色々と察しがついたのか、姉さんは右手を顎に触れて少しばかり考え込みながら口を開く。


 「なるほど。

 まあ、確かに彼は強いよね。

 私と一対一でやれるくらいの実力はあると思うよ」


 姉さんの言葉に、俺の様子に気にせず食事をしていたリンの手が止まった。

 同じく俺も、姉さんが珍しくラウに対してかなり高い評価していた事に驚いた。


 「シファ姉がそこまで言うって、相当じゃないの?」


 「そうだね……。

 少なくとも今のシラフでは勝てないんじゃない?

 噂じゃ、クラウスも手に負えなかったみたいだし、あのまま騎士団に加入してたら、2年もあれば騎士団長を任せて良さそうかな?」


 そう、俺は奴に絶対勝てない。

 攻撃に対する反応速度が非常に高いのである。

 姉さんの発言からどうやら同じ十剣であるクラウスさんを負かしたという話がどうも本当らしい。

 そして、元々実力主義で出世出来る騎士団を彼女は2年もあれば騎士団長に立てると表現した。

 現在の騎士団長、シルフィード・アークスが確か入団から22年くらい。

 それでも平均が30年前後と見ればかなり早い出世であるのだ。


 「………そうだな。

 銃火器を剣で数発弾き返すだけなら俺でも多少は出来るが、数が数だからな……。

 数人同時に、それも全て弾くなんてのは無理がある」


 姉さんが高く評価したアイツが僅かに羨ましく思うが、実力は本物なのが余計に刺さってくる。

 

 「そして、彼にはまだ余裕ありそうには見えたよね」


 そう、姉さんの言う通り奴には余裕があった。

 迎撃のあと奴は一切息を乱さず平然としていられるだけの余裕だと。

 あの冷静ぶりはさすがに一種の恐怖に値する程。

 見た感じ、魔力を扱う速度と練度がそれ等を専門とする魔術師等と同等かそれ以上の反応速度。

 加えて、ソレを騎士団と同程度の身体能力で扱うとなれば両方を上手く鍛えた器用な奴にしては、あまり若過ぎており天才と評しても文句の付けようはないだろう。


 「そうだよね……。

 私はシファ姉の服に隠れてよく見えなかったけどさ」


 それ見てないよな。

 俺はリンにそう思っていると、姉さんは


 「学院に行けばあんな人達が沢山いるのかなぁ?

 まあラウくらいいい線行ってる程の実力者は今の世代だと早々いないと思うけどね」


 「どうゆう事だよ?」


 「そのままの意味だよ。

 彼、ラウ・クローリア程の実力者は私でも稀に見る逸材ってこと。

 もし彼が更に強くなれたのなら、もしかしたら私といい線で渡り合えるくらい強くなるかもね。

 勿論、シラフにも期待してるから負けないように頑張ってみてね」


 そんな事を言うと、姉さんはスープに口を付ける。

 そのスープが熱かったのか「あちっ」と言う声が聞こえた。


 姉さんがラウを過大評価しているのかは分からないが、実力は本物。

 少なくとも敵に回せば厄介である事に変わりないだろうな。


 ●


 「ラウ・レクサス。

 20年前に死んだ、帝国の英雄だ」


 賊の長は突然その名を口にした。

 名前を聞いて私とシンの名前の一部が入っている事に気付き、その人物は自分達と何らかのつながりがある事を察する。

 

 「20年前に死んだ帝国の英雄だと……?」


 「そうだ。

 お前の親はその人から名前を取って付けたとかじゃないのか?

 お前達くらいの世代ならそうじゃないかと思っんだがな……。

 無愛想なお前が動揺したのを見れば、俺の話に興味を持ってくれたようだかま」


 長の言葉通り私は賊の話に対して多少の興味を抱く

 もし無駄足だとしても少しは聞いて見る価値はあるかもれしない。


 「ああ。

 話を続けて構わない」


 賊の長は一息つき間を開けると、ソレを語り始めた。


 「そうかい。

 それじゃあ少しばかりの昔話をしてやろう。

 25年くらい前、ちょうど俺が今のお前くらいの若者だった頃の話だ。

 その頃の俺の仕事は今とは程遠い、当時帝国一と呼ばれていたとある科学者の助手として帝国でも一二を争う研究施設で勤めていたんだ。

 その科学者の名前はノエル・クリフト。

 かつて八英傑と称された一人でもあり帝国の皇帝の婚約者の最有力候補でもあった偉大なお方だ。

 そんな彼女の助手の末席を務めていた俺であったが、俺と同じく助手の末席に特例としてもう二人存在していたんだよ。

 その二人こそ後に八英傑な名を連ねる事になるルキアナ・クローリア、ラウ・レクサスだった」


 「ノエル……ルキアナ……」


 俺の頭の中に二人の名前が妙に気掛かりに感じた。

 ノエルは勿論知ってる、しかしルキアナという存在を耳にした時何か懐かしいような響きを感じた。


 

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