夢渡りの邂逅と同族嫌悪 第六話。
いつも読んで下さりありがとうございます。
彩花との再会編はこれで最終話となりました。
また、次の短編を書いていきたいと思っておりますので、どうぞよろしくお願いします。
涙で潤んだ瞳と、真っ赤に染まった頬から赤みが引くことはないゆうりは、恨めしげな視線を彩花へと向け続ける。
「……うぅぅ……彩花のばかあ……!」
「うふふ、だって本当のことでしょう? 昔は花より団子の性格だったのに、ちゃっかりと彼氏をゲットしてるんだもの。……まあ、彼氏に関してはどうでも良いけど、優李を盗られたことだけは焼けるわね。」
クスクスと艶やかな笑みを浮かべながら話す彩花に、ゆうりはムスッとした表情を浮かべて言い返す。
「べつに、花より団子な性格は変わってないもん。 ただ……いつの間にか、こうなってたって言うかさ……す、好きになっちゃった……もう! そんなことはどうでも良いよっ! 折角、彩花と会えたのにそんな話しばっかりは嫌だよっっ!!」
「そうね、折角会えたんだもの。 優李を私から盗った男のことなんてどうでも良いわ。」
恋バナよりも他のことを話そうと言うゆうりに、彩花も笑顔で同意する。
……だが、そんな彩花とゆうりへと何とも言えない視線を送り続ける者がいた。
「……友情を確かめ合い、仲が良いことは素晴らしいことだとは思いますが……あの者は放置で宜しいのですか?」
ずれてもいない眼鏡を押し上げながら、彩花とゆうりへ話しかけた立花の視線の先には床に倒れたまま動かないブラッドフォードの姿が有った。
「いつものことだから平気だよ。 ちょっと隙を見せるとすぐに恥ずかしい雰囲気に持ち込もうとするんだもん。……人前じゃしないでって言ってるのに!」
「うふふ、優李の嫌がることをしたあの男の自業自得でしょう。」
立花の言葉にゆうりはツンッとそっぽを向き、彩花はクスリと美しくも冷たい笑みを浮かべる。
「…………」
そのまま彩花とゆうりはブラッドフォードに構うことなくお喋りに花を咲かせ始め、立花だけが生温い視線を向けてしまう。
ブラッドフォードが何故床に倒れているのか?……それは至極簡単なことだった。
恥ずかしさで一杯のゆうりが抵抗をしないことに嬉しくなったブラッドフォードが、調子に乗ってゆうりの腰をさらに抱き寄せ、その首元に顔を埋め始めたのだ。
恥ずかしさで悶えていようとも、人前でそんな恥ずかしすぎる真似をされたことに一瞬で正気を取り戻したゆうりの伝説のアッパーがブラッドフォードへと炸裂したのである。
床に倒れながらも、何処か幸せそうなブラッドフォードの雰囲気に立花は心の中で南無三、と唱えてしまうのだった……。
出会いがあれば別れがあるように、大切な親友との再会の夢は唐突に終わりを告げようとしていた。
ゆうりが彩花の隣りに並べた机、気怠げな教師だった立花が文字を記した黒板、窓の外から吹き込んだ風に揺れるカーテン……。
まるで思い出までもが共に淡い光の粒子となって消えていくような光景に、ゆうりは悲しげな表情を浮かべて俯いてしまう。
「あらあら……優李ってば泣かないで。 この夢は終わっても……きっとまた会えるし、思い出は消えたりしないわ。」
「分かってる……分かってるよ! でも、やっぱり別れることにはいつまで経っても慣れないよ……。」
大粒の涙を流しながら彩花を見詰めるゆうりに、彩花は悲しげでありながらも優しい微笑を浮かべる。
「優李、大好きよ。 私の大切な親友。 何か有ったら、何時だって私が駆けつけるから。……もしも、あの男が浮気の一つでもした時はすぐに私を呼んでね。 最強の助っ人になってみせるから。」
「あは! 彩花が助っ人してくれるなら百人力だね!! 多分、浮気はしない気がするから大丈夫じゃないかな。
私の大好きな彩花! 彩花の方こそ、立花先生と結婚する時は絶対に呼んでね!!」
名残惜しいものの、抱きしめ合った身体を離して向き合い別れの言葉を告げ合うゆうりと彩花。
……しかし、ゆうりの言葉を聴いた彩花には一部納得いかない部分があった。
「……え?……ちょっ、待ちなさい! 優李、貴女ってば何か変な勘違いをしていないかしら!!」
「ん? 勘違いなんてしてないよ。 私がもしも、ブラッドフォードと結婚する時は絶対にどうにかして呼ぶから、彩花もお幸せにね!」
ばいばいっっ!、と元気に手を振って姿を消してしまったゆうりへと、彩花は手を伸ばし叫ぶ。
「思いっきり勘違いしてるじゃないっ! あっ、こら! 待ちなさい、優李っ!!」
頬を引き攣らせ、伸ばした手はゆうりに届くことは無く、教室が掻き消えてしまった白い世界に虚しく木霊する。
「……なんでそうなるのよ……優李のおばか……」
がっくりと項垂れて、力なく呟く彩花の側に寄り添うように立つ立花は顎に手を当てて思考を巡らせる。
そして、何かを思い付いたのかニッコリと笑みを浮かべて彩花へと声を掛けた。
「彩花様。」
「何よ、立花?」
項垂れたまま立花へと視線を向けることもせずに応える彩花。
「ゆうり様の勘違いを現実にしてみますか?」
「……は?」
予想外の立花の言葉に彩花は呆然とした表情を浮かべてしまう。
彩花の視線を受けることになった立花は、クスリと何処までが本気か分からない飄々とした笑みを浮かべている。
「……寝言は寝てから言いなさい! 私をからかうなんて千年早いのよっ!!」
立花をキッと睨み付けてさっさと背を向け、普段過ごすことの多い水鏡の前へと彩花歩いて行く。
「寝言などではないのですが、未だ時ではないと言うことでしょう。……脈が無い訳では無さそうですしね。」
己へと背を向けた時にチラリと見えた頬が、微かに紅く染まっていたことに気が付いている立花はクスリと余裕のある笑みを浮かべ、先行く愛しい主の背中を追いかけるのだった。
※※※※※※※※※※
「……んぅ……彩花……?」
頭を優しく撫でる感触に導かれるように、目覚めたゆうりは数回瞬きを繰り返す。
「おはようございます、と言うのも可笑しいですが、目覚められたようですね。」
目覚めたばかりの頭はボウッとしており、眠い眼を擦りながらゆっくりと身体を起こせば、一緒に夢の中に居たブラッドフォードの声が聞こえた。
「……あれ? ブラッドフォードの方が先に目が覚めたの?……んぅ? 一緒の夢を見たよね?」
「ええ、ゆうり様のご友人とお会いしましたね。」
少しずつ思考が動き出したゆうりは、そっか……、と嬉しそうに微笑む。
「……そういえば、ゆうり様。」
ん-?、と彩花と再会できたことに機嫌良く笑うゆうりへと、ブラッドフォードはニッコリと笑って有ることを告げる。
「ゆうり様の友人で有るあの御方に私は散々自慢されました。……共に眠り、夏祭りという物に行き、海辺で水着という衣装を纏った緻密な絵画……そして、風呂を共にする仲だと。」
ニコニコと笑顔を絶やさないブラッドフォードだったが、その背中に嫉妬の炎を背負っていることをゆうりは感じとってしまった。
「…………あははー……何のことか、ゆうりちゃん分かんな……」
認めれば面倒臭いことになると察したゆうりは言い逃れようと誤魔化そうとするが、その言葉を遮るようにブラッドフォードが獲物を狙う肉食獣のような眼でゆうりに告げる。
「では、実地で分からせて差し上げましょうか?」
「いやあぁぁぁぁっっ!!
ごめんなさい! ごめんなさいっっ!! 無理だから、そんな度胸私には無いからっっ!!!」
己の身体を持ち上げて、何処かに連れて行こうとするブラッドフォードへと真っ青になったゆうりは叫んでしまう。
「……其処まで嫌がらなくても……」
ブラッドフォードは己の腕の中から逃れようと足掻くゆうりの姿に、複雑な表情を浮かべてしまう。
ため息を付いてソファへとゆうりの身体をゆっくりと下ろしたブラッドフォードは、半分は冗談ですよ……、と身体を硬くしているゆうりを落ち着かせるために頭を撫でる。
ブラッドフォードの己を落ち着かせるように、頭を優しく撫でてくれるを手の感触にゆうりの強張っていた身体の力が抜けていく。
上目遣いにソファに座る己の前に立つブラッドフォードをじっと見詰め、何かを迷うように視線を反らす。
「……え?……ゆうり様?」
反らした視線をブラッドフォードにゆうりが向けると同時に、瞬き程の間でブラッドフォードの身体はソファの上に横たわり、頭はゆうりの太ももの上に有った。
「……別にさ、嫌って訳じゃなくて……彩花は女の子じゃん。 ブラッドフォードとは違うよ。……い、何時かは、一緒に入ることも有るかもだけど……今はまだ勇気が足りないんだよ。」
ブラッドフォードの柔らかいウエーブの掛かった髪を優しく梳きながら、ゆうりは頬を染めて囁くように呟く。
「……それに、君はあの夢の中でさ……私のアッパーを受けたあと、本当は気絶なんてしてなかったでしょう?」
「……やはり、ゆうり様には分かってしまいましたか。」
己の髪を優しく梳く、ゆうりの小さな手を捕らえて口付けるブラッドフォードの行動に、更に頬を染めてしまうゆうり。
「ばか! 人が真面目に話してるのにっ!」
「すみません、ついやってしまいました。」
己に囚われた手を奪い返し、甘さを含んだ声で抗議するゆうりに対してブラッドフォードはクスリと笑みを浮かべる。
「……ゆうり様、約束ですよ。 何時か必ず私とも、貴女様の御友人が自慢したような思い出を一緒に作ってください。」
「約束する。……でも、一緒にお風呂とかはまだ先のことだからね!」
それは残念です、と幸せそうに笑うブラッドフォードに、負けないくらい幸せそうに笑ったゆうり。
幸せに満ちた二人の時間は、いつまで経ってもブラッドフォードの仕事が終わらないことに業を煮やしたエミリオが突入してくるまで続くのだった……。




