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恋とはどんなものかしら 蓮の裏話 その四!


 骨で出来た檻の中でお口にチャックし続けている桔梗を捕獲した蓮は、フェリシアにある己の屋敷にある爆発させてしまった部屋とは別の部屋へと転移して現れる。


 屋敷に到着したことで桔梗を檻から解放することにした蓮は、“理科室の仕事人軍団”へと視線だけで指示を出す。


「やっと出して下さいますのね! いい加減、黙っているのも疲れてしまいましたわっ!!」


 骨で出来た特製の檻から解放されて背伸びをする桔梗の姿を横目に見ながら、“理科室の仕事人軍団”へと爆発の後片付けを指示して退室させた蓮がため息混じりに呟く。


「お前は普段から喋り過ぎなんだ。 少しくらい静かにしていても罰は当たらんと思うがな。」


「むむっ! それではまるで、わたくし一人で普段から騒いでいるようではありませんかっ! わたくしほどお淑やかな乙女はおりません!……と、言いたいところですが、桜には負けてしまいますわ。」


 桜はとても女性らしい仕草が美しいですもの、と笑顔を浮かべる桔梗に対し、蓮は再びため息を付いてしまう。


「何ですの、蓮。 先程から見ておりますれば、何度もため息を付いて!

 この桔梗に遠慮せずに話してみなさいませ! そうすれば、ズバッと一瞬で解決して見せますわよっっ!!」 


 オーホッホッホッホッホッ!、といつもの高笑いを繰り返す桔梗に、頭痛がするように頭を押さえる蓮は眉間に皺を寄せる。


「……では、遠慮せずに言ってやる、アホの桔梗がアホすぎて困っている。」


「それは生まれ付きのことですから潔く諦めるしか……どうして、わたくしがアホですの?! いい加減、失礼でしてよっ!!」


 真面目な表情で告げられた蓮の悩みに対して桔梗なりに答えようとしたのだが、その内容が己のことだと理解して頬を膨らませてしまった。


「そうだな、桔梗。 お前のアホは生まれ付きだから、もうしょうが無いと諦めるしかないな。

 ……どうして、この僕がお前なんかを……」


「何ですの? 何か言いたいことがあるならば、はっきりと言って下さいませっ!」


 ぐしゃりと自身の髪を苛立たしげに掻く蓮は、唇を尖らせて己を見詰めてくる桔梗へと何か言いたげな視線を向ける。


 何時だって、心を寄せてしまった桔梗の破天荒な行動に振り回されてばかりで、全く蓮の想いに気が付こうともしない想い人。


「……ふん……桔梗。 お前があいつらの元へと行った理由は母君より聞き及んでいる。“乙女の恋心”だったか?」


 自分自身でも不機嫌そうな表情を浮かべていると自覚しながらも、蓮以外の異性の元へと簡単に駆け出して行く桔梗へと苛立ちは募り続ける。


「はうっ?! そうでしたわ! わたくし、まだその答えを聞いておりませんでした!!」


 蓮の言葉で思い出したように、再びナーフィアとハフィーズの元へと駆け出そうとした桔梗だったが、その行動は遮られた。


「……だから、お前はアホの桔梗なんだ。 すぐに他のことに気を散らして、目の前の存在から意識を逸らす。」


 自分のことを視界から簡単に追い出して、身を翻して駆け出そうとする桔梗の手を有無を言わさず掴んで制止した蓮は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべてしまう。


「何ですの、蓮? わたくしは、今すぐ乙女の心を解するナーフィアへと……」


「五月蠅い、アホの桔梗。 お前が他の男の所になど行く必要は無い。」


 何故邪魔をするのか、と首を傾げる桔梗に対し、恋人でもない以上は引き留める権限など無いと分かってるが、蓮は桔梗を掴んだ手に益々力を込めてしまった。


「どうしてですのっ?! わたくしはまだ答えを聞いてはおりません!」


 邪魔をしないで欲しい、と唇を尖らせる桔梗を、いっそのこと想いを告げた方が早いかもしれないと蓮は静かに見詰める。


 だが、視界に映る桔梗の姿に対して、どうしても蓮には譲りたくない想いがあった。


 それが、素直に桔梗へと想いを告げる心にブレーキを掛けてしまうのだ。


「聞きに行く必要など無いと言っているだろう。……そうだな、桔梗。 あと百年待て。」


「ほへ?」


 蓮の言葉の意味が分からず、頭上に疑問符を浮かべてしまう桔梗をじっと見詰め続ける蓮は言葉を続ける。


「僕達にとって百年の時など、瞬き程のものだろう。

 百年経った後に、僕が直々に教えてやる。 それならば、構わんだろう?」


「蓮が教えて下さるのですか?」


 譲れない、譲りたくない部分は有るものの、それを優先する事が目の前で己の言葉にキョトンとした表情を浮かべる桔梗の隣りに立つ権利を失う可能性が有ると理解している蓮。


 精霊である自分たちにとっては短い百年という時間の猶予を残し、恋敵の出方によっては再考する必要が有ると蓮は考え続ける。


「……分かりましたわ。 約束でしてよ、蓮! 絶対に百年経ったら、わたくしに教えて下さいませ!」


「ふん! アホの桔梗にしては懸命な判断だな。」


 多少悩んだ桔梗だったが、元々単純な思考回……蓮に教えて貰えるならばと考えて笑顔頷く。


「(……言える訳が無い。 好きになった女よりも身長が低いことを、この僕が気にしているなど口が裂けても言える訳がないだろう。)」


 桔梗の花のような明るい笑顔に満足そうに笑みを浮かべる蓮は、心の中で少しでも早く身長を伸ばす方法を見つけなければと決意を新たにする。


「(母君の好意を受け入れて、身長を伸ばして貰うことは簡単だが……僕も(おとこ)だ。 惚れた女を振り向かせるための努力に、他人の力を借りたくないと思ってしまう。)」


 男心から母であるゆうりの力を借りることも蓮は気が進まないと思ってしまう。


「(もっとも、百年の間に邪魔が入るならば、矜恃を捨てでも想いを告げる覚悟は決めているがな。)」


 普段通りの調子を取り戻した桔梗の高笑いと咽せる声を聞きながら、その時が来たならば僕が必ず教えてやる、と蓮は不遜な笑みを浮かべるのだった。




 蓮が桔梗を回収し、覚悟を新たにした頃……


「お母様はいつ頃より気が付いていたのですか?」


「んー? 桜ってば唐突に何の話しさ?」


 蓮へと桔梗がナーフィアの元へと“乙女の恋心”を問いかけに言っていることを教え、スッキリとした顔で戻ってきたゆうり。


 山吹や雛菊とのじゃれ合いを終え、桔梗の行動により散らかってしまったテーブルの上を片付け、改めてお茶会を始めていた桜、山吹、雛菊。


 そのお茶会の和にゆうりも加わり、ホッと一息を付いた頃合いを見計らい桜がゆうりへと問いかけた。


「蓮のことです、お母様。 何時頃より、桔梗への想いに気が付かれていたのですか?」


「こんなにも面白い話だい、ではなく……私達はお恥ずかしながら蓮の気持ちを察してはいませんでしたから。」


「うみゅう……でも、蓮は実験とかが大好きだから誰かを好きになる姿が想像出来ないなあ、って思ったの!」


 不思議そうに首を傾げる桜、含みのある笑顔を浮かべる山吹、純粋に驚いている様子の雛菊達へ応えるように、ゆうりは菓子に手を伸ばしながら笑顔を浮かべる。 


「あは! 何となくだよ、私も。」


「何となくですか……」


 今ひとつ納得出来ていない様子の桜達へと、ゆうりは言葉を続けた。


「蓮はさ、興味がないことに対しては実験とか、自分の好奇心を満たすことを優先するでしょう? でも、桔梗のことに関してだけは進んで動くことが多かったしね。 それに、好奇心旺盛な蓮にとっては何をするか分からないビックリ箱みたいな桔梗は興味を惹くんじゃないかなって。」


「そう言われれば、確かに蓮は桔梗に関することだけは進んで動くことが多かったですね。」


「にゃは! みんなで一緒にいる時ね、蓮はいっつも桔梗の隣りにいたよ!」


 笑いながら応えるゆうりの言葉に、山吹達は過去の蓮の行動を思い出して納得してしまう。


「……では、もしかして……背の低いことを気にしている一番の理由は……?」


「桔梗よりも、ちょこっとだけ背が低いことを気にしているんだろうねえ。」


 口元に手を当てて蓮の身長に拘る理由を察した桜へ応えるように、私に頼めば背を伸ばすなんて簡単なのに!、と苦笑するゆうり。


「蓮にね、身長を伸ばそうか声を掛けたんだけど、断られちゃったんだよね。 自分でやらなきゃ意味が無いんだってさ。」


「……複雑な男心なのですね……」


「拘ることを悪いとは言わんが、それで獲物を逃がしては意味が無いでしょうに。」


「うにゃ! 他の人にとられちゃうよね!!」


 複雑な男心を抱えた蓮の前途多難な恋路をそれぞれに想像し、何とも言えない表情でお茶会を続けるゆうり達であった。


 斯くして、フェリシアのみならず、ナーフィア達も巻き込んだ桔梗の“乙女の恋心とはなんぞや”の問いかけ騒動は、百年後の未来に持ち越されることとなる……。


 百年後の未来……桔梗が“乙女の恋心”を無事に身長の伸びた蓮に伝授される日が来るかは……誰にも分からないことである。




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