体に風をチャージ準備
こんばんは
魔王城を出て……というか、城を出ると潮の香りが漂ってくる。これは、海が近いということ。
更に言えば、暗闇から出ると青い空がさんさんと輝いていた。
この、きらびやかな日差しはなんとも心地が良い。波の音が鳴っている。
俺達が歩くにつれてどんどんとリアルに大きく、そして海のしぶきが風に煽られて頬にミスト状が吹き付けられている。
(はぁ。海の匂いがたまらないなぁ。
……昆布が食べたくなるよ)
「ってオイ!?」
「なんだよ」
「婆さん背負ったまま、海へ真っ直ぐ進んで行くな!」
そう!今まさに、老婆と一緒に海の藻屑へと成り果てようかという現場。
「なんだよ。
……もしかしてお前、海で息をしたこと無いのか?」
「出来ねぇよ!!というか、出来て当たり前みたいな話し方するな!
……その婆さんも出来ないというのを忘れるなよ!?」
自称天才科学者は言う。
俺は『潮の香りは最高だぜ』と言ってから数分後、じゃぶじゃぶと靴とか気にせずに海へと入って行く俺はを止めたそうだ。
全く!天才様なのに大した事が出来ないんだな……ハハハ笑いが止まらないぜ。
こういう風な気持ちへと変化してしまった俺は、口の締まりが緩み白い歯を見え隠れするほどに調子にノっている。
「ハンッ!自称天才科学者は海中で息が出来ないのか……ハンッ!」
「なにそのイラつく態度
今しがた、私のオリオン計算によると『近代的な兵器に負けた腹いせ』と出たけど……意味が分からないわ。」
【近代的な兵器】
これは、俺が感じたことも信じることも無いであろうと思っていた[占い]が老婆とかけ合わさり【兵器】へと発展して行ったことによる。
更に言えば【近代的】とあるが、現在は天女監査様に最も近い存在……失っては成らない【今という名の兵器】なのである。
って、まあ……天才様には少し感謝という気持ちもあったりはするのだが。
感謝の点は、オババが海中で息が出来ないと知らせてくれたからだ。
(オリオン計算とはいかなるモノか?……恐ろしや、よもやオーパーツではなかろうか。
ふーむ。とりあえず、プリ天には少しは感謝しようか……よし仕方ない!アレを呼び出すか。)
「まあ、俺は何でも出来るオールマイティーな存在だから、天プリの言うことを理解する事にした!」
「……ありがとう」
「いや!待てオババ。俺の心内を読んで、先に感謝するでない。
ホレ見たことか。天プリさんもハテナ顔ではないか。」
[天プリ]天才でプリプリ乙女の略……まるでエビの天ぷらの様に聞こえ、天才を舐めた表現。
のち、この舐めた表現を思い知らされることとなるのだが、それは少し先の話し。
「違う……アキさん、ありがとう……」
この時!俺の行動が一瞬止まる。
それは『さあ見よ!俺の特殊な技を』と言葉を発した直後の出来事だ。
「特殊な技を!から止まってるけど?
オイ!オーイ……」
あろうことか天才の呼び掛けで、何万分の一という確率のフリーズを解除してくれたおかげで先が進めるというもの。
「何をされたのかな?大占い師のオオババさんや。」
「アキ……教えてくれた事に感謝……」
オババの言葉を聞いたアキは『なっるほど!』と言いながら指を鳴らした。
そして、『あ!もしかして』から始まりマシンガンが俺のハートへと貫通して行った。
結果
「……あの時、オババと俺を海に入るのを止めて頂き……あ、ああ『ん??』
……ありがとう……です。」
「そだね!」
と成る。そして……
「まあ、見てろ。俺の特殊技を。」
俺が誇って良い技なのだが、ハートが穴だらけで今さっき苦い汁をイッキ飲みしたかの様なリアル苦汁は、リアルで口から手が出て来て、相手の首を閉めたがっていた。
理由としては『僕は閉めてませんよ……ハハハ僕の口から出た手は、なんて反抗期なんだ』と言ってスムーズに〆(しめ)たい。
「お呼びですか?」
「オウ。
よし。乗れよ。」
「ちょちょちょっ!?待って、コレ沈まない?」
呼び出し方はとっても簡単。水辺に向かって、口笛を吹くだけ。
それだけで、水面からボコッと泡が幾つか出でくると共に、黒のフードで覆った謎の人……人?と骨で出来た船が出てくる。
「沈むわけないだろう!……な!?」
「ハイ。」
俺がスイスイと乗り込んだ時点で、地上にいるのはアキだけとなった。
アキは、俺達が振り返る顔を見た瞬間に『もう!』とだけ言って船に乗り込んだ。
かくして、キィキィと進む船に三人と顔が見えないフードさんは海上をゆく。
海は穏やかで波なんて全くもってたって無い。
更に言えば、陸でアキとの揉め事が無ければもっと早くに出発していただろうか。
太陽の傾きで、アキとのセッション時間は二時間と断定できる。
海は広い……当然だ!
波風無い……良いではないか!
「ネェ、沈まないって分かったけど遅くない?」
「遅い様に見えるけど、ちゃんと進んでるぜ」
「あとさ、特殊技って言ってたけど結局どんな技なの?」
「技って程でもない。
俺が、海や川のチャプチャプ感を感じたい時に呼び出す……ただ、それだけだ。」
「……ねぇ?骸骨の船って何か意味があるの?」
なんかさっきから自称天才科学者アキが、お口が寂しいのか俺を質問攻めしてくる。
ほんと、寂しがり屋め。
「意味は有るだろうな。なんせコノ船は、死者の国へと運ぶ船だからな。
こーやって、ゆっくり運ぶ事で……違うな、ゆっくりと進んで見える船は死者を反省……」
「別に今!ソコを訂正しなくてイイわ!!
なに!?私達、今から死ぬの!?」
そう言った時、後ろでこいでいたフードの船頭さんがアキの元へと駆け寄る。
そして、膝を折り丁寧に聞いてくるのだった。
「今から死にますか?」
「え?……あ、いや」
「私の本業は死者を送る仕事です。船の上で【死ぬ!】とおっしゃいましたので確認を……ね。
だって、そうでしょ?主殿が呼び出す時は水辺で遊びたい時が普通ですから。
ソコへ『死ぬ』という発言を聞いたならば!確認は絶対必須なのです。」
再度『死にますか?』の問いは『イエ、向こうのガンザル大陸まで運んで下さい』という会話で終わる。
何故こうも、スムーズに淡々と終わったのか?それは、フードと中身を見てしまった為なのか?……いや!違うな。
それは、『死ぬ』という単語を聞いたフード船頭は、漕いでたオール?という物を持って『死にますか?』と問うて来た。
物とは何か!?
そう!物とは、それはそれは大きな鎌である。
そんなのも有り、今はキィキィとフード船頭がこぐ音に堪能し進んでいる。
もっぱら、乙女の話し声なんて止まりっぱなしだ。
というのも無く
「おい?どうしたんだ。さっきから、タメ息ばかりついて。」
「……熱いんだよぉ。天気、良すぎるだろ!日の傾き具合は昼を過ぎて一~二時間といった所。」
それから『熱いよぉ』と言っては、愚痴をわんさか言っている。
乙女だからか分からないが、『紫外線が』とか意味の分からない発言もあった。どうせ、オリオン計算の類いだろうと俺は思った。
そう、思った……その時!!俺にチャージの風が舞い込んだ。
「仕方ないな。熱いと干からびてもしたら大変だ」
(そう!干からびたら大変だ。)
「何か策はあるの!?」
(ああ!ある!!)
俺に掌に黒のエネルギーを集中したあと、上へと打ち上げる。
空高く黒のエネルギーが行ったのを確認してから『潰れろ!』と命ずると、そこから雨雲がモクモクと発展していった。
「あんた!やれば出来るじゃ無いの」
「容易いな。」
そして、この方の予言という名の言葉で約一名様が文字通り死にそうになる。
その御方とは
「……嵐が……来る」
明日もよろしく