恋とはどんなものかしら その3!
脈絡の無いように感じる桔梗の発言に暫し固まってしまっていたゆうり達であったが、一早く思考が回復したゆうりが代表するように深いため息を付いて真意を問いかける。
「あのねえ、桔梗……いきなりどうしたのさ?」
「オーホッホッホッホッホッ! わたくしは気が付いたのです!!」
胡乱げな眼差しを桔梗へと向けるゆうりに気が付くことはなく、いつもの如く元気に高笑いを響かせる桔梗はズビシッとゆうり達へと人差し指を突きつけ叫ぶ。
「精霊界きっての熱き正義の心を持ち、全ての清廉なる乙女達の守護者たるこの不肖、桔梗っっ!! 彼女たちの味方と言いながら、可憐なる乙女達を形成する三つの主要成分である物の内で理解出来ていない物があったことに気が付いたのですっっ!!!」
興奮した様子で拳を握り締め、頬を赤く染めて瞳に燃えさかる炎を滾らせる桔梗は鼻息荒く叫び続ける。
「……あはー……精霊界きっての正義オタクの間違いな気がするなー……」
「うみゅう、間違いな気がするなあー! にゃはは!」
空笑いを浮かべるゆうりに抱き付きながら、雛菊は明るくゆうりの言葉を真似して笑う。
「ふむ。 桔梗はいつから清廉で可憐な乙女の守護とやらになったのだ?」
「……さあ、いつからなのでしょうね?」
熱弁を振るう桔梗へと不思議そうな眼差しを向ける山吹は首を傾げ、桜は頭痛がするのか米神を押さえている。
「乙女を形成する主要成分!
一つっ! “ふぁんしー”で“ぷりちー”な可愛らしさを愛する純粋な心!
二つっ! 清廉潔白、悪しき物に決して染まりはしない純白の無垢なる心っ!!」
益々ヒートアップしていく様子の桔梗へと、ゆうりと桜は遠い目をしてしまい、雛菊は椅子をお立ち台代わりに立つ桔梗の真似を始め、山吹はふむふむ、と桔梗の熱弁に耳を傾けていた。
「そしてっっ! 三つっ!! 並み居るライバルと書いて友と読む者達ををバッタバッタと薙ぎ払いっ、己の恋する王子様を手に入れるために闘う麗しき心っ!! 即ちっ恋する乙女心ですわっっ!!!」
お立ち台代わりの椅子に立ち、益々興奮した様子で大きな音を立てて机の上へと片足を乗せ、天へと拳を突き出す桔梗の背後には、その心を反映するかのように荒れ狂う大波の幻影が見えた。
おおっ!、と桔梗の熱弁に感嘆の声を上げた山吹と雛菊を尻目に、額に青筋を浮かべたゆうりが動いた。
「行儀が悪いっ! おかーさんはそんな子に育てた覚えは無いよっっ!!」
「オーホッホッホッ! オーホッホッホッホッ、げほっ……けほっ、うきゃんっっ」
“精霊王専用武器☆天下無双”を手に持ち桔梗目掛けて跳び上がれば、高笑いをしすぎて咽せ始めていた桔梗の頭目掛けて躊躇うことなく振り下ろす。
子犬のような鳴き声を上げて地面へと顔面から落ちることになった桔梗は、ベシャリと受け身すら取れずに倒れてしまう。
「む、ムッティっ?! 何をなさいま、す……の……え、えっと、桜さん……どうして、お母様特製の“専用武器”を構えていますの?」
しかし、すぐに地面から顔を上げてゆうりへと話しかけようとした桔梗だったが、その眼前にゆらりと人影が現れる。
「うふふ……決まっているでは有りませんか。 私が一生懸命に作ったお菓子が乗ったテーブルを土足で踏み荒らしましたわね。 百歩譲って椅子までは許しましょう。」
うふふ、と唇だけが弧を描く桜の瞳は危険な輝きを宿していた。
「……ですが、それ以上は許容できませんわ。」
華奢な手に持った“桜専用武器☆山紫水明”をビシリと鳴らす桜から冷気が立ち上り、本気で怒らせてしまったことを悟った桔梗は潔く戦略的撤退を選択した。
「……ふぎゅっっ?!」
しかし、その選択は既に遅く……その身を翻した桔梗の足首には“桜専用武器☆山紫水明”である茨の鞭が絡まっていた。
「うふふ……逃がしませんわよ。」
ゆらり、ゆらりと静かに近づいて来る桜の姿に、足に絡みつく茨の鞭の所為で転んだ桔梗は顔を蒼白にして震え、助けを求めるように周囲へと視線を走らせる。
「……ふ、ふむ。 雛菊よ、今日は良い天気だな。 団子も絶品だ。」
君子危うきに近寄らず、とばかりに背を向けて団子を食べながらお茶を啜る山吹。
「う、うにゃあ……」
その隣で同じく桔梗に背を向けて全力で見ない振りをしている微かに震える雛菊。
「あは! 熱弁を振るうのは構わないけどさ、人が一生懸命に作った料理の乗るテーブルに土足で足を上げるお馬鹿さんは、しっかりと桜のお説教を受けると良いよ。」
桜は優しいから懇切丁寧に、それはもう付きっきりでお話ししてくれるよ、とニッコリと笑顔を浮かべたゆうりが桔梗へひらひらと手を振る。
「……っ?!……は、薄情者ですわあぁぁぁぁぁっっっ!!!」
誰にも助けを望めないと理解した桔梗の絹を引き裂くような悲鳴が晴天に木霊する。
「では、桔梗。 其処に直りなさいませ。 今日という、今日は貴女のその慌ただしい性根を叩き直して差し上げます!」
「いにゃあぁぁぁっっっ!! ごめんなさいませっ、さくらぁぁぁっっっ!!!」
正座なさい、悪い子にはお仕置きですわ、と地面を“桜専用武器☆山紫水明”でビシリと叩いた桜の大きくは無いはずの力強い声に、桔梗は悲痛な叫び声を上げながらも、条件反射のように姿勢をすぐに正すのだった。
数時間後……常日頃からの生活態度に始まり、礼儀作法、“激・黒鋼漢団”達を突然人間に嗾けてはいけない等々、小言混じりの説教を終了させた桜は輝かんばかりの笑顔を浮かべていた。
「……では、桔梗? これでお説教は終わりですが、同じことを繰り返すことが無きように日々を過ごして下さいませ。」
「……あうぅぅ……さくらしゃん、こわい……さくらしゃん、こわい……あ、あしが……」
笑顔を浮かべる桜の目の前には、お説教中は正座を崩すことを許されずにいた桔梗があうあう、と涙を流していた。
「にゃは? 桔梗ってば足がどうかしたの?」
「いっやあぁぁぁぁっっ!! 駄目ですわっ! 雛菊っっ棒の先でツンツンしないで下さいましぃぃぃっっ!!!」
桜の説教が終わった気配を感じ取り、あうあうと泣く桔梗へと雛菊が小首を傾げながら近付いていく。
そして、プルプルと震える桔梗の足を、雛菊が手に持った棒の先でつんつんと突けば悲鳴混じりの絶叫が響き渡る。
「ほほう……此処かな、桔梗?」
「うっきゃあぁぁぁっっ!! 山吹っっ?! なにゆえっ貴女まで参加しておりますのぉぉぉっっ!!!」
ジタバタと逃げようと足掻く桔梗の姿が面白いのか、つんつんと突き続ける雛菊の反対側にニンマリとした笑顔を浮かべた山吹も棒を手に持ち参戦し始めた。
「ふふっ、嫌よ、嫌よも好きのうちと言うではないか。」
にゃはは、ふふふ……、と笑いながら楽しそうに桔梗をつんつんする雛菊と山吹を温かく見守りながら、スッキリとした様子で戻ってきた桜へとゆうりはお疲れ様、と声を掛ける。
「ムッティィィィっっ! 桜ぁぁっっ!! どうかっ、どうかっっ、助けて下さいませぇぇぇっっ!!!」
痺れた足を突かれ続ける桔梗の助けを求める声にゆうりは苦笑して、雛菊と山吹を諫めるために動き出すのだった。




