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牡丹の華麗なる贈り物 第二話よん!


 太陽も沈み、小さな蝋燭の炎だけが妖しく揺れる薄暗い一室。


 その薄暗い部屋の中には一人掛けのソファに腰掛け、背もたれにぐったりと肢体を預ける麗人がいた。


 精も根も尽き果てた様子の麗人の虚ろな瞳が薄暗い部屋の中を彷徨い、眼には目尻から溢れそうな涙が浮かんでいる。


 麗人の彷徨い続けていた焦点の合っていなかった涙で潤んだ瞳が、部屋の中にいたもう一人の人物を捕らえると、仄かに色付いた薄い唇が震え、悩ましげな吐息が……


「お願いですからもう解放して下さいっ! 牡丹様っっ!!

 一、二時間ほど前から胸自棄がして、砂を吐きそうな気分ですっっ!!!」


 ……漏れることはなく、麗人こと女装中のイザークは勘弁して下さい!、と牡丹を見詰めて叫ぶのだった。



※※※※※※※※※※



「あらん? まだたったの数時間しか話して無いじゃないのん!

 んもうっ! 最近の人間って忍耐力って物が無いのねえん。」


「正午を多少過ぎ去った頃より私は牡丹様に捕獲され、既に夕日は沈みきった夜まで惚気話を聞き続けましたよね?

 数時間に及ぶ苦行に耐えきった私へのお言葉にしては酷くは無いですか……?」


 しょうが無い子ねえん、と溜め息混じりに呟かれた牡丹の言葉に、相手が最高位精霊であることを記憶の彼方へと捨て去ったイザークが突っ込みを入れる。


「そうねえ……独り身のイザベラちゃんには刺激が強すぎたのかしらん?」


 涙眼で抗議の眼差しを送るイザークに対し、ごめんなさいねん、と牡丹は全く陰りの見られない美しい笑みを悪びれもなく浮かべて応えた。


「……はあ……もう良いですか、牡丹様?

 私も、王族の端くれである以上は一応執務という物が有るのです。

 ……私が担当している分を滞りなく終わらせねばなりませんし……今夜は徹夜ですね。」


 元々書類仕事が苦手という訳では無いが、どちらかと言えば身体を動かすことの方が好きなイザーク。


 そんなイザークは責任感が強い性格でもあるため、自身の担当する仕事を滞らせることで他者へと迷惑を掛ける訳にはいかないと、部屋の中で待ち受けているだろう紙の束を思い浮かべ徹夜を覚悟して溜め息を付く。


「うふふん……そんなイザベラちゃんに朗報よん。

 実はねん、イザベラちゃんのお仕事は貴方のパードレにちゃーんと、イザベラちゃんと遊ぶからよろしくしといて欲しいわあん、って頼んだから大丈夫なのん。」


「……え?」


 華やかな笑顔で告げた牡丹の言葉の意味が一瞬分からなかったイザーク。


「妾にだってねえ、イザベラちゃんにお仕事があることくらい分かってるのよん。……桔梗ちゃんではあるまいしねん。

 先に、イザベラちゃんのパードレ、えっとエリオットだったかしらん?

 その子に“万事お任せ下さい、牡丹様”って許可を貰ってるのん。」


「……父上…………!」


 優しく幼子に説明するように付け加えられた牡丹の言葉に、イザークががっくりと崩れ落ちる。


 イザークの脳裏には、深紅のフリフリドレスを構えた艶やかな笑みを浮かべた牡丹へと可愛いはずの息子を差し出すエリオットの満面の笑顔が思い浮かんだ。


 イザークを差し出すことを断れば牡丹の手に持った深紅のフリフリドレスを身に纏った上で、長い、ながーい惚気話に付き合わされることは明白だとエリオットにも分かったのだろう。


 エリオットの「イザークよ、これも最高位精霊様と精霊契約を結んだ者の運命(さだめ)と言うもの……。 自慢の我が息子よ、強く生きるのだぞ。」という、イザークにとっては有り難くもない突っ込み所満載の声すら聞こえてきそうだった。


「……はは、は……もう良いです……諦めが付きました。 どうぞ、牡丹様のお好きなように数時間でも、一晩でも、惚気話を続ければよいのではありませんか……」


 父であるエリオットに牡丹へと売られ……ではなく、快く遊び相手として宛がわれたことを悟ったイザークは力ない笑みを浮かべ、明後日の方向へと諦念の情の浮かんだ瞳を向ける。


「……ちょっと、イザベラちゃん。 その反応は何気に失礼じゃないかしらん?

 まあ、良いわよん。 惚気話は此処までにして、そろそろ妾の悩みごとに対して意見を貰おうかしらねん。」


 本当に失礼な子達ねん、と唇を尖らせてから溜め息を付き、牡丹は優雅に腰掛けて組んでた足を組み直す。


「……牡丹様の、悩みごと……?」


 諦めていたイザークだったが、牡丹を取り巻く空気が変化した事を感じ取り体勢を整え、思わず首を傾げてしまう。


「ちょっと、イザベラちゃんったら……まさかとは思うのだけど、妾の悩みごとを忘れたとか言うつもりかしらん?」


 ニッコリと麗しの口元には艶やかな笑みを浮かべているものの、牡丹の眼がそれを裏切っていた。


「恐れ多くも精霊契約を交わして頂いております、敬愛する牡丹様の悩みごとを忘れるはずが無いではありませんか!」


 牡丹の華やかな笑顔に身の危険を悟ったイザークは、一瞬の躊躇いもなく牡丹の悩みを忘れていないと言葉を返す。


「うふふ、ならば良かったわん。 この妾の悩みごとを忘れたりしていたら……ねえ?

 傷付いた妾の心を癒すためにも、イザベラちゃんだけではなくて山吹ちゃんのお気に入りの子と貴方のパードレ……取り敢えず眼に付いた子達全員で、妾を楽しませて貰う所だったわぁん。」


 艶やかな笑顔の牡丹が言い放った言葉に、イザークの背中に冷たい汗が流れ落ちる。


「……つかぬことをお伺い致しますが……“楽しませて貰う”とは一体なにを……?」


 引き攣りそうになる頬を意志の力で精一杯ねじ伏せ、ヒシヒシと嫌な予感がするイザークは問いかけた。


「あらん? とぉっても、妾が楽しい時間を過ごさせて貰うだけよん。

 ……妾の目に留まった、ドレスの似合いそうな子達全員を着飾らせて……そうねえ、王国内を行進して貰おうかしらん?

 “恋人募集中!”の看板を掲げて実名と自宅の有る場所を叫びながらねん。 もちろん、主役は貴方達王族の可愛い男の()ちゃん達よん。」


 にいぃっこりと笑顔を浮かべた牡丹の言葉の中身を、特に一番目立つように行進することになるであろう己や兄、父の女装姿を想像し、イザークは顔を青ざめさせていく。


 血の気が引いていくことを自覚しながら、フリルとリボンなどが満載のドレスで民衆へと手を振る己の姿をイザークは首を激しく左右に振って脳裏から追い出す。


 そんな恥ずかしい真似をするくらいならば、木の棒一本で王国最強の武人へと挑み、命を散らした方がまだマシだ、とイザークは心の底から思ってしまった。


「牡丹様の悩まれている内容は“恋人への贈り物”に関してですっ!

 しっかりと覚えておりますので、何の問題もありませんっっ!!」


 座っていた椅子を倒してしまう程の勢いで立ち上がったイザークは、色を失い必死な表情で牡丹へと叫んだ。


「でもねえ、覚えているだけじゃ駄目なのよん。 だって、妾が欲しいのは悩みに対する意見なのだからん。」


 必死な形相のイザークの様子に、んふふ……、と頬杖を付きながら蠱惑的な笑みを浮かべた。


「……ならば……!

 そう、そうですっ! 人生経験の少ない私ではなく、恋仲の女性がいる人物や、結婚されている人物の意見を参考にしてみては如何でしょうかっっ!!」


「恋仲の女性がいたり、結婚している人の意見……?」


 災厄を免れるための起死回生の一手を見つけたとばかりに興奮し、熱く語るイザークの意見に対して、首を傾げた牡丹は暫し思考を巡らせる。


 そして、良いことを思い付いたとばかりに牡丹は艶やかで、魅惑的な、ゆうりに似通った悪戯な笑みを美しい(かんばせ)に浮かべるのだった。




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