夢渡りの邂逅と同族嫌悪 第四話。
時は戻り、ゆうりが立花に口説かれるかのような言葉を囁かれる少し前のこと。
互いに作り物のように完璧な笑顔で見つめ合いながらも激しい火花を散らし、絶対零度の冷気を漂わせる彩花とブラッドフォード。
「うふふ……私の親友の優李の周りをたかが数年間ちょろちょろしてただけの脳みそお花畑野郎がよく言うじゃない。」
艶やかで美しい完璧な笑顔を浮かべている彩花……しかし、その瞳は全く笑っておらず冷たい光を放っていた。
「ふふ……時間などと言う儚い物でしか私の愛しい婚約者であるゆうり様との関係を語れない、貴女のような方には言われたくありませんね。」
余裕のある大人の色香漂う微笑で受けて立つブラッドフォード……だが、その瞳の奥には隠しようもない剣呑な光が宿っていた。
「うふふふふふふ……」
「あはははははは……」
周辺の空気を凍り付かせる二人は、歪な笑い声を上げていたかと思えば、ピタリと笑い声を止める。
「儚い時間ねえ?……お前みたいな優李とは比べるのも烏滸がましい中身のない貴族のお人形さんを愛でていたおじさんに言われたくないわ。」
はっ!、と鼻で笑って見下すようにブラッドフォードへと辛辣な言葉を叩き付ける彩花。
「それに関しては私の不徳の致すところ、決して否定は致しません。 そのことをゆうり様に責められるならば、どんな罰でも喜んでお受けいたします。 ですが、全てを知った上でゆうり様は私へ愛情を向けてくれるのです。
……そういえば、貴女はご存じ無いようですがゆうり様は私くらいの年齢の外見の方がお好みらしいですよ。」
鼻で笑い、己を見下すように言葉を発する彩花の言動を物ともせずに、ブラッドフォードはニッコリと笑みは浮かべているが好戦的な瞳で言葉を返す。
「……この私に真っ向から言い返してくるなんて良い度胸してるわね。」
「ゆうり様の伴侶たる者、これくらい出来なくてどうします。」
半眼で見詰めてくる彩花へと、ブラッドフォードは背筋を伸ばして応える。
「……しょうが無いわね。 奥の手を使わせて貰うわ。」
「…………!」
彩花を取り巻く雰囲気が変わったことを敏感に感じ取ったブラッドフォードは身体を硬くして身構える。
「……これが私の奥の手よっ!」
彩花は叫びながら虚空より一冊の分厚い冊子を取り出す。
「優李との思い出のアルバム集っっ!!!」
彩花が取り出したのは幼稚園で出会ってから、高校までに撮影した優李との思い出のアルバムをブラッドフォードに見えるように掲げる。
「なっっ?! 何ですか、この精密な絵画集はっっ!!!」
初めて見た肖像画とは違った精密に日常風景を切り取ったような様々な絵の集まりに、ブラッドフォードは驚きの声を上げてしまう。
「ふっふっふっ……これは優李が六歳の頃に一緒にお昼寝してた時の写真、こっちは一緒の小学校に入学式した時でしょ……あっちは夏祭りで浴衣を着た時……」
幼い少女二人が寄り添い合って一枚の薄い掛け物を被って天使の微笑みを浮かべながら眠る写真。
二人の少女が可愛らしい装いをして、大きな建物の前ではにかんだ笑顔を浮かべた写真。
十代前半くらいの二人の少女が、ゆうりが着ている着物とはまた違った感じの衣装を身に纏い、髪の毛を可愛らしく結った写真。
思い出の一枚、一枚を嬉しそうに指を指して語る彩花。
「くっ……なんて羨まし過ぎる宝の山を……で、ですが、私だってゆうり様と過ごした数々の思い出は決して忘れていませんっ! 今なお心に色鮮やかに思い出すことが出来ますっっ!!」
見えるけれども、しっかりとは見えないようにアルバムを掲げる彩花を、ブラッドフォードは羨ましそうに見詰め、唇を噛みしめて負けてなるものかと叫ぶ。
「あら、そんなことを言って良いのかしら?」
ニンマリとまるで悪戯を仕掛けるゆうりのような表情を浮かべた彩花。
「私にとっては思い出の一つに過ぎないけれど、お前にとってはもうちょっと別の意味でも“これ”は価値があるんじゃないかしら?」
アルバムの中から一枚の写真を抜き取り、ブラッドフォードに見えるように見せ付ければ……
「……っっ?!……なっ、何て姿をっっ……!!」
思わず彩花から見せ付けられた写真にブラッドフォードが手を伸ばす。
「だーめ。 ゆうりの写真はあげないわよ。」
「……くっっ…………あ、あんな魅力的な姿を他の男共に晒したというのですかっっ……」
伸ばしかけた手を含めて四肢を大地に付けて悔しげな声を絞り出すブラッドフォード。
ピラピラと彩花が弄んでいる一枚の写真……それは高校二年生の夏にゆうりの家族旅行に彩花も付いて行った際に海で取った水着姿の写真だったのだ。
ブラッドフォードの世界では考えられないような“服”と呼べるかも定かではない物を身に纏ったゆうりの姿。
それは、ブラッドフォードの戦意を粉々に打ち砕くだけの威力を秘めていたのだ。
「うふふ……更に言うならば、私は優李と一緒にお風呂にも入る仲よ。」
「…………っっ?!」
止めとばかりに発せられた彩花の一言に、流石のブラッドフォードも撃沈してしまうのだった……。
そんなブラッドフォードの姿を見て、彩花の溜飲も少しは下がる。
大切な幼なじみであり、親友であるゆうりを想ってくれているからこそ、ダメージを受けてしまう数々の彩花の攻撃。
本気で好きだからこそ、己の攻撃は通じたということを彩花はちゃんと分かっていた。
「(……ずっと一緒だった親友を盗られたようで凄く悔しくは有るし……認めたくないって気持ちも有るけど、本気で優李を想ってくれてるみたいだし……しょうが無いのかもね。
まっ! こいつと優李がどうこうなったとしても、私が優李の親友で有ることは変わりないから良いわ!……もっとも、優李が許してくれればだけど。)」
彩花は今までの様子が嘘だったかのように、複雑な表情を浮かべて未だに項垂れているブラッドフォードへと手を差し伸べようとする……が、何かに気が付いたように動きを止めてしまう。
しばらく固まっていたと思えば、花が咲き綻ぶような笑みを浮かべ……怒りに染まった鬼の形相となり、ブラッドフォード共々姿を消す。
次の瞬間には、学校の教室と思わしき場所へと姿を現し、怒りに染まった叫び声をあげる。
「ブラッドフォード以外の野郎に壁ドンもどきをされて喜ぶか、このすっとこどっこいっっ!!!」
「優李に何してんのよっ!! この馬鹿立花っっ!!!」
“精霊王専用武器☆天下無双”を貯め無しで容赦なく振り下ろすゆうりの一撃が立花の右頬を襲い、同じく容赦なく放たれた彩花の鋭い蹴りが左の脇腹にめり込む。
「がはっっっ」
「イエイッ!! さすが彩花、私の親友っ! いつ見ても鮮やか且つ綺麗な良い蹴りしてますなあっっ!!!」
「ふふんっ! それを言うなら優李こそ、流石は私の親友だわ。 振り切るハリセンの容赦の無さと技のキレは並び立つ者がいないわね!!!」
ゆうりと彩花の連係攻撃のような二つの攻撃の威力の前に崩れ落ちるように倒れた立花の側で、ゆうりと彩花はいつもの癖で無言で互いの技を称えるかのようにハイタッチを交わすのだった。




