恋とはどんなものかしら その6!
高笑いを続ける桔梗の後頭部を再びゆうりから手渡されていたハリセンで張り倒して強制的に黙ら……静かにするように促したナーフィア。
「……うぅぅ……最近、ナーフィアはわたくしに対しての敬意や容赦が無くなってきているように感じますわ! 貴方は、是非とも出会った頃持っていたあの初々しさを取り戻すべきですわよ。 あの頃のナーフィアをぷりーずですっっ!!」
叩かれた頭を擦りながら“激・黒鋼漢団”が破壊した壁や扉を魔法で修復していく桔梗は、唇を尖らせてナーフィアへと呟く。
「意味分かんないことを俺に求めんなよ。
……今思えば、あの時に話しかけなければ良かったと心底後悔してる。」
後片付けくらいしっかりしろ、とハリセンを片手に見張るナーフィアは、桔梗の言葉へとため息を付く。
「危機一髪の所を助けて頂いたことに恩義は感じておりますし、精霊、それも最高位にある御方と契約を結べたことは、本来喜ばしいと言う言葉などでは足りないほどに光栄なことですのに……。
どうして、相手が桔梗様だと断固拒……辞退してしまいたい気持ちになるのでしょうね。」
無表情でありながらも、視線だけで遺憾の意を示しているようなハフィーズがナーフィアの言葉に付け足すように告げる。
「最近のお二人は本当にわたくしに対する容赦が無くなりましたわ!」
「容赦が無くなったのは、あんたの性格が一番の原因だと思うけどな。
それよりも、桔梗は俺達に何か用事が有ったんじゃねえのか? 裁縫を教える日は今日じゃねえぞ?」
ムウッと頬を膨らませる桔梗へと、苦笑したナーフィアが問いかけた。
「そうでしたわっ!! わたくし、忘れてしまうところでしたっっ!!!」
両手を胸の前で叩き、キラキラと瞳を輝かせ始めた桔梗の反応にナーフィアとハフィーズはもの凄く嫌な予感を覚えてしまう。
「……わ、忘れるくらいのことなら、無理して聞かなくても良いんじゃねえか?」
「殿下の言う通りです。 心の奥底に何十にも封をして、これでもかと重しを付けて沈めておくことをお薦めします。」
頬を引き攣らせるナーフィアに対し、余計なことを言うんじゃありません、とハフィーズは手に桜に渡されていたスリッパを無表情に構える。
しかし、そんなナーフィアとハフィーズの心境など意に介さずに桔梗は大きく息を吸い込む。
「わたくしに教えて下さいませっ!! 乙女の恋心とは一体何なのでしょうっっ!!!」
ババーンッと荒れ狂う波を背後に背負い立つように、勢いよく叫んだ桔梗の言葉の内容を聞いたナーフィアとハフィーズは、思わずポカンとした表情を浮かべてしまう。
「……乙女の……?」
「……恋心……?」
唖然とした様子でオウム返しに呟いたナーフィアとハフィーズに対し、深く頷いて更に身を乗り出すように桔梗は叫び続ける。
「精霊界きっての熱き正義の心を持ち、全ての清廉なる乙女達の守護者たるこの不肖、桔梗っっ!! 彼女たちの味方と言いながら、以下省略なのですっっ!!!」
興奮した様子で拳を握り締め、頬を赤く染めて瞳に燃えさかる炎を滾たぎらせる桔梗は鼻息荒く叫び続ける。
「……省略するなよ。 聞きたい訳じゃねえけど。
でも……何が怖いって、桔梗の言いそうなことが分かるようになってきた自分が一番こえーよ。」
「……深く同意致します、殿下。 私にも、桔梗様が言いそうなことが脳裏に浮かんでしまいました。」
疲れたような笑顔を浮かべるナーフィアへと遠い目をしたハフィーズが応え、顔を見合わせるとがっくりと肩を落とす。
「オーホッホッホッホッホッ!
それだけ、わたくしと貴方達の友情と正義を愛する魂が燃えさかっている証拠ですわ!!」
省略しても理解をしてくれると信じておりますものっっ!!、と高笑いを桔梗は響かせ始める。
「……相変わらず訳わかんねえ持論を展開するんじぇねえ。 それに、いつも言ってるだろうが。 高笑いをすると咽せるから気を付けろって!」
再び高笑いを始め、いつもの如く咽せだした桔梗の背中をナーフィアは手が掛かる奴だな、と擦りながら声を掛けるのだった。
咽せていた桔梗が落ち着いた頃を見計らい、ナーフィアが髪をグシャグシャと掻きながら呟く。
「あのな、桔梗。 いつも、いっつも言ってるけどな、俺は乙女じゃねえっ! だから、乙女の恋心なんざ知らんっ!!」
乙女の恋心など知らない、と叫ぶナーフィアへと、桔梗は自信満々に胸を張って答えた。
「大丈夫でしてよ、ナーフィア! わたくしの下調べ及び、事前学習は完璧ですっ!!
乙女の恋心とは、並み居るライバルと書いて友と読む者達ををバッタバッタと薙ぎ払いっ、己の恋する王子様を手に入れるために闘う麗しき心っ!! 即ち恋する異性のハートを狙う狩人のような物っ!!!」
「何処が完璧っっ?! つーか、一応自分の中で全く持って同意は出来ねえが、答えが出てるじぇねえかっ!!」
「……狩人……言い得て妙と言いますか……しかし、そんな乙女は絶対に関わりたくないですね。」
恋する乙女は何処の狩猟民族だよっっ!!、と突っ込みを入れるナーフィアと、桔梗の中の乙女像を想像してしまったハフィーズが頬を引き攣らせてる。
……桔梗の恋する乙女の説明にハフィーズの脳裏に浮かんだのは、華麗なドレスを身に纏い、それぞれに美しすぎるポーズを決める“激・黒鋼漢団”の面々だったからである。
「わたくしが述べましたのは、あくまで下調べの段階での答えですわっ!
……わたくしだって一応考えたのです。 でも、ムッティや桜の相手を想う幸せそうな横顔や、山吹の過去に想いを馳せる背中に、雛菊の弾む想いを抱いた姿を見ると、この答えでは納得出来ないのです。」
シュンとして眉を八の字に顰める桔梗の表情に、ナーフィアは困惑したように視線を泳がせてしまう。
「…………」
珍しく元気が無い様子の桔梗へと、もう一度頭を掻いたナーフィアは大きなため息を一つ付き、覚悟を決めたように口を開く。
「あのな……俺だって王族だし恋愛経験が豊富って訳じゃない。 射止めるとか、狩人で有ってるって言う奴も世の中にはいるかも知れねえ。
でもよ、誰かを好きになるとその相手に会うだけで嬉しかったり、側にいることが出来ないことを悲しんだり……十人十色で感じ方は色々じゃねえの?」
ぶっちゃけ片思い中のハフィーズに聞いた方が早い気はする、と心の中だけで考えながらナーフィアは桔梗へと告げた。
「色々……」
己の答えに益々困ったような表情を浮かべる桔梗へと、ナーフィアはどうしたものか、と思考を巡らせるが、途中で面倒臭くなってしまった。
「あー……いっそのこと、俺にでも恋してみた方が早いんじゃねえの?」
「え?今何と、ふぎゅっっ」
疲れたようにボソリと告げられたナーフィアの言葉がしっかりと聞き取れず、問い返した桔梗は再び頭部に走った衝撃に変な悲鳴を漏らす。
「見つけたぞっ! アホの桔梗っっ!! 今度は何をアホしてやがるっっ!!!」
突如として現れた黒い影が手に持つスリッパが桔梗の頭を直撃し、スッパァァァンッッ!と良い音を響かせるのだった。




