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恋愛

心残りを認めて【1500文字】

作者: 山目 広介

あらすじより

私には、墓まで持っていく秘めた思いがある。 あの時告げられなかった心残りを(したた)めて。

 私は秘めた思いがある。


 私が過去、謝れなかったこと。

 相手は未だ存命だ。だが、もうその機会はないだろう。

 当時その場ですぐに謝っておけば良かった。

 後悔である。

 後でもいい、そのように思い込もうとした。

 会う機会は存在し、だが人前では憚られる。

 たぶん向こうは気にしていない。

 それでも人前で言えば気分を害すかも知れなかった。



 ある日、母の弟である叔父さん家族が交通事故にあった聞き、お見舞いに行った。

 叔父さんは視界の一部が欠けて見えなくなったという。

 私の従妹である、叔父の娘は足の付け根を骨折していた。

 そしておばさんは両足を失った……


 見舞いに行ったとき、おばさんのベッドには布団から何か出ていた。

 そして知ったのはそれが五百針で縫い付けた足だったことだ。

 全体的に青紫色で肌の色とはとても思えず、大きく腫れて形も足と気付かないほどだった。

 そして血液が巡らず結果切断することになった。




 墓参りで母の兄である伯父の家に集まったときだ。

 叔父さん家族は先に来てもう済ませていた。

 私たちはその後墓参りしてすぐに帰る予定だった。

 ゆっくりしていた叔父さんたち家族は電車で帰るようだった。

 しかし帰りの時間を決めていなかったようなので私が即座に検索した。


 私は歩くのが速く健脚だった。

 背が高く脚も長い。人の2割は速い。具体的には時速6km。

 これは実際に4kmの道をいつも40分で歩いていたから間違いない。速いときは36分が3回。

 だから検索するとき歩きが速い人に設定していた。

 それでも稀に一つ前の電車に乗り込めたりした。


 つまり私が検索した結果はまるでおばさんのことを配慮していないものだった。

 見舞いに行って実際に見たのだから知っているはずだ。

 その日私が見たおばさんは椅子に腰掛けていた姿で義足だった。

 もちろん分かりやすい義足ではなく長いスカートや靴下で隠されていた。

 よく見れば隣に松葉杖が立て掛けられていたことに気付いただろう。

 おばさんしか見えていなかった。

 しばらく会っていなかったとはいえ対処すべき事柄。


 検索の結果、乗り換え時間が1分と短いものだった。

 「これはダメね」と一言残念そうに告げられて理解したのだ。

 ここで謝っておけば良かったはず。

 だが私には頭の中が白くなって言葉が返せなかった。

 だからもう一度何も言わずに検索し直したのだ。


 あれから従妹の結婚式に行ったりした。

 しかしおばさんに謝れなかった。

 周りに人が多かったのもある。

 脚のことを考慮せずに謝るのは周囲にも関心を持たれるかも知れず、憚られた。

 知らない人からは足が悪いだけと思われているかも知れない。

 なのにその場で失っているということは言い辛い。

 確かに車椅子や義足を使用しているのだ。

 (ぼか)して謝ることも出来ただろう。

 しかし誠実じゃない気がして謝れなかった。

 謝らない方が誠実じゃないとも思ってはいる。しかし……


 私も高齢になってきた。

 次はおばさんに会えるのは誰かの葬式かも知れない。

 人が集まれば、また謝れないだろう。

 おばさんも移動が困難になるかも知れない。

 おばさんは母の弟の叔父さんの再婚相手であった。

 叔父さんよりもいくらも若い。

 私との年齢もそこまで離れていない。どちらかというと叔父さんよりも私の方が近いのだ。

 そのおばさんと最初に会ったのは叔父さんとの結婚式。

 叔父さんは再婚だったが、おばさんが初婚だったから式を挙げたと聞いている。

 親戚が集まる時、一番年若い成人だったため貧乏籤を引き、私たち子供の面倒をよく見てくれたものだ。

 当然男性である私よりも女性であるおばさんは長生きではある。


 だからこんな手段で謝ることを許してほしい。


 あの時は申し訳なかった。






 ―― この遺言が届くことを祈って ――




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