牡丹の華麗なる贈り物 第四話よん!
「……かわいい……?」
「……贈り物ですか?」
「…………?」
名は体を表すと言うように華やかで、艶やかな笑みを称えた牡丹の問い掛け。
そんな牡丹に対して、エリオットはポカンとした表情を浮かべ、ブラッドフォードは眼を瞬かせ、バルトルトは内心では首を傾げているが表情に表れることは決して無かった。
「あらん?
山吹ちゃんの血筋のエリオット、一応なりとも一国の王様なのに表情に出過ぎでは無いかしらん?
おっきく開いたお口に、何かを詰め込みたくなっちゃうわよん。」
「っ?!」
ニッコリと己に向かって笑みを浮かべる牡丹に対し、エリオットは慌てて開いていた口を閉じて両手で押さえた。
「……贈り物とは、お二人の記念日か何かなのですか?」
ニコニコと笑みを浮かべた牡丹は視線の先にいるエリオットを標的に定め、からかおうと言葉を続けようとする。
しかし、牡丹が言葉を続けるよりも早くバルトルトがその言葉を遮るように疑問の声を上げた。
「……んもう。
もう少しだけからかおうと思ったのだけれど、仕方無いわねん。」
バルトルトの問い掛けに対し、一つ溜め息を付いた牡丹は今までの悪戯っ子のような笑みを打ち消し、何処か落ち着かない様子で己の髪を弄び始める。
「……別にねん……記念日って訳ではないのよん。
ただ……いつもお菓子とかを作ってくれる桜ちゃんに……何かを返したいな、って……」
思ったのよん……、と語尾に行くに連れて小さくなっていく牡丹の声。
最愛の人を想う牡丹は何処か切なそうでいて、同時に嬉しげな表情を浮かべていた。
「「「…………」」」
愛する人を想う牡丹の姿を目の当たりにした幼なじみ三人組は、思わず無言になってしまった。
「……一応、教えておいてあげるけどねん。
心を読むのはマードレの専売特許では無いのよん。
位の高い精霊相手ならばいざ知らず、人間の心を読むのなんて簡単なのん。」
桜を想って切なそうな表情を浮かべていた牡丹だったが、偶然にも読み取ってしまった思考の内容に頬を引き攣らせながら呟く。
「ねえ、山吹ちゃんの血筋のエリオット?
誰が“誘惑した相手を貢がせるだけ貢がせて、ポイしそうな外見”ですってん?」
とても美しく華やかだが、背筋に寒気が走るような迫力のある笑みを浮かべた牡丹。
……その眼は全く笑っていなかった。
「ひっ?!
べ、別に悪い意味では決して無いのですっっ!!
た、ただ……お、男が貢ぎたくなるほどに美しい、と……!」
牡丹の怒りを感じ取ったエリオットは、両手をぶんぶんと振りながら、悪い意味では無いのだと必死に弁明を図ろうとする。
「ば、バルトルトっ! ブラッドフォードっ!! そ、そなた達もそう思う……」
そして、両脇にいたはずの幼なじみ二人に助けを求めようと視線を送り、助け船を頼もうとするエリオットだったが、その幼なじみ二人の姿は既に側には無かった。
「……己で蒔いた種は、己で刈り取るのが宜しいでしょう。」
「……お許し下さい、陛下。
私は、愛するゆうり様との関係を拗らせたくないのです。」
額を片手で押さえ、眉間の皺を深くしながら溜め息を付くバルトルトと、申し訳なさそうに両手を合わせるブラッドフォードが、エリオットへと声を掛ける。
牡丹に怒りの籠もった視線を向けられ、狼狽するエリオットからバルトルトとブラッドフォードは早々に距離を取っていたのだ。
幼なじみ達からの助け船も期待できないことを悟ったエリオットの顔から更に血の気が引いていく。
「覚悟は良いかしらん、エリオット?」
処女雪のように白い顔の中に咲き誇る、己と同じ名を冠する花のように色づく唇が弧を描く。
「まっっ?!」
「待ったなしよん!!」
語尾にハートが付きそうな牡丹の声が容赦なく響き渡り、エリオットの悲痛な叫び声が木霊するのだった。
※※※※※※※※※※
「それでん?
妾の問い掛けに対する答えは見付かったのかしらん?」
王の執務室内にある一番高価な椅子に優雅に腰掛けた牡丹は、スッキリとした表情でバルトルトとブラッドフォードへと問い掛けた。
「……桜様への贈り物ですか……。
あの御方は、牡丹様が選ばれたならばどんな物でもお喜びになると思いますが?」
執務室内の何処からともなく聞こえてくる、しくしくしく……、と言う悲しげな泣き声に眉間の皺をさらに深くしながらバルトルトが応える。
「……確かに桜様は想い人からの贈り物に苦言を呈するような御方では無いと私も思います。」
チラチラと執務室の隅にいる人物へと視線を送り、引き攣りそうになる頬を根性で押し留めているブラッドフォードも応えた。
「そんなことは妾だって分かっているのよん。
桜ちゃんは、誰よりも思いやりがあって、すごく優しいものん。
……妾が…………俺が選んだ物なら、彼女は喜んでくれるに決まってる。」
だから迷うんだ……、という物憂げな表情を浮かべた牡丹の本来の声音に戻った言葉は、バルトルト達に聞こえることはなかった。
精霊である牡丹が長い、永い時間を想い続けた、たった一人の最愛の女性。
手作りのお菓子を、温かな手の温もりを、穏やかで幸せな時間を、何時だって牡丹にくれる最愛の女性。
その女性が最高に喜ぶような特別で、己の想いが伝わるような“物”を牡丹は贈りたいのだ。
「…………」
脳裏に思い浮かぶ己の想い人の姿に、牡丹は無言で想いを馳せる。
……そんな切なそうに桜を想い、憂いを含んだ表情を浮かべた牡丹。
しかし、そんな甘酸っぱい気持ちを邪魔するように絶えず聞こえてくる牡丹にとっては不快とも言える“音”にピクリと眉を動かす。
「……あのね……妾が最愛の桜ちゃんのことを想って、切なげな表情を浮かべているのに……雰囲気を壊しちゃうような声を出さないでくれないかしらん?」
「「…………」」
大きな溜め息を付きながら発せられた牡丹の言葉に、バルトルトとブラッドフォードはその“音”の発生源へと視線を走らせる。
「うっ……う、うぅぅ……。
こ、こんな……こんなっ、はしたない格好をさせられて泣くなという方が無理でしょうっっ!!」
しくしくしく……、と泣き声を上げていたのは、牡丹にお仕置きされたエリオットだった。
「何なんですかっ、この服はっっ?!
上半身はまだしも、足の大半が出てしまっているでは有りませんかっっ!!
こんな姿をエリザベートにっ! 妻に見られたら生きてはいけませんっっ!!!」
羞恥からか涙を流しながら叫ぶエリオット。
エリオットは牡丹のお仕置きにより、その身を見慣れぬ装束に包んでいた。
三角形の濃紺の襟、胴体を包む白いシャツ。
胸元を彩る大きな紅いリボン。
膝よりも上の丈しかない濃紺のスカート。
「あらん、とっても似合っているわよん。
やっぱり、流石は男の娘ちゃんのパードレねん。」
「このようなことで褒められても嬉しくはありませんっっ!!!」
にいっこりと微笑む牡丹の言葉に赤銅色の二本のおさげを揺らしながら、涙混じりの声音でエリオットは叫び返すのだった。




