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プロローグ〜悪夢〜

 目の前には私のお兄ちゃんがいる。ピクリとも動かない。それも当たり前だ。私のお兄ちゃんは死んでしまったのだから。

 白い箱に入れられて、うっすらと微笑んで。なんで笑っていられるのかが私には何度経験してもわからない。一度目こそ、悔いなく死ねたんだと安心した。けれど、回数を重ねるうちにわかってしまったの。私はお兄ちゃんが背負っていた……否、背負わされていたものを。知ってしまったの。


 ここで気づく人もいるんじゃないかな。何度か回数について語っていたものね。そう、お察しの通り私は何度もお兄ちゃんの死を体験している。何度も何度も、気が遠くなるくらいに。


 何度も繰り返すうちにこの日までのことは全て覚えている。なにせ、私がどんな行動を取ろうが大筋は変わらないから。そして、私が同じ行動を取れば全く同じになる。大筋は変わらないから、どうやったって私のお兄ちゃんは死んでしまうようなんだけどね。全く救いのない話だわ。

 大筋が変わらないというのは悪いことでもあり、良いことでもあった。私がどんな行動を取ろうが大筋は変わらない。正面から捉えると、私がどうあがこうがお兄ちゃんは死ぬ、救いのない結末であるけれど、それを逆手に捉えて見ればあることができる。お兄ちゃんの行動からお兄ちゃんの死因を割り出すことができるの。


 なんでって思うのは当然だと思う。私だって、お兄ちゃんの死因が不明じゃなければ調べようとなんてしなかった。お兄ちゃんの死因は不明。心臓麻痺だとか、病気のせいでとか言われたほうがまだマシだった。どんなお医者さんがお兄ちゃんを見ても、わからないと首を降るばかりだった。はじめの方はお医者さんの陰謀かと疑ったくらいだったわ。

 何度も繰り返していれば、お兄ちゃんのことがよくわかってくる。お兄ちゃんが家族にも、友達にも隠していたことが。まさかそんなことをしていたなんてね。それより、そんなことが世の中にあったのかという驚きのほうが大きかったわね。


 私が何で繰り返しているのか。何で私が、私だけがループをしているのかしら。一人、心だけ成長してしまって取り残されてしまったような、私だけが異物のような感覚に陥ることがあるわ。私だけが覚えている。私だけが知っている。私だけが、壊れていく。大切なはずのお兄ちゃん、大好きなはずの両親、嫌いだったあの子、お兄ちゃんを大切に思っていたはずの私。そうだったはずなのに、今はもう感じることができない。覚えているだけ。まるでロボットみたいに、記録されたことを繰り返して。悲しいとも、寂しいとも、苦しいとも思わなくなってしまった。ただそこには空ろなものがあるだけ。


 もう終わらないんだろう。ずっとずっと、永遠に終わることがないんだろう。何も変わらないんだろう。変わっていくのは私だけ。私の心が壊れていくだけ。

 さぁ、そろそろ今回も終わるわ。私はお兄ちゃんが死んで二ヶ月後に鉄骨の下敷きになって、苦しみながら失血で死ぬんだから。あと二日すればどこを歩いても鉄骨が降ってくるわ。狙ってるのかというくらい必ず。例外はなかったわ。


 二日はいろいろなものを整理をして過ごす。部屋から記憶まで。人間って忘れる生き物だったはずなのだけど、毎回のことを私ははっきりと覚えている。忘れたいこともずっと。

 部屋の整理については、私まで死んでしまって両親が部屋の整理に困ったりしないようにするの。だって大変でしょうから。死んでまで苦労はかけたくないわ。

 記憶の整理は浸っていたいのだ。何も知らなかった、何もなかった幸せな日々に。朝起きて、朝ごはんを食べて、お兄ちゃんと一緒に登校して、学校で勉強をして、家に帰って、家族揃ってご飯を食べて、寝て。ありふれた日常を過ごしていた日々に。

 そんな感じて二日を過ごし、今日この日。私は鉄骨の下敷きになるの。あぁ、上を見上げてみればたくさんの鉄骨。ものすごい速度で私に向かってくる。


 今回もありがとう。お父さん、お母さん、お兄ちゃん。回数を重ねるごとに可愛げがなくなっていく娘、妹だけどすっと変わらずに愛してくれて。ありがとう。


 そして、私は鉄骨の下敷きになって死んだ。

 

次もよろしくお願いします

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