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恋とはどんなものかしら 蓮の裏話 その一! 


 天空に浮かぶ精霊王の座す伝説の島、“フェリシア”。


 故郷を懐かしんだ精霊王の心を反映したように四季が巡る美しい島には、決して似合わぬと誰もが肯定するであろう大地を踏みしめ駆け抜ける数多の足音と奇怪な笑い声の不協和音が響き渡っていた。


「オーホッホッホッ! オーホッホッホッホッホッ、ごほっぐふっ……」


 その不協和音を発生させているのは土煙を上げて爆走する美しく、逞しい強靱な肉体美を誇る(おとこ)達、“激・黒鋼漢(くろがねおとこ)団”の面々であった。


 そして、その“激・黒鋼漢(くろがねおとこ)団”が担いだ御輿の上に立つ、口を閉じていれば外見は十分に健康的な美少女と言えるであろう少女、大地を司る最高位精霊こと桔梗の発する高笑いと咽せる咳の音などの騒音の数々が不協和音となってフェリシアに木霊していたのである。


 そんな桔梗の発する高笑いを含んだ騒音の被害を一番に被ったであろう瑞々しい緑の美しい屋敷の庭には四人の人影があった。


「……まるで嵐が過ぎ去ったかの如く、疲れてしまいましたわ。」


「にゃは! 桔梗は元気いっぱいですごいよね!! 桜っ、私も桔梗に負けないように頑張るね!!」


 嫋やかな美しさを持った女性、植物を司る最高位精霊である桜は疲れたように冷めてしまったお茶で喉を潤す。


 その隣りに座るツインテールの可愛らしい、元気いっぱいの輝く笑顔の少女、風を司る最高位精霊である雛菊はオーホッホッホッ、と桔梗の真似を始める。


「ふむ、此処は私も桔梗の真似をして高笑いを練習するべきなのだろうか?」


 楽しそうな雛菊の姿にクスリと笑みを溢した男装の麗人、光を司る最高位精霊である山吹が微笑を浮かべながら呟いた。


「雛菊、桔梗の真似をしてはなりませんよ。 山吹、貴女もそのような練習をする必要は有りません。」


 桔梗の真似をして不慣れな様子で高笑いを始めた雛菊と山吹に対し、桜は背後に何かを背負いながらニッコリと笑みを浮かべる。


「「……はいっ、ごめんなさい!」」


 桜の美しすぎる微笑とは裏腹にその背に現れた憤怒の形相の何かに、身の危険を感じ取った雛菊と山吹は瞬時に謝った方が良いと判断し、申し合わせたように躊躇うことなく直角に頭を下げた。


 桜の機嫌を取ろうとし始めた雛菊と山吹の姿にクスクスと小さな笑い声が響く。


 それは、可愛らしくじゃれ合う愛娘達の姿を温かく見守りながら、団子を口に運ぶ双黒の女性から発せられていた。


 団子を美味しそうに頬張りながら、悪戯っ子のような笑みを浮かべる精霊王たるゆうりは、走り去っていったもう一人の娘のことを想う。


「んー……人間に教えて貰えばいい、とは言ったものの……ちょっと早まっちゃったかな?」


 モグモグと口を動かし続けながら、ゆうりにとっては可愛い息子の一人である人物の姿が脳裏へと思い浮かんだ。


「あは! 結局は当人同士の問題だし、どっちか片方を応援するつもりは無いけどさ……ちょっとだけ突いてみようかな。」


 最終的には桔梗が決めることだしね、と笑みを浮かべるゆうりは悪戯な笑みだけを残して、桜の屋敷の庭より姿を消すのだった。



※※※※※※※※※※ 



 フェリシアの一角に有る不気味な雰囲気を漂わせる一軒の屋敷。


 年期を感じさせる石造りの壁にはツタ植物が生え、より一層妖しい雰囲気を増大させてしまっている。


 ほとんどの窓には分厚いカーテンが閉められ、小さな明かり取りの窓から覗くことが出来る屋敷の中は様々な分厚い本や、走り書きのような荒い文字で何やら書き留められている紙などが大量に所狭しと散乱している。


 その上、コポリ、コポリと不気味な色の液体がビーカーやフラスコの中で泡を立て、試験管などの実験器具が並べられていた。


 だが、そんな不気味な屋敷を際立たせる静寂を切り裂き、突如として大きな爆音が周囲に木霊する。


 爆音が響き渡った後には、分厚いカーテンが引かれていた窓から黄色や緑、紫と言った極彩色の煙が幾筋も立ち上っていく。


「げほっ! くっっ……失敗かっ!

 ちっ! あの半漁人の干物を粉末にした奴の量が多すぎたか。……まあいい、大切な材料は無事だからな。」


 一人の白衣を纏った小柄な少年が、極彩色の煙るが立ち上る窓の一つを大きく開いて咳き込みながら顔を出せば、悔しげな表情を浮かべて独り言を呟いた。


「あはっ! 相変わらずだね、蓮!」


 煙が目に染みるのか涙眼になりながら咳き込み続ける、闇を司る最高位精霊こと蓮へと何も無い空中に突如として現れたゆうりが笑顔で声を掛けた。


「けほっ……母君?」


 涙眼になった目を擦り、徐々に咳の治まってきた蓮は空中に現れた己の母の姿に首を傾げる。


「どうされたのですか、母君? 僕が実験中や読書に夢中になっている時は、そっとしていてくれる母君が訪ねてくるなんて珍しいですね。」


「んー……ちょっと、伝えとこうかなって。」


 不思議そうに己を見上げてくる蓮へと、ゆうりは悪戯っ子な笑みを浮かべて率直に告げた。


「桔梗が“乙女の恋心”を知りたいんだってさ。」


「は……?」


 ゆうりの予想外の言葉の意味をすぐに理解出来なかった蓮は、ポカンとした表情を晒してしまう。


「……あのアホは、藪から棒に一体今度は何を考えているんですか。」


 ポカンとした表情を浮かべてしまったことに、羞恥心を抱きながら蓮は小さく咳払いをしてゆうりへと話しかける。


「さあ? 桔梗の行動は突発的に発生する台風のようなものだから、私にも分かんないんだよね。」


 徐々に桔梗の過去の行動の数々を思い出し、呆れたような表情へと変化させていく蓮に対してゆうりはニッコリと笑顔を浮かべたまま、ただね……と言葉を続けた。


「ここ最近、恋愛の話題が多かったしさ……桔梗も恋したくなったんじゃない?」


「……あんなアホの桔梗が恋心なんて抱けるはずがありませんよ。 あいつは“激・黒鋼漢(くろがねおとこ)団”の御輿に乗って高笑いしている姿がお似合いです。」


 馬鹿馬鹿しいとばかりに顔を顰める蓮の言葉に、ゆうりは益々笑みを深めていく。


「そうだねえ……でもさ、よく言うじゃん。“恋は落ちるもの”って。」


 例えばお気に入りのあの砂漠の王子様とかに、ね……とゆうりは不機嫌そうな蓮へと告げたのだった。



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