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ホワイトクリスマス  作者: アリス
3/4

セコンド・ピアット

警察署に入ると、すぐに長テーブルがあって、奥に数人が座っていた。

テーブルで、名前と住所を書いておく。睦月くんが書いているのを待っている間、見回すと、一人の警察官と目があった。

髪は短く、黒髪で、整った顔をしている。柔和そうだが、どこかしら、厳めしい印象の残る雰囲気をしている。

彼は、にっこり笑った。

破顔一笑。

何処か、姉に似ている。

僕は、礼をする。

彼が指を差し示す。隣を見ると、どうやら、義兄が書類を書き終えたようだ。

1つ目の部屋に案内されると、部屋には、意外な人物が待っていた。

「お姉さん!」

僕が叫んだ。

「お、お姉さん?じゃ、空き巣じゃない?」

案内してくれた警察官が驚く。

「え!?月美?」

義兄がびっくりして、つかつか歩み寄る。

長い睫毛に大きな目。茶髪を一つに結わえる長身の彼女は、まごうことなき姉、月山月美であった。

「なんで、ここにいるの?」

問い詰める睦月くんに、彼女は、にっこり笑って、

「ちょっと、捜査をしてて」

と答えた。

「ちょ、捜査?」警察官が月美に尋ねる。「貴方、お姉さんだったんですね。そうか、糀月美さんって言ってましたけど、結婚して姓名が変わっていたんですね?」

「そうです、ちょっと弟の家に来ていたんですけど、まさか捕まるとは思わなくて」

月美は、弱弱しく微笑んだ。

「それ、最初に言ってください」警察官が困ったように僕らを振り返る。「とりあえず。連れて帰ってもらってもいいですか?」


外に出て、僕らは別れた。

僕には、仕事があったし、2人には積もる話が山ほどありそうだった。

「アルコバレーノ」に行くと、従業員が3人待っていた。

その内の一人、浦井碧うらいあおいは、開いた当初から一緒に手伝ってもらっている、古株だった。

「遅かったですね」

彼は、携帯から顔を上げた。

「ちょっと、交通渋滞に巻き込まれてしまったみたいで」

バスが遅れてしまって、20分の遅延だ。

「そうですか。最近、車の人が多いですね。この間かっこいい外車、見つけっちゃって」

という川中颯味かわなかはやみは青い目で、長身だ。彼は、先月入社したてで、お洒落で高そうな上着に身を包んでいる。

「ごめん、ごめん。今度、おごるから」

そう言って、鍵を取り出し、ドアを開けようとすると、何故か扉が開かない。

「あれ?」

4人は、めくわせをする。

3人目、空井優そらいすぐるが、携帯を取り出し、110番をする。


10分もしない内に、パトカーは、現場に到着した。

その間、僕は扉を押さえたままである。


警察官が3人、パトカーから、出てきたので、鍵を渡した。

警察官が扉を開けに行く。

僕らは怖いので、少し離れた所から、様子を伺っている。

15分ぐらいしただろうか。

警察官が出てきて、僕に歩み寄る。

「誰もいませんでしたよ。おそらく、貴方が鍵を閉め忘れたんでしょう」


その日は、いつも通り、レストランを営業し、いつも通り、客はいっぱい来た。

明日は、運命の、イブの日。

成功を誓った4人は、営業時間3時を終えると、静かに、乾杯をした。

☆☆☆

朝、目が覚めると、電車の中にいた。

…眠ってしまった。

ガタンゴトン揺れる電車に、眠くなってしまった僕は、5時発の電車に乗ってから、ちょうど8時間経っていた。現在時刻、12時。昼食時だ。

朝、食べたのは、豚のグリル。

蓋をして、豚を焼き、その後、オーブンに入れて、火を通す。

明日のイブの食事のために、軽く済ませてしまったので、お腹はペコペコだ。

山の手線なので、自分の家まで、3駅だ。


僕は携帯を取り出して、メールを確認した。

メールは2件。

いづれも義兄からのものだ。

『昨日は、ごめん。月美と仲直りしたから、今日、レストランに寄ります』

『そうそう。今日、雪らしいよ』


今日は、雪か…。

久々のホワイトクリスマスだ。

『了解。丁度、2席空いてたから、予約入れとくので』

『雪か。傘忘れないようにしないと』

送信。

僕は、携帯を閉じて、テレビを見る。

天気予報が流れている。

24、25日共に、雪である。

降水確率は、90パーセント。

90パーセントなんて、初めて見た、と僕は思った。

「にゃあ」

声がして、前を見ると、下にケージがあって、中には猫がいた。

猫は、白い白い毛並みで、大きな目が好奇心旺盛に僕を見つめている。

「すみません」

猫の飼い主である目の前に座る女性は、眼鏡をかけていて、僕が持っているのと、似たようなオーバーを羽織っていた。

彼女は、くしくも、僕と同じ駅のようだ。

立ち上がると、猫を持ち去ろうとする。

猫は、大人しく、目をつぶる。


僕も慌てて立ち上がって、彼女の後ろに立つ。

電車はぐらりと揺れて、扉を開けた。


ホームはお昼時のせいか、閑散としていた。

いつも見たことがないのに、彼女は、僕と行く道が同じだった。

ストーカーだと思われたくないので、彼女を追い抜いて、僕は小走りで自分のアパートへと向かった。


「あら?」

僕が、自分の部屋の鍵を回した後、さっきの彼女の声がした。

「貴方、同じアパートに住んでいたんですね」


「はじめまして」

僕は、ちょっと驚いた。

猫と彼女は、3つ先の隣の部屋に住んでいる、同じアパートの住人だという事が判明したのだった。




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