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愛を探し続けた女性  作者: 如月蓮
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守るべき家族

 友達だった相田椿樹(あいだつばき)の全てを知るために私が先ず向かったのは、愛知県名古屋市在住の彼女の兄ーー相田春樹(あいだはるき)の元だった。


 初めて会う椿樹の兄。


 椿樹と同じ黒いストレートの髪に、スラリとした長身が着ているスーツをより際立たせる。見るからに歳は若い(しかし、私より年上である)が、いまどきの若者というよりはどこか古風で、いいとこのぼっちゃん風の男性だなというのが彼に対する第一印象だった。


 彼は私に気づくとペコリと頭を下げて、足早にこちらに向かってくる。


「初めまして。椿樹の兄、春樹と言います」


「こちらこそ初めまして。私は椿樹の友達で(あん)と言います」


 これが初対面。会釈をしつつ軽く初めましての挨拶を交わしてお互いに名乗り、そのあと私たちは取り敢えず近くの喫茶店に入った。

 

 カランコロン。


 ドアを開けるとドアベルの鐘の音が鳴る。するとすかさず女性の店員がやって来て「いらっしゃいませ~。何名様ですか?」と訊ねてくる。


「二名です」

「二名様ですね。お好きなお席へどうぞ」


 レトロな喫茶店だ。コーヒーの芳ばしい香りが立ち上る店内には、大きすぎず小さすぎない、ちょうどいい音量で耳心地の良いBGMが流れている。


 お昼時を過ぎているので、店内にお客さんは少なく、席は多く空いていた。私と彼は空いてるボックス席に対面で座ると、お互いに店員にコーヒーを注文した。


 そしてコーヒーで一息つくと、春樹さんは私が話を切り出す前に自分の妹ーー椿樹のことを話し始めた。


 相田椿樹は、生まれてすぐに両親に捨てられた。

 

 出身は東京。


 兄妹は上に年子の兄が二人。


 最初に送られた先は広島。そこは母方の母親の所だった。


 生まれたばかりの椿樹にその記憶がないのは当然だが、そのときの生活環境を三歳だった彼はうろ覚えであるが覚えていると言う。そして、今でもそのときのことを思い出すと暗闇が怖くなると話す。


 来客があると弟と妹と共に三人、狭くて暗い押し入れに押し込められて閉じ込められ、客人が帰るまで出して貰えなかった。少しでも物音を立てれば客人が帰ったあとに祖母に叩かれ、「役立たずの捨て子」と罵られた。虐待といっても過言ではないーー否、虐待を受けているに等しい、そんな酷い生活環境の中に身を置かされていたようだ。


 そんな中でも彼は泣かなかったと言うが、泣きたくても泣けない状況下にあったのだろう。


 ーー自分が弟と妹を守る。


 三歳ながらも小さな体で必死に耐えていたのだと思う。ツライ生活を強いられながらも、優しく強い兄になろうと、必死に守るべき家族を守っていたのだ。


 私は、彼の話を聞きながらそう思った。

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