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ちびっ子?! ぱにっく!! その六。

 いつも読んで下さりありがとうございます。

 今回は“ちびっ子?! ぱにっく!!”の最後の話しとなりましたが、他の五話に比べますと糖分が高すぎる話しとなっております。

 考えていた以上に何故かブラッドフォードが暴走し、ヤンデレっぽくなっておりますので苦手な方は御注意下さいませ。

 このあとも、他の番外編を書き進めますのでよろしくお願いいたします。


「……うわあ……五歳児のゆうりちゃんやるぅ……」


 マリーロゼを筆頭に、一連のことの次第を聴いたゆうりは空笑いを浮かべてしまう。


「“やるぅ”ではありません。 お陰様で私は、嫉妬に狂ったブラッドフォードに危うく刺される所だったのですが?」


 ギロリと普段よりも不機嫌そうにゆうりを見詰めるバルトルト。


「あ、あはは……あの頃の私って、確かにバルトルトみたいな人を好んでたしね。」

「お姉様はお父様のような方を好んでいたのですか?」


 意外ですわ、と己の言葉に瞳を瞬かせるマリーロゼへと、ゆうりは苦笑してしまう。


「異性の好みとはちょっと違うよ。 あの頃は、どちらかというと物語の登場人物に憧れを抱いてたような感じだったし……。」


 ゆうりはマリーロゼの問いかけに答えながらも、己に絶えず何か言いたげな視線を向け続けている人物へチラリと眼差しを向け、すぐに反らしてしまった。


「……ではゆうり様、私とマリーロゼは席を外しますので、其れの相手は責任持ってよろしくお願いします。」


「お姉様、ちゃんとブラッドフォード様と仲直りしてくださいましね。」


 視線を交わし頷き合ったバルトルトとマリーロゼは、そのまま席を立ち仲良く扉へと向かって行く。


「ちょっと待ってぇぇぇっっ!

 今この状況で後生だから二人っきりにしないでぇぇぇっっ!!」


 二人っきりになった後に広がるかもしれない居たたまれない沈黙を想像し、立ち去ろうとする二人へとゆうりは叫びながら手を伸ばす。


「お姉様ったら、大袈裟ですわ。 何も取って喰われる訳では無いのですから。」


 あまりにも焦った様子のゆうりへと、マリーロゼは苦笑を浮かべてしまう。


「喰わっ……いやぁぁぁっっ!」


 己の言葉に何故か顔を紅く染め上げて悲鳴をあげるゆうりに、何故そんな反応を返すのかピンとこないマリーロゼは首を傾げてしまう。


「御安心下さい、ゆうり様。……人払いはしっかりとしておきますので。」


 幸運を祈る、とばかりに無表情でバルトルトはゆうりへと向かって親指を立てる。


「ひとばらい……ちょっ! 待てぇぇぇっ!!

 結前なのにっ! どんな過ちを犯させるつもりだよっ!! ばかぁぁぁっっ!!!」


 バルトルトの意味深な言葉に何かを思い浮かべてしまったのか、首筋まで紅く染め上げたゆうりの半泣きの声が木霊するなかで無情にも、バルトルトに促されるように不思議そうな表情を浮かべたマリーロゼと、無表情のバルトルトは扉を潜る。


「ちょっ! 本気で待って……この鉄仮め、ひゃっ?!」


 バルトルトとマリーロゼに追い縋ろうとしたゆうりの背後から音も無く現れた二本の腕が、逃がさないとばかりにゆうりの身体を捕まえてしまう。


 小さな悲鳴をあげたゆうりの目の前でパタリと扉が閉まり、恐る恐る背後を振り向けば、うっすらと微笑を称えているはずなのに眼がそれを裏切っているブラッドフォードの姿が有った。


「……ぶ、ブラッドフォード……お……落ち着いて話し合おうっ!」


 己を捕らえるブラッドフォードの両腕から逃れようと小さく身を捩るゆうりは、これ以上刺激を与えないように言葉を選びながら相手へと告げる。


「おや? 私は落ち着いておりますよ……今すぐにゆうり様を押し倒さない程度には。」

「いにゃあぁぁぁぁっっっ!!!」


 ブラッドフォードの率直な表現の言葉に、これ以上ないほどに全身を紅く染め上げたゆうりは悲痛な叫びを上げてしまう。


「ゆうり様……重々分かってはいると思いますが、もし万が一私の元より逃げだそうとしましたら……ね?」

「ふみゃっっ?!」


 にっこりと艶然と微笑んだブラッドフォードの言葉に、ゆうりは子猫のような声を上げて首振り人形のように上下に何度も首を動かす。


「……良い子ですね。」


 満足そうに笑いながらも始終眼は笑っていないブラッドフォードは、そのままゆうりの身体を抱き上げて数人掛けのソファへと移動する。


 ソファの前にあるテーブルには、いつの間に移動させたのか幾つかのお菓子の乗った皿が置かれていた。


「……ブラッドフォード……そ、そのさ……この体勢はさすがに恥ずかし……」

「バルトルトの膝には喜んで座ったのに、私が相手ではお嫌ですか?」


 数人掛けのソファの端に座ったブラッドフォードの膝を跨ぐように向かい合わせに座った状態に、羞恥心から微かに身を捩るゆうりへと、ブラッドフォードは問いかけながらも拒否は許さないという声音で告げる。


「それはっ……私が五歳児だったからで……」

「五歳児だろうと、ゆうり様はゆうり様ですよね?

 まして、婚約者である私の目の前でバルトルトのお嫁さんになるなどと宣言した挙げ句、大嫌いとまで告げられて、私はとても傷つきました。」


 五歳児の私なんてことをっ?!、と心の中で悲鳴を上げるゆうりは、大丈夫だろうと高をくくって蓮の作った怪しいクッキーを食べたあの時の自分をぶん殴ってしまいたい気持ちで一杯だった。


「では、ゆうり様。 食べさせて頂けますか?」

「……え……?」


 変わらぬ笑みを浮かべたままのブラッドフォードは、幾つかの一口大の大きさのチョコレートが乗った皿をゆうりへと差し出す。


「……食べさせるってなに?」

「“はい、あーんして”と言いながら、私へと食べさせてくだされば良いですよ。」


 己へと告げられた言葉の意味が分からず、チョコレートの乗った皿を凝視するゆうりへと分かりやすく説明したブラッドフォード。


「……冗談……だよね?」

「バルトルトには出来て私にはお嫌ですか?……それならば私は口移しでも「ぜひ“あーんして”をさせて頂きますっ!」……ちっ……。」


 冗談だよね、と頬を引き攣らせる己へと更に難しい要求を求めようとしたブラッドフォードの言葉を遮るように叫んだゆうり。

 

 ゆうりが“あーん”を拒否するようならば、別のことを求めるつもりだったブラッドフォードは小さく舌打ちをしてしまう。


「……うぅぅ……」


 羞恥心で涙眼になる想い人の姿を楽しみながら笑みを浮かべ続けるブラッドフォードは、震える指先で躊躇いながらも掴んだチョコレートを己へと差し出してくるゆうりに眼を細める。


「ゆうり様、それでは食べられませんし、食べさせる時に言わなければいけない言葉もありますよね?」

「……っ……わ、分かってるよ!…………あ、あーん……してっ……!」


 紅く染まった頬と、涙眼になった潤んだ瞳でブラッドフォードを睨み付けながら、ゆうりは震える指先でチョコレートを懸命に差し出す。


「……頂きますね。」

「……やっっ……?!」


 己へと差し出された手を掴み、ブラッドフォードはゆうりの指ごと口に含んでしまい、まさか指ごと食べられるとは思っていなかったゆうりは小さな悲鳴を上げてしまう。


「指はちがっ……ひゃんっ」


 上目遣いにゆうりの反応を見詰めながら指に舌を這わせるブラッドフォードから、己の指を取り戻して少しでも離れようとゆうりは力が抜けかけた身体で弱々しい抵抗を示す。


「……っっ!……ブラッドフォードのばかあ、んんうっ?!」


 力が抜けかけ、流されそうになる意思を立て直し、普段のように囚われていない方の拳を握り締めて必殺の一撃を放とうとしたゆうりだったが、その行動を既に予測していたブラッドフォードが口に含んでいた指を解放し、容易く己に向かい来る腕を絡め取り、ゆうりはさらに引き寄せられ唇を塞がれてしまう。


 慣れた仕草で深い口づけに翻弄されているゆうりをソファの上に横たえ、己の身体の下に捕らえてから気が済むまで存分に口づけを続けるブラッドフォード。


「……んあっ……やらぁ……」

「……ゆうり様。」


 名残惜しく思いながらもブラッドフォードがゆうりを解放した時には、酸欠でぐったりとなり、頬を染め瞳を潤ませて、とろんとした表情を浮かべていたが、ブラッドフォードは前回の失敗を繰り返さないためにゆうりの耳や首筋に唇を走らせ絶え間なく刺激を与え続ける。


「……ゆうり様……もし、貴女様が再び他の男へと眼を向けてしまうことがあったならば……例えそれが今の貴女様では無く、本意では無かったとしても……私には許容できない。」


 己の腕の下で熱に浮かされたように、潤んだ瞳で身体に与えられる刺激に震えるゆうりへとブラッドフォードは囁き続けた。


「ゆうり様の今だけでなく、未来も、過去も全てが私は欲しい……そして、ゆうり様を繋ぎ止めるためならば……ゆうり様を誰の眼にも触れない場所に閉じ込め、鎖で縛ることが出来ないなら……この身体に快楽を刻み込んで私無しではいられないように、ぐっっ?!」


 ブラッドフォードに絶え間なく与えられ続ける慣れない刺激に思考が纏まらず、このまま流されそうになっていたゆうりだったが、その本能とも言える何かがゆうりにこのままでは駄目だと警鐘を鳴らし、意思を取り戻させる。


 その意思に従ってゆうりは躊躇うことなく己の首筋に顔を寄せるブラッドフォードの後頭部目掛けて、何も無い空間に出現させたピコピコハンマーを振り下ろしたのだ。


 低い呻き声を上げたブラッドフォードだったが、ゆうりを拘束する手を意地でも逃がさないと緩めずに再び来るであろう攻撃に身を固くする。


「……君は私のことになると本当にどうしようも無い思考回路に陥っちゃうよね。」


 だが、そんなブラッドフォードの予想とは裏腹にゆうりはそれ以上ブラッドフォードに追撃を仕掛けることはなく、クスクスと小さな笑い声を漏らす。


「……ゆうり様……?」

「なあに?」


 予想とは違うゆうりの反応に戸惑ってしまった己が名を呼べば、普通に返事を返すゆうりにブラッドフォードはますます動揺してしまう。 


 動揺してどうして良いのか分からなくなってしまったように動きを止めたブラッドフォードへと、ゆうりはふんわりと笑みを浮かべる。


「私の過去も全部欲しいなんてさ、ブラッドフォードが言うの? 私は君が全部初めてだけど、君は違うのに。」

「それは……」


 決して責める訳ではないゆうりの声音と表情に、ブラッドフォードは二の句が継げなくなってしまった。


「先に言っておくけどさ、別に責めている訳じゃないからね。……だから、今にも過去の女性遍歴を物理的に消し去ろうと考えなくて良いから。」

「…………はい。」


 一瞬ブラッドフォードの脳裏に危険な考えが過ぎ去ったことを思考を読むまでも無く、感じ取ったゆうりは苦笑混じりに制止する。


「……ねえ、ブラッドフォード。」


 己の拘束されている手を外そうと試みるが、相手が緩めるつもりが無いことを悟り早々に諦めたゆうりは至近距離で見詰めてくるブラッドフォードの眼差しを真っ直ぐに見詰め返し口を開く。


「ブラッドフォードがこのまま先に進めたいなら好きにして良いよ。 君がそれで少しでも安心するなら私は抵抗なんかしない。」

「ゆうり様……自分が何を言ってるか分かっているんですか?」


 己のためならば全てを抵抗せずに受け入れるというゆうりの言葉にブラッドフォードは眼を見開き、耳を疑う。


「あのねえ……これでも一応、君よりも年上なんだけど? 今回は私の行動の所為で色々と不安にさせちゃったみたいだしね。

 ……でも、先に言っておくけどさ……私が憧憬とかじゃなく、恋心を抱くのは何時だって君だけだと思うんだけどね。 それに、こんな行為を受け入れるのだってブラッドフォードだけだし……君以外の異性がこんなことを私にすれば容赦なくぶっ飛ばしちゃうよ。」 


 微笑みながら告げられたゆうりの言葉にブラッドフォードは腕の拘束を緩めてしまい、解放された片手をゆうりはブラッドフォードの頬へと伸ばす。


「記憶を無くした五歳児の私も、未来の私も……最後は絶対にブラッドフォードに恋して、愛しちゃうって自信があるよ。

 だって、どんなことだって受け入れて、側にありたいって想うのはブラッドフォードだけだもん。」


 頬に添えていた片手だけでなく、両手でブラッドフォードを引き寄せたゆうりは、そのまま掠めるだけの口づけをブラッドフォードへと贈る。


「……大好きだよ、ブラッドフォード。」


 照れくさそうに頬を染めて笑みを浮かべるゆうりを呆然と見詰めていたブラッドフォードは、大きなため息を付いてゆうりをもう一度抱きしめる。


「……そんな熱烈な愛の言葉を囁かれたら、嫉妬のままに行動できる訳が無いじゃないですか……」

「そうだろうねえ……でもさ、私が本当に嫌がったらブラッドフォードは優しいから止めてくれるでしょう?」


 私を信じすぎです、と困ったような、愛しさの溢れた複雑な表情を浮かべたブラッドフォードがゆうりの髪を優しく梳いていく。


 ブラッドフォードの硝子細工を扱うように優しい仕草の手に、ゆうりは己の手を重ねて頬をすり寄せる。


 そして、どちらとも無く微笑み合い、二人の距離が再び近付いていく。


「ゆうり様……愛していま……」

「破廉恥ですっっ! 破廉恥ですわっっ!! この歩く猥褻物っっ!! わたくしの隙を伺って、ムッティに手を出そうとはなんたることっっ!!! 其処に直りませ、わたくしの可愛い“激・黒鋼漢(くろがねおとこ)団”と“きゅーとなクラウン団”の錆として差し上げますっっ!!!」


 二人の唇が重なろうとしたその時、何処からともなく現れた桔梗の怒声が響き渡り、その細腕の何処にそんな力があるのかと疑ってしまう馬鹿力でブラッドフォードの身体をぶん投げた。


「……えっと……桔梗……」

「ムッティ、大丈夫ですかっっ?! あの歩く猥褻物に卑猥な行為を強要されていたのですねっ!! 結婚前の清らかな乙女を毒牙に掛けようなど、マジ許すまじですわっっ!!!」

「き、桔梗っ!流石にお前の気色悪い軍団はやり過ぎだ、ぎゃっっ」


 今にも、“激・黒鋼漢(くろがねおとこ)団”と“きゅーとなクラウン団”を召喚してブラッドフォードへと嗾けようとしている桔梗をゆうりは必死で宥めようとし、同じく宥めようとしたいつの間にか姿を現した普段の姿に戻った柊は余計な一言を言って、桔梗の怒りを買ってしまう。


「母上、無事に戻ったようで何よりです。」

「母君……いつもの母君だ……」

 

 五歳児のゆうりが山吹や柊に掛けていた魔法が解けたことで、ゆうりが元の姿に戻ったと確信した最高位精霊達が次々と公爵家へと姿を現していく。


 一時の静寂が戻っていたはずの公爵家には野太い漢達のリズミカルな掛け声と、ブラッドフォードの絶叫……余計な一言の所為で巻き込まれている柊の悲痛な叫び声が響き渡り、しばらくその喧騒が止むことは無かったのだった……。



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