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エミリオ・ラファティン補佐官の一日 その一。


 一番鶏の鳴き声もまだ響かず、太陽も未だ顔を覗かせていないものの、東の空がうっすらと藍色に染まり始めた早朝と言える時間帯。


「……もう、朝ですか……くっっ……」


 近衛騎士団こと、サントル騎士団に所属する補佐官の一人であるエミリオ・ラファティンは、身体を柔らかな寝台から起こすと大きく背伸びをした。


 固くなった筋肉を解してから寝台を下りて、いつも通りに窓を覆うカーテンを開け放ち、朝一番の新鮮な空気を胸一杯に吸い込む。


「今日も一日、晴天に恵まれそうですね。」


 雲一つ無い(あけぼの)の空を眺めたエミリオは、微かに笑みを浮かべて独りごちるのだった。



※※※※※※※※※※



 夜の間に空気が籠もってしまった部屋の換気を終えると、エミリオは飴色の髪を手櫛で整え、騎士団の正装に着替える。


 そのまま、朝食を食べるためにエミリオは自室から食堂へと移動した。


「おはようございます、エミリオ。」


 食堂には既に先客の姿が有り、その人物は朝食を食べながら読んでいた本から顔を上げ、エミリオに瓜二つの顔に柔らかな笑みを浮かべている。


「おはようございます、エステル。 今日は先に起きていたんだね。」 


 男女の違いが無ければ見分けることが出来ない、己の双子の姉へとエミリオは笑顔と朝の挨拶の言葉を返す。


「うん。 最近ずっと読みたかった本が有ったからね。……御夫君であるフェリックス殿のお陰で騎士団長が大人しい内に読んどかなくちゃ。」


 飴色の髪、青白磁色の瞳、同じ顔立ちや似たような背丈など、男女の違いが現れるまでの幼き頃は両親や一部の者達を除き、見分けることが出来ないほどにそっくりだった二人。


 そんな仕事の最中であれば絶対に敬語を崩さない双子の姉エステルは、エミリオの前でだけは口調を崩しており、それはエミリオも同じだった。


「そっか、私の所の騎士団長も……あれだけど、エステルの所も凄いもんね。」


「……あれは凄いって言葉だけでは片付けられないと思うけどね……。」


 エミリオの言葉に読みかけていた本をしおりを挟んでから閉じ、脳裏に己が仕えるゴーシュ騎士団長ヴィクトリアの姿を思い浮かべては、疲れたように大きなため息を付く。


「エミリオの方がマシじゃない。 少なくともサントル騎士団長は期限ギリギリまで自分が書類を貯め込んでた癖に面倒臭くなって燃やそうとはしないし、部下を振り切って爆走しないし、修練場を使うたびに一部を破壊して宰相様に睨まれることは無いわよね。」


 どんよりと苦労人な雰囲気を纏う双子の姉の姿にエミリオは頬を引き攣らせ、何か言わなければと考え口を開く。


「え、えっと……でも、私の方の騎士団長もアレだよ。……仕事中に突然王女殿下が呼んでる気がするとか、王女殿下の周りに悪い虫が蔓延っているいる気がするとか……っていうか、人の目の前で平気で求愛するのは止めてくれないかな。 そんなことをすれば普通に王女殿下の拳が飛んでくることくらい分かってる癖に……あれは絶対にわざと避けて無いだけだよ。」


 エステルを元気付けようと考えていたはずが、エミリオまで苦労人な雰囲気を纏い始め項垂れてしまう。


「「………………」」


 苦労性な雰囲気を纏う双子は、互いにそれぞれの上司の姿を思い浮かべて大きなため息を付くのだった。



 気を取り直した双子は、屋敷の執事や侍女達が準備してくれた朝食を食べ始める。


 行儀が悪いとは分かっていながらも、必ずどちらかが手紙の確認をすることが日課だった。


「ん?……うげっ、父様からだ!」


 手紙の確認をしていたエステルが一枚の手紙の差出人を見て、顔を顰めて嫌そうな声を上げる。


「うっ……エステル、父上はなんて?」


 エステルと同じように嫌そうな表情を浮かべたエミリオが、エステルへと問いかける。


「……元気でやっているか辺りは良いんだけど、騎士団長達に迷惑を掛けていないかと、エミリオはそろそろ婚約者と式を挙げることを考えろ。 私には、いい加減に誰か良い人は出来たのかって!」


 エミリオは語られた手紙の内容に渋面を浮かべてしまう。


「私は良い人なんて作る暇が無いし、少なくとも自分より強い人が中々いないからしょうが無いと思うわ。」


 親からの手紙の内容にため息を付くエステル。


 ……彼女がため息を付くのもしょうが無いことなのかもしれない。


 双子の父親である人物は若かりし頃のヴィクトリアに仕え、幾つもの戦いを共にし、時には身体を張ってヴィクトリアを制止することが出来る(おとこ)だった。


 しかし、自身が怪我によって護衛として共に戦えぬ身となった時より、己の子供達を将来ヴィクトリアへと仕えさせるため徹底的に鍛え上げたのである。


 スピリアル王国最強の武を持ち、各国に恐れられるヴィクトリアの破天荒な強さに付いて行けるように、父親に鍛え上げられた双子を含む姉弟達。


 そんな姉弟達の中でも、ヴィクトリアに付き従った父親に匹敵するほどの武の才能を花開かせたのがエステルだったのだ。


 女性の身でありながら、数多のむさくるしい男達を叩きのめし、その強さを見せ付けてヴィクトリアの補佐官の座を掴んだエステルが伴侶へと求める条件はただ一つ、“己より強いこと”。


 スピリアル王国最強の武人に追随出来る女性よりも、強い男は悲しいことに少なかったのである……。


「私のことは良いのよ、いつか見つけるから。 でも、エミリオは婚約者のミッシェルと仲が悪い訳じゃないし、そろそろ婚儀も考えているんでしょう?」


 遠い目をしていたエステルは首を振り余計な思考を吹き飛ばし、エミリオへと話しかけた。


「……考えていますよ。 ですが、正式に婚儀を申し込もうと思って私なりに考えた贈り物と共にミッシェルの元へと行くと、微妙な顔というか、雰囲気というか……結局婚儀を申し込むことなく帰る結果になるのですよ。」


「…………」


 何とも言えない哀愁を漂わせる双子の弟の姿に、エステルは頬を引き攣らせる。


「……何を贈ったの?」


「……綺麗な羽根飾りの付いた帽子、艶やかな布地で出来たドレス、綺麗な宝石で出来た首飾り、可愛らしい熊の置物です。」


 エミリオの口にした数々の贈り物は、エステルの記憶に思い当たる物が有った。


「それって……孔雀みたいな派手な羽根がこれでもかって付いた黒い帽子に、紅い豹柄の派手すぎるドレス、宝石で出来た歪な人の顔を模した奇抜な首飾り、可愛らしさとは無縁の人食い熊を彷彿とさせる凶悪な顔つきで人間大の木で出来た熊の置物のこと?」


 盛大に顔を引き攣らせたエステルの言葉に、エミリオは力なく頷く。


「ミッシェルが、ものすごく可哀想だわ……。」

「うっ……私的には良いと思ったんですよ!」


 センスが皆無のエミリオの贈り物に、エステルは婚約者であるミッシェルを心の底から気の毒に思ってしまった。


「エミリオは余計なことを考えずに、紅い薔薇の花束を包んで貰って贈った方が良いと思うわ。 少なくとも、自分の感覚を基準に考えないで余計なオマケを付けないことをお薦めする。」


「…………」


 エステルの容赦ない言葉にエミリオはとうとう撃沈してしまうのだった。




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