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恋とはどんなものかしら その1!


「マリーロゼ……あまり無理をするな。」


 椅子に腰掛けて専門書を読むマリーロゼの傍らにある小さな机の上に、コトリと小さな音を響かせて温かな湯気の立ち上る紅茶を置いた柊は心配そうな眼差しを送る。


「あ……申し訳ありません、柊様。 私が用意するべきでしたのに。」


「別に、マリーロゼが茶を用意せねばならない訳では無いだろう?……あまり上手ではないが、懸命に努力するお前のために俺が勝手に煎れたくなっただけだからな。」


 しおりを挟んだ専門書を傍らに置き、立ち上がろうとするマリーロゼを制した柊は微笑を浮かべ告げた。


「ですが……いえ、ありがとうございます。 柊様、マリーロゼは嬉しゅうございます。」


 柊が己のためだけに慣れない手つきで煎れてくれた紅茶が嬉しかったマリーロゼは、淡く頬を染めて幸せそうに微笑む。


「……そうか。」


 幸せそうに微笑むマリーロゼの姿に、照れくさそうに視線を反らしてしまう柊。


「柊様、早速頂きますわ。」


 上品な仕草で紅茶を口に運ぶマリーロゼを柊は緊張に胸を高鳴らせながら横目で見詰める。


「……柊様が煎れて下さったからでしょうか? 何時にも増して、美味しく感じます。 柊様、ありがとうございます。」


「……ああ……どう致しまして、か?」


 心の其処から嬉しそうに微笑むマリーロゼへと、柊も目元を和らげて幸せそうに穏やかな眼差しを送るのだった。



 そんな柊とマリーロゼの幸せそうな姿を窓の外から覗いている影があったのだが、二人が気付く前に消え去ってしまった……。



※※※※※※※※※※



 そよ風が吹き抜ける、青々と茂った瑞々しい緑が美しいフェリシアにある牡丹の屋敷の庭に、牡丹と桜の姿が有った。


「……なあ、桜。」


 桜と二人っきりの時だけ、常に纏っている女物の衣装を脱ぎ捨てて、華やかな女性的な口調も本来の男の口調と声音に戻している牡丹。


「どうされました、牡丹?」


 己の前でだけ見せる想い人の姿に、どうしても嬉しくて頬が緩んでしまう桜は愛しさを含んだ声音で問い返す。


「俺さ……すげえ、幸せだ。」


 後頭部に感じる柔らかでありながら、弾力性のある温かな桜の太ももの感触を堪能する寝そべった牡丹が幸せそうに眼を細めて呟く。


「私も、幸せです。 この穏やかな時間が末永く続けばよいと願うほどに……。」


 己の太ももの上にある牡丹の長く美しい蒼い色の髪に優しく手櫛を通しながら、桜も幸せそうに穏やかな笑みを浮かべる。


「……桜……愛してる。 だから、ずっと側にいてくれ。」


 牡丹は己へと慈愛に満ちた眼差しを送ってくる桜の白い頬へと手を伸ばし、優しく手を添える。


「はい、牡丹。 私も、貴方をお慕いしておりますわ。……どうか、共に……。」


 牡丹の髪を梳いていた手とは反対の手を、桜は己の頬に優しく添えられた牡丹の手に重ね合わせる。


 押し殺した情熱と穏やかな想いの宿った視線が交わり、どちらとも無く牡丹と桜は幸せそうに微笑み合うのだった。


 

 そんな恋人達の午後の一幕を、草の影から見詰めていた影があったのだが、二人が気付く前に消え去ってしまった……。



※※※※※※※※※※




「ゆうり様っ!」


「ふにゃっっ?!」 


 バルトルトやアイオリアとの家族の時間を堪能するマリーロゼの邪魔をしないように別室にて静かに読書していたゆうりは、己の名を呼びながら後ろから抱きついてきた人物に驚きの声を上げた。


「何すんのさっ! それに、急に抱きつかないでって言ったじゃんっっ!! ブラッドフォードのばかあぁぁぁっっ!!!」


「ぐふっっ」


 イスリアート公爵家へと騎士団の仕事が終了後に訪れたブラッドフォードは、マリーロゼ達とは別室で己を待つように静かに読書するゆうりの後ろ姿を視界に映し、我慢できずに飛びついてしまったのだ。


 その結果、振り向き様に放たれたゆうりの黄金の一撃が頬を捕らえ、呻き声を上げながら吹き飛ばされる事になってしまった。


「……く……相も変わらず、容赦ない鋭い一撃ですね……」


 赤くなった頬を押さえながら倒れた身体を起こすブラッドフォードは多少痛みに顔を顰めているが、何故か嬉しそうだった。


「……あはー……なんで、殴られて嬉しそうなのさ、君は……?」


 何故か殴ったはずのゆうりの方が疲れたように、ため息を付きながらブラッドフォードへと声を掛ける。


「決まっています。 全てがゆうり様との大切な日常だからですよ。 どんな些細な出来事であっても、ゆうり様が関わった事ならば、私にとっては何にも代え難い大切な宝ですから。」


 己への愛情を隠しもしないブラッドフォードの言動に、ゆうりは益々頬を赤らめてしまう。


「どうして君は、恥ずかしげも無くそんな言葉を言えるのさっ?!」


「おや、そんなことは簡単なことですよ。 私がゆうり様を愛しちゃってるからですね。」


 身体を起こしたまま立とうとせずに、座り込んだままのブラッドフォードの拳を受けて赤くなった頬へと手を伸ばしていたゆうりの手が止まる。


「だからっ!……もう良いよ……ブラッドフォードってば、わざと言ってるでしょう?」


 恥ずかしがる私を見て楽しんでいるでしょう、と目元を紅く染めたままでジトッとした視線を送るゆうりへと、ブラッドフォードは嬉しそうに笑う。


「ばれてしまいましたか。 私の言葉に頬を染めるゆうり様があまりにも愛しくて、ついやってしまうのです。」


 どうかお許しを、と中途半端に伸ばされて固まったままだったゆうりの手を取り、ブラッドフォードは口付ける。


「うひゃっ?!……んのっ、おばかあぁぁぁぁっっ!!!」


「うぐっ」


 ブラッドフォードに口付けられた手の甲が熱を持ち、頭から湯気が出てしまいそうな程にゆうりは頬と言わずに首筋まで紅く染め上げてしまう。


 囚われて口づけを受ける事になった利き手とは反対の左手の拳を握り締め、放たれた苛烈な一撃が再びブラッドフォードの頬を捕らえるのだった。



 そんな甘いような、辛いような雰囲気に包まれながらも幸せそうな二人の姿を屋根の上から逆さまになって覗く影があったのだが、二人が気付く前に消え去ってしまった……。



※※※※※※※※※※



「……全く持って分かりませんわ……わたくしは可笑しいのでしょうか?」


 人里離れた森の中に有る大きな木の上で腰に手を当てて仁王立ちする桔梗は、天へと昇り行く眩しい朝日の光に照らされながら呟く。


「ムッティも、桜も、宿命の乙女も……おそらく雛菊も、山吹も、みんな実践していることのようです。 ですが、何故わたくしには分からぬのでしょう?」


 考えても出ない答えに桔梗は首を傾げ続ける。


「……考えても答えが出ぬならば、聞けばいいのですっっ! 本日は女子会の日っ!! ムッティも、桜も、皆が集まりますものっっ!!!」


 朝日にも負けない輝く笑顔を浮かべた桔梗は、思い付いた一つの考えに独特の笑い声を響かせ始める。


「オーホッホッホッ! オーホッホッホッホッホッ!!

 経験者は語る、と言いますものっっ!! 根掘り葉掘り聞けば、わたくしにだってきっと理解出来るはずですわっ!!!

 善は急げっ! 早起きは三文の得っ!! 間髪入れずに特攻有るのみっっ!!!

 待っていなさい、乙女の恋心っ! 必ずやわたくしが理解して見せましてよっっ!!!」


 オーホッホッホッホッホッ!、と早朝に奇怪な笑い声を響かせる桔梗の声と咽せてしまった咳の音に、逃げ出す鳥たちの翼が朝日の中に煌めくのだった。




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