父の日の贈り物 オマケ。
皆様、いつも読んで下さりありがとうございます。
今回のオマケの話しは、だいぶ糖分過多ですので苦手な方はお気を付け下さい。
どうぞよろしくお願いします。
「うぅぅ……ブラッドフォードのばかぁっっ……!」
雪だるまのお返しです、と深い口づけを与えられたゆうりは未だに慣れることのない刺激に身体を震わせる。
「おや? 私はお礼を差し上げただけですよ。」
己に支えられなければ立っていられない力の抜けきったゆうりの姿は、端から見ればブラッドフォードに縋り付いているよう見えるだろうと考えて思わず口角を上げてしまう。
「雪だるまのお礼がキ……そ、そんなの必要なかったもん!」
顔を紅く染め上げて身長差から意図しなくても上目遣いになってしまうゆうりの羞恥で一杯の表情に、ブラッドフォードの何かが刺激され続ける。
「……でも、ゆうり様は恥ずかしいだけで嫌では無く……本当は口付けがお好きでしょう?」
「んなっっ?!」
本気で嫌なら躊躇わず拳が飛んできますよね……、とクスリと艶然と微笑む確信を持って囁かれるブラッドフォードの言葉にゆうりは一瞬絶句したが、動揺も露わに潤んだ瞳で言い返す。
「す、すすす、好きとか嫌いとかの問題じゃないんだよっ! ひ、人としての道徳観念や倫理観の問題であって……だ、第一、人の家の庭でやることじゃなくて、人目の無い所で普通はする……べ、別にやりたい訳では無い……うぅっ……だ、だって……ブラッドフォード、だから…………嫌いじゃないだけだもん……」
最初は否定の言葉を言っていたはずが、徐々に何を言っているのかゆうり自身も混乱してしまい、最後には蚊の鳴くような声で俯いてしまう。
「……ゆうり様……」
「ふにゃっ……や……ま、待って、お、おお、落ち着いっっ、ふっ……んう……」
色気を感じさせる笑みを浮かべたブラッドフォードに再び口づけを仕掛けられることになったゆうりは、ブラッドフォードの服を握り締めて快感に流されないように必死で抗う。
力の入らない片腕でブラッドフォードを懸命に押し返そうとするが、その腕さえも囚われてしまう。
逃げようとするゆうりの身体を、その腰に手を回し引き寄せて覆い被さるようにブラッドフォードは軽く弓なりになるゆうりに容赦なく快感を与え続ける。
「……はっ……ゆうり様……」
口づけの最中に眼を開けたブラッドフォードは、己の与える口づけに酔いしれて涙を流すゆうりの赤く色づいた表情を、眼を細めて間近で見詰める。
「…………んっ……や、あ……」
「……貴女様は何故こんなにも可愛らしいのでしょうね?」
名残惜しく思いながら唇を微かに離し、再び涙の流れ落ちる頬に唇を寄せる。
力の抜けきったゆうりの身体をしっかりと掻き抱いて満足そうに呟くブラッドフォードの言葉に、強すぎる刺激により頭の中が靄がかかったような状態のゆうりでは言葉を返すことが出来なかった。
「…………」
頬だけでなく、漆黒の髪から覗く耳も、首筋まで紅く染め、焦点の合わない潤んだ瞳で抵抗することなくブラッドフォードにその身を預けるゆうりの姿に再び欲が疼き始める。
再び口づけを交わそうとしたブラッドフォードだったが…………
「破廉恥でしてよ! この万年発情期の獣っっ!! エリザベスっっ全力でお相手して差し上げなさいっっ!!!」
「じょいやっさっっっ!!!」
夜の帳を切り裂く甲高い少女の声が響き渡れば、次いで野太い男の声が轟く。
「ぐっっっ」
殺気をいち早く感じ取ったブラッドフォードは攻撃に巻き込まないためにゆうりの身体を手放し、剣の鞘で迫り来る大きな拳を防御する。
それでも、その衝撃に耐えきれずブラッドフォードの身体は風に舞う木の葉のように数メートル吹き飛ばされてしまった。
「……いつもの如く……エアデ様ですか……!」
「オーホッホッホッホッホッ! いつもの如く、わたくし登場でしてよ!
わたくしのムッティに対する破廉恥な好意の数々っ! いい加減になさいませっっ!! 口を酸っぱくして言っておりますが、口づけなどは心を通わせ、婚儀を上げた者達がひっそりと行うべきこと!!
このような人様の庭先で強要するなど、そなたの心に正義は無いのですかっっ!!!」
ビシリッと仁王立ちした桔梗は、エリザベス達を警戒して剣を構え、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべるブラッドフォードを指さして吼える。
「…………昨今の愛し合う恋人達は、婚前に口づけ以上の行為に及ぶことなど珍しくもありませんよ。 それに、私だって心より恋い慕うゆうり様の心を尊重していると思うのですが……?」
だいぶ自分を抑えているんですよ……、とぼそりと呟くブラッドフォードへと、眦を吊り上げた桔梗は頬を染めて睨み付け叫ぶ。
「余所は余所、うちはうちでしてよっっ!!
しっかりと身体を動かして正義の熱き心を燃えたぎらせぬから、破廉恥な行為へと走るのです!! 爽やかな汗をかいて、邪な心を燃やし尽くしてしまいなさいっっ!!!」
「全く持って意味が分からないのですがっっ?!
それに、その者達に追いかけ回されることの何処に正義があるとっっ?!爽やかな汗など一筋も流れませんよっっ!!!」
桔梗の背後に佇んでいた仁王像の如き逞しい体躯の二体が無言で前に出てくる姿に戦々恐々としながら、ブラッドフォードは反論を試みる。
「問答無用でしてよっっ! やってお仕舞いなさい、エリザベスっっ!! ジョセフィーヌっっ!!!」
「「じょいやっさっっ!!!」」
ブラッドフォードの反論虚しく、気合いの入った掛け声と共に己目掛けて拳を振り上げてエリザベスとジョセフィーヌは走り出す。
走り出した二体の姿に唇を噛みしめたブラッドフォードは、もう一度ゆうりへと視線を向けてから駆け出していく。
風のように去っていった一人と二体が消えた庭の奥では大地を抉るような重厚な地響きや、木々を薙ぎ倒すような喧騒がしばらく止むことは無かった。
「お労しや、ムッティ……大丈夫ですか?」
「……あれ……?……桔梗?」
ブラッドフォードの腕から解放されたゆうりは、力の入らない身体を木の幹に預けて座り込んでしまっていた。
「……私……何してた……っっ?!」
ボンヤリとしてしまっていたゆうりは、思考が回り始めると同時に今までの行為を思い出して赤面してしまう。
「えやっ?!……き、桔梗……まさか……ぜ、全部見てた……?」
「オーホッホッホッホッホッ! 気にされることなど何一つありませんわ!
だって、真っ赤になっているムッティにあの歩く猥褻物が覆い被さろうとしていたので、正義の鉄槌を下したまでですわ!!」
オーホッホッホッホッホッ、と高笑いを響かせる桔梗の姿に、ゆうりは最後の最後しか見られていなかったことに安堵のため息を吐く。
「……んん? でもさ、何で桔梗がわざわざ此処に来たの? 確か、エリザベス達を借りた時に今日はあの砂漠の子達と遊ぶって言ってなかった?」
「遊んできましたわ! ですが、早めにフェリシアへと戻ったら桜からムッティ達のドッキリの話しを聞きましたの。 その上、ムッティはエリザベス達と素敵な馬車で爆走しておりましたから、是が非でも参加せねばと参上したのですわ。」
桔梗の行動に首を傾げるゆうりへと、桔梗が胸を張って高笑いを響かせながら応える。
「流石はムッティですわよね! あの馬車の絵はとても素敵だと思いますわ!!
それに、エリザベスとジョセフィーヌに被らせていた馬の被り物も可愛らしかったですもの!! そんな可愛らしい二人の姿に、王都の民は皆ウットリと見とれておりましたわ!!!」
……実際は、貴族の馬車と一目で分かるけれども見慣れない絵柄の描かれた物を引きながら暴れ馬よろしく爆走する、被り物をした筋骨隆々の二人の漢の姿に頬を引き攣らせて固まってしまっていたのだ。
しかし、桔梗からすればその王都の民の姿は見とれているように見えたのである。
「デフォルメした絵だし、日本語で『愛娘・愛息子命』って書いて見たんだよね。 あは! 桔梗が気に入ったんなら良かった!!」
微笑み合う親子は、次の生けに……犠牲しゃ……では無く、素敵な馬車を贈る相手を笑顔で話し合う。
そんな二人の親子の背後では、笑顔で談笑している間にもブラッドフォードの怒声や悲鳴が夜の空に響き渡るのだった。
……そして、これ以降の王都ではしばらくの間、ゆうり達に関係の無い所で愛する者の絵姿を書いた馬車が貴族達の間で静かに流行するのであった……。




