手術の傷跡
祖母が退院して帰ってきた
一見元気そうに見える祖母だが
病に一度蝕まれ余命を宣告された祖母の体には
痛々しい手術の跡が刻まれていていた
お腹に大きく刻まれた十字の傷跡と縫い目
3人はその傷跡を目の当たりにし衝撃を受け沈黙した
春樹は祖母の手術の跡を触った時の事を話してくれた
「ごめんなさい」
長男である春樹は祖母に謝った
その謝罪は自分達のせいで祖母の体に負担がかかり
病気になったと言う思いからくる祖母への謝罪だっと言う
「あんた達のせいじゃないよ…」
祖母は春樹の頭を優しく撫でた
まだ幼かった椿樹はその時何を思ったんだろうか…
今になってはもう椿樹に話を聞けない
本人の口から直接、自分の人生全てを
私は今もこれからも椿樹から話を聞けなかった事を
椿樹の事をわかってあげられなかった事を後悔して生きて行くだろう
話が変わるが彼女の祖母が退院して数日後
親戚一同がぞろぞろと家にやって来た
そして祖父母と3人に告げた言葉は
これからの人生、相田家を引き裂く一言だった
「子供達を児童養護施設に入れたほうが良い」
一瞬で空気が凍りつく
だがその凍った空気を引き裂いたのは幼い椿樹の「行く…」と言う一言だった
椿樹は礼儀正しくきちんとした姿勢で座り静かに一言だけ呟いた