牡丹の華麗なる贈り物〜桜の思い出 その1〜
桃源郷のように美しい四季に彩られたフェリシア。
そんなフェリシアにある瑞々しい緑と可憐な花々で彩られた植物の最高位精霊、桜の屋敷。
その美しく整えられた庭先には、ゆうりを初めとした数人の乙女達の姿があった。
「そう言えばさぁ……気が付いてる、桜?」
桜が手ずから用意してくれた緑茶を啜り、もちもちとした三色団子を頬張りながらゆうりが桜へと問い掛けた。
「唐突に何の話ですか、お母様?」
「あはー、牡丹のことだよ。」
「牡丹がどうしたのですか?」
ある日の午後の昼下がり。
午前中はアルテミスとして過ごしたゆうりは、息抜きのためにフェリシアへと戻っていた。
最も、息抜きというよりは、マリーロゼが柊と過ごすため、初々しい恋人たちの邪魔をしないために退散したともいえる。
「うにゃ?
ママ上様〜牡丹がどうしたの?」
「ん?何かを悩んでいるなぁって!」
「え……」
己と同じように首を傾げる雛菊は兎も角、ゆうりの言葉に桜は微かに目を見開いてしまう。
「ふむ……もしや、先日の牡丹と我が血筋の者との一件ですか?」
「その通りだよ、山吹。
あのあと、アルテミスを学院に迎えに来たブラッドフォードに手を焼いたんだから。」
「…………」
己が気が付かないところで恋人である牡丹が思い悩んでいた。
そのことに全く気が付いていなかった己に、桜の心がズキリと痛む。
「私は……恥ずかしながら、牡丹が悩んでいたことにすら気が付いていませんでした……。
(……牡丹が悩んでいたなんて……私は牡丹の何を見ていたのでしょう……!)」
言葉にすれば更に事実を突きつけられ、桜は落ち込んでしまう
「あのね、桜?
一応言っておくけどね、牡丹の悩みは桜に関係していることだから。
絶対にバレたくないって、隠し通すつもりだから桜は気付けないだけだからね。」
「おや?
それを分かっていながら桜へとその話を振るなど、母上も悪いお人ですね」
「あは!
だってね、ブラッドフォードだけならまだしも、バルトルトとエリオットまで物言いたげな目をするからさー。」
「うみゅ!目をするからさー!」
牡丹の行動は私のせいだけじゃないもん、と唇を尖らせるゆうり。
ゆうりのマネをして唇を尖らせ、楽しそうに笑う雛菊。
「うみゅ?
でもでも!牡丹が遊びに行くのはいつものことだよ?」
「確かに雛菊の言う通りですね。
牡丹が彼らで遊ぶ、ではなく、我が血筋の者たちに似合う服を提供することはいつものこと。
更に言うならば、義父上(仮)達で遊ぶこともいつものことですね。」
「雛菊、山吹……」
恋人である牡丹の人間にとってははた迷惑な"いつものこと"とやらに額を抑えてしまう桜。
「まぁねぇ?
確かにいつものことなんだけどさ……
今回は、牡丹の契約者のイザベラちゃんも巻き込んで、たくさん話し相手をしてもらって、次の日にはブラッドフォード達三人も巻き込んで騒いだらしくてね。」
大好きな恋人のこととなると、しょうがない子だと苦笑いを浮かべたゆうり。
「マリーロゼからね、困った顔で相談されたんだよね。
宰相として多忙なバルトルトが仕事が進まないと家に帰ってくる時間が遅くなって、眠る時間が減っちゃうと体調を崩さないか心配ですって!」
正確に言うならば、どんなに多忙を極めたとしても、マリーロゼとアイオリアが就寝するまでには必ず帰宅する父バルトルト。
どんなに僅かな時間でも共にあろうとする父親が、自分達と過ごすために無茶をしていないかマリーロゼは心配だったのだ。
宰相としての仕事はマリーロゼには分からずとも、多大な責任を背負っていることだけは分かるのだ。
病で母を亡くしたマリーロゼにとって、父であるバルトルトまで病に倒れる姿は見たくなかったのだ。
「……なるほど、一理ありますね」
「確かに、マリーロゼ様がおっしゃるように彼の者は子供との時間を得るために多少の無理はするでしょうね」
「みゃぁ……人間って脆いもんね」
子供達命とばかりに大切にしているバルトルト。
娘であるマリーロゼが心配するように、バルトルトならば己の身を顧みずに愛娘と愛息子との時間を確保する姿が容易に目に浮かんだ。
人間の価値観などを完全に理解はできない精霊である桜達。
だが、ぶっちゃけ国王の仕事だなんだと人間の価値観を百の言葉で言われるよりも、バルトルトの並々ならぬ家族愛の方が遥かに説得力があったのだった。
「あら……?
お母様、どうして私へ牡丹が悩んでいると話題を振ったのですか?
お母様にとって、まずはマリーロゼ様の不安を取り除くことが先決なのではありませんか?」
バルトルトを含む牡丹が迷惑をかけてしまった人間達への対応を考えていた桜は、最初のゆうりの問い掛けを思い出す。
「先ほどのお母様の言葉を信じるならば、牡丹は私に悩みを隠しているのですよね?
更に重ねるならば、その悩みとは私に関係しているのでしょう?
牡丹の悩みとマリーロゼ様の悩みには、関連性が見えないのですが……?」
首を傾げつつ桜がゆうりへと問い掛ければ、ゆうりはにんまりと笑みを返す。
「あはー!
要するに、しばらく牡丹が大人しくなれば万事解決ってことでしょ?」
ゆうりの言葉に桜は首を傾げつつも、確かに牡丹が人間達の元へ行かなければ解決するかもしれないと納得する。
「ねえ、桜?
牡丹をさ、驚かせちゃう気はないかな?」
「牡丹を、ですか?」
「ほう?
何やら面白そうな気配がしますね」
「にゃは!気配がしますね!」
うきうき、ニコニコと乙女達の悪だくみ……ではなく、牡丹をびっくりさせちゃうぞ!大作戦が始動するのだった。




