夢渡りの邂逅と同族嫌悪 第五話。
立花へと必殺の一撃を容赦なく与えた彩花は、身に付いた習慣とも言えるゆうりとのハイタッチを交わしてから何かに気が付いたように動きを止めてしまう。
「……あ……優李……」
「あはー、どうしたの?……っていうか、彩花と会うのすっごい久しぶりな気がする!」
視界の端で撃沈する男二人の姿など気にも留めず、お互いしか見えていない彩花とゆうり。
彩花としては、ゆうりと再会したらまずは謝罪して、許してくれるならば今まで通りの関係を続けたいとお願いするつもりだった。
だが、立花の予想外の行動の所為で全てが台無しになってしまったのだ。
「……えっと……」
ニパッと笑みを浮かべていたゆうりは、どうして彩花が戸惑っているのかが分からず首を傾げてしまうが、何かを思いだしたかのように声を上げる。
「あっ! そうだったっ!!
彩花、あの時はありがとうっっ! 私ね、ちゃんとお礼を言えてなかったでしょう?」
「……お礼?」
ゆうりの感謝の言葉に何のことか分からず、彩花はキョトンとしてしまう
「立花先生にも確認したんだけどさ、胡蝶の夢を教えてくれた時にお父さん達と会わせてくれたのは彩花なんでしょう?」
「…………」
戸惑う彩花の心などお構いなしにゆうりは笑顔で言葉を続ける。
「だから、ありがとう! お父さんやお母さんたちに会えて凄く嬉しかった!!」
何一つ変わらないゆうりの真っ直ぐで、明るい言動の数々に彩花の眼に涙が浮かぶ。
「えっ?! ちょ、何で泣いちゃうのさっ?!」
真珠のように美しい大粒の涙を浮かべる彩花の姿に慌てるゆうり。
「優李がお馬鹿でお人好し過ぎるからよ……普通は恨み言の一つや二ついう物だわっ!」
泣き笑いのような表情を浮かべた彩花は力一杯ゆうりへと抱きつく。
「……本当に優李はお馬鹿よ……沢山傷ついて、苦しかった癖に……そんな簡単に許しちゃうんだもの!」
ぎゅうっと抱きついて涙を流す彩花の身体を抱きしめ返しながら、ゆうりは苦笑する。
「だって、彩花は悪くないって知ってるもん。 私のために多分色々と動いてくれてたんでしょう?……そんな彩花に恨み言なんて言うはず無いじゃん。」
身体を少しだけ離してゆうりはしっかりと彩花の眼を見て大切な親友に、感謝の言葉をもう一度伝える。
「私のためにありがとう! 大好きだよ、私の親友!!」
「私だって大好きよ! ありがとう、お馬鹿なほどにお人好しだけど最高な私の親友の優李!!」
笑い合うゆうりと彩花はもう一度しっかりとお互いの身体を抱きしめ合うのだった。
離ればなれになっていた時間を埋めるように寄り添い合い、言葉を交わす笑顔の彩花とゆうり。
「……いい加減、私達の存在といいますか、彼の対処をお願いしたいのですが。」
「あら、いつの間に復活したの立花。 私とゆうりの時間を邪魔しないでちょうだい。」
ゆうりに対し迫っていたことを未だに怒っている彩花は、しっしっ、と羽虫を追い払うように手を動かす。
そのあんまりな彩花の対応にピクリと片眉を動かし、それ以上何かを言うことはしない立花。
「彼って……? え、ブラッドフォードってば、何であんなにジメッとした感じになってんの?」
「さあ? 何故かしらね?」
立花の示した先にいたブラッドフォードの姿に今更ながら気が付いたゆうりは、キノコが生えそうなほどにどんよりとした空気を背負っている背中に頬を引き攣らせる。
その状況を招いた元凶である彩花はしれっと知らないふりをして、その彩花の言動に呆れた様子の立花は小さなため息を漏らす。
「ブラッドフォード、一体どうしたのさ?」
「……ゆうり様……」
彩花の側から離れ、教室の隅で三角座りをしていたブラッドフォードの元へと近付きゆうりは声を掛ける。
ゆうりんい声を掛けられたために微かに俯かせていた顔を上げ、ゆうりの姿を見たブラッドフォードの眼が見開き、ガバリと顔を勢いよく上げ叫ぶ。
「ゆうり様っ! 何て格好をされているのですかっっ!! 私と女性だけならばともかく、此処には私以外の異性がいるのですよ!!」
顔だけでなく身体を起こすと、己がいつの間にか着ていたスーツの背広を脱いでゆうりの腰に巻き、腕の中に閉じ込めるブラッドフォード。
「……え? ちょっと、何を怒ってんのさ?」
ゆうりはブラッドフォードの行動の理由が分からずに驚きの声を上げ、為すがままになってしまう。
「ゆうり様、本当に分からないのですか?
……それとも、私の理性を試しているおつもりですか? ゆうり様がその気ならば、是非寝室でその男を誘っているとしか思えない衣装を身に纏って頂いて結構で……」
「何の話しをしてるのさっっ!! ブラッドフォードのばかあぁぁぁぁっっ!!!」
今すぐにでもゆうりを押し倒してしまいそうな危ない雰囲気を纏ったブラッドフォードの腹部に重たい一撃が突き刺さり、ゆうりの罵声が木霊する。
くぐもった声を上げながらも、ゆうりの重い一撃に耐えたブラッドフォード。
一撃を与えてなお、己を閉じ込める腕の力を抜こうとしないブラッドフォードへとゆうりは追撃を仕掛けようとする。
しかし、追撃を予想して身体を強張らせたブラッドフォードへと意外な人物から助け船が与えられた。
「ゆうり、貴女の大切な恋人は制服のスカートの丈の短さに驚いて、怒っているのよ。」
「……何で? 制服のスカートなんてこんなもんでしょ。 私より短い子は沢山いるよ。」
彩花の言葉にゆうりは握り締めていた拳から力を抜き、己の膝上丈のスカートへと視線を向けてキョトンとした表情を浮かべる。
「制服姿なんて私達にとっては当たり前だけど、淑女が素足を晒すことなんて考えられない人にとっては刺激的すぎるでしょう。」
冷静に話す彩花に、ゆうりはなるほど、と頷きながらブラッドフォードの腕の中で大人しく聞き続ける。
「……それにしても優李ってば否定しないのね。」
「否定って何のこと?」
クスクスと笑いながら告げられた彩花の言葉にゆうりは首をかしげてしまう。
「優李の大切な恋人って言ったことよ。」
彩花の言った言葉の意味がすぐには察することが出来なかったゆうりだったが、理解するに連れて徐々に頬に赤みが増していく。
「ちっ……違うからねっ! 別にそんなんじゃないもんっっ!!……いや、違う訳ではないんだけど……た、大切、な……こ、ここここ……こいび、と……いやあぁぁぁぁっっ!!!」
紅くなった頬を隠すようにブラッドフォードの胸板に自ら頭を押しつけるが、髪の毛の間から覗く耳まで真っ赤に染まっていた。
「……ゆうり様が自ら私の腕の中に来て頂けるなんて夢のようです。」
ぐりぐりと羞恥心に悶えて頭を己の胸元に押しつけるゆうりの姿を目元を染めながら、ブラッドフォードは嬉しそうに微笑む。
「……おやおや……恋人と言われただけで、そんな反応を返すとは……いじめがいのある方ですね。」
「あら、優李は昔から恥ずかしがりやさんだし、男慣れしてないって言うか……私と葵さんで優李に近付く男に対して共同戦線を組んでたから、しょうが無いことだと思うわ。」
恥ずかしがるゆうりの姿を彩花と立花は苦笑してじっくりと見守り、ブラッドフォードに頭を撫でられて多少落ち着きを取り戻したゆうりが、再び生温かい眼で見守られていたことに気が付くと同時に再び悲鳴を上げてしまうのだった。




