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牡丹の華麗なる贈り物 第三話よん!


 ある人物にとっては色んな意味で長かった一夜が明け、空に太陽が昇り、貴賤問わぬ人間達だけで無く動物たちも含めた命ある存在が活動を始める朝。


「……イザークは本当に大丈夫だったのであろうか……?」


 スピリアル王国の王都に(そび)え立つ白亜の王城。


 その王城内にある王の執務室において、国王であるエリオットはいつもの如く側近であり、幼なじみでもあるバルトルトとブラッドフォードへとボソリと呟く。


「「…………。」」


 エリオットの言葉を聞いた二人は顔を見合わせ、数十秒もせずに何事も無かったかのようにそれぞれの仕事へ視線を戻した。


「……バルトルト、ブラッドフォードよ、余の声が聞こえておるだろう? あからさまに視線を反らすでないわ。

 昨日は思わず牡丹様の言葉に頷いてしまったが……イザークは無事であろうか……?」


 聞こえない振りをしてやり過ごそうとする幼なじみ達に、ジトッとした視線を送ったエリオットは改めて問いかけた。


「……陛下、牡丹様は最高位精霊様方の中では常識的な部分も有る……お、おそらく有る方ではありますし、大丈夫では無いでしょうか?

 …………少なくとも身体的な面に関してだけは。」


「…………。」


 心の傷は本人でなければ分かりませんしね……、と明後日の方向へと視線を向けたブラッドフォードがエリオットへと答える。


 遠い目をして乾いた笑い声を漏らすブラッドフォードへと、バルトルトはその話題に応えるな、とばかりに普段以上に眉間の皺を深くしていた。


「それが心配なのだっ!」


 ブラッドフォードの言葉に我が意を得たり!、とバンッと大きな音をたてて重厚な執務机を叩き、エリオットは勢いよく立ち上がる。


「深紅のフリフリドレスを全面に出されていたとは言え、可愛い我が子を自他共に女装が大好きな牡丹様の前に差し出してしまったのだっ!!

 侍従に朝一番に無事を確認させたとは言え、心の傷の有無までは分かるまいっ!!!」


 何度も音を立てて執務机を興奮した様子で叩くエリオットの姿に、ブラッドフォードは頬を引き攣らせ、だから応えぬ方が良いのだと溜め息を付きながら、バルトルトは積み上がった書類が散らばらないように移動させていく。


「もしっ! もし……イザークが牡丹様のような派手な女装癖に目覚めてしまったら、親としての余はどうすればよいのだっっ?!」


 眼を見開き、震える拳を握り締めて叫んだエリオットの言葉に、最初は苦笑していたバルトルトとブラッドフォードは視界に現れた“何か”に気付いて狼狽し始める。


「「…………」」


 二人の様子に気が付くことなく力一杯叫んだエリオットに対して、バルトルトとブラッドフォードが言葉を返すことは無く、部屋の中は沈黙に包まれた。


「バルトルト……? ブラッドフォード……?」


 沈黙を貫き、視線を彷徨わせて言葉を返してくれないバルトルトとブラッドフォードに、エリオットも何かを感じ取り始める。


 二人のやっちゃたよ、的な意味を含んだとしか思えない視線はエリオットへ向く。


 しかし、様子を伺うような二人の視線はエリオットを通り越し、何も無いはずの背後へとチラチラと向いていることに気が付いたのだ。


「…………あ……あはは……ご、ご機嫌麗しゅう、牡丹様……?」


 背後からザクザクと突き刺さる徐々に強くなっていく視線を感じながら、恐る恐る振り向いたエリオット。


 意を決して振り向いたエリオットの視線の先には艶やかで、力の籠もった満面の笑みを浮かべた牡丹がいた。


「うふふ……妾の機嫌が麗しく見えるなら、その役に立たない目玉をくり抜いて交換することをお勧めするわよん。」


 執務机と大きな窓の間の空間に、見えない何かに腰掛けているかのように優雅な仕草で座っている牡丹。


 麗しい(かんばせ)の表情を形成する表情筋はしっかりと笑みを作っているはずなのに、牡丹の瞳は全く笑ってはいなかった。


「すっ……すみませんでしたぁぁぁぁぁっっっ!!!」


 ダラダラと冷や汗を流すエリオットは勢いよく直立不動してから、しっかりと九十度の角度で頭を下げ、牡丹へと謝罪の言葉を叫ぶのだった。



※※※※※※※※※※



「まったくもうっ! 失礼しちゃうわねん!!

 妾は妾なりに、イザベラちゃんを可愛がってあげてるのよん。

 それをまるで妾がイザベラちゃんに悪影響を与えているかのように言うなんてっ!

 牡丹、泣いちゃうんだからあん!」


 王の執務室内において、しっかりと何かに腰掛けている牡丹は両手で顔を覆って、傷付いたのよん!、と涙を拭くような仕草を繰り返す。


 ……もっとも、誰がどう見ても処女雪のように白い牡丹の頬は全く濡れてはいなかったが……。


「……悪影響という点は、まあ、なんと言いますか……。

 ただ……涙は流れておりませんし……牡丹様はこの程度で泣きはしない気が……。」


 牡丹が現れてから、王であり、幼なじみであるエリオットへの対応から視線を反らしていたブラッドフォードが、牡丹の突っ込み所満載な言葉に思わずボソリと呟いてしまう。


「あらん? 何か言ったかしら、ブラッドフォード?

 …………マードレに妾が独自に調べ上げた女性遍歴を有ること、無いこと、い・ろ・い・ろ! 吹き込んじゃうわよぉ?」


「すみませんでしたっっ!!

 ゆうり様に吹き込むのは止めて下さいっっ!!!」


 牡丹のお尻よりも下の部分へ哀れんだ視線を向けていたブラッドフォードは、瞬時に牡丹の言葉の意味を理解し、ゆうり直伝の土下座の体勢に入った。


 何よりも大切で、愛しい相思相愛の相手(ゆうり)へ、過去の己がしたことを既に知られている。


 だが、それでも想い人であるゆうりの牡丹(むすこ)から、直接ゆうり本人へと己の過去の醜聞を告げられたくは無いとブラッドフォードは思ったのだ。


 ブラッドフォードは土下座程度でゆうりとの関係に波風が立たないならば安い物だ、と真剣に考えていた。



 そんなブラッドフォードの行動に対してどうしましょん?、と美しくも、意地悪な笑みを向ける牡丹はしなやかな足を組み替える。


 そんな牡丹の尻の下では時々呻き声のような、何とも言えない音が聞こえていた。


「……牡丹様。」


 牡丹が現れてからことの成り行きを静かに見守っていたバルトルトは、小さく嘆息してから牡丹の名をよんだ。


「んふふ、何かしらん? バルトルト?

 あ、そうだったわねん! 妾達の新しいパードレと呼んで上げるんだったかしらん?」


 己の視線の先にいる無表情のバルトルトを見詰めながら、牡丹は形の良い唇の端を持ち上げて、意地悪く笑う。


 牡丹の言葉を聞いた二人……床に四肢をついて牡丹の椅子代わりになっているエリオットと、牡丹の言葉を理解すると瞬時に顔をバルトルトへと向け、その眼差しに殺い……ではなく様々な意味を込めて熱心に見詰めるブラッドフォード。


「きっぱりとお断りした過去の遺物を掘り起こさないで頂けませんかっ!

 あの時も言ったはずですが、私はセレナーデ一筋です!! それ以外のどんな女性にも興味は有りませんっっ!!!」


 エリオットは兎も角、ブラッドフォードの瞳に宿り、(せめ)ぎ合う感情に容易に気が付いているバルトルトは牡丹へと叫んだ。


「うふふ! 残念だけれど、そうだったわねん。」


 普段以上に眉間に皺を寄せ、焦った雰囲気を纏ったバルトルトや、新たな恋の好敵手の出現かと危惧して身体を硬くするブラッドフォード、己の下で狼狽しているエリオットの様子に溜飲を下げた牡丹。


 相変わらず、この人間三人組は面白いわねん、と牡丹は笑いながら、ゆっくりと椅子にしていたエリオットの背中から立ち上がった。


「まあ、良いわん。

 妾もね、別に暇じゃないのよん。 ちゃーんと、貴方達に用事が有って来たのだからん。」


 口元に男性にしては細く、長い、形の良い指を口元へと当てながら、牡丹は悪戯な笑みを浮かべる。


「「「…………。」」」


 牡丹の椅子から解放されたエリオットは床に座ったまま上体だけを起こし、ブラッドフォードも床の上にゆうりに習った正座をして座る。


 一人だけ立ったままのバルトルトはまた何かに巻き込まれるのかと微妙に疲れたような空気を纏い、エリオットとブラッドフォードは次はどんな無茶ぶりが来るのだろうかと戦々恐々とした思いを抱く。


「一応なりとも既婚者、婚約者持ちの貴方達に問うわよん。

 ……妾の可愛い、素敵な、世界一の恋人である桜ちゃんへの贈り物は何が良いかしらん?」


 一番重要で、複雑な妾の一番の悩みを解決して見せてん、と牡丹はニッコリと笑顔を浮かべて三人へ問いかけるのだった。




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