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夢渡りの邂逅と同族嫌悪 第三話。


 沈みかけた夕暮れが人気のない教室を茜色に染め上げ、グラウンドより聞こえていた部活動の掛け声が無くなり、静けさを取り戻した放課後の学校は人の心に寂寥感を与える。


「あは、やっぱりそうなんだ。 何となくあの時の夢と似た感じだなあって思ったんだよね。……でも、先生は本人で多分間違いないと思うんだけど……、夢で会ったお母さん達とは何か違う気がするような……?」


 存在感っていうのかな……、と首を傾げながら悩むゆうりへと立花はますます笑みを深めてしまう。


「流石というか、何と言うか……本能の部分で感じ取る辺りが園宮は凄いよな。

 お察しの通り園宮達の担任である立花で間違いは無い。 ただし、とある御方の命により共に園宮達が生きている世界に教師の役として居ただけだがな。

 本来は、数多の世界を管理する役割を持った管理人のような存在と言えば分かるか……?」


 ゆうりにも理解できるように簡潔に説明する立花は、いつの間にかワイシャツ姿から見慣れない執事服を身に纏い、銀縁眼鏡をかけていた。


「先生ってば、やる気のない教師のコスプレよりそっちの執事服の方がすっごい似合うね……。 その服でいっつも彩花のお世話してるの?」


 執事服を纏った立花の出で立ちに、眼鏡って良いよねえ……、と感想を漏らしながらゆうりは何でもないことのように唐突に彩花の名前を出す。


「ああ。 まったく、彩花様には困ったものだ……。 やれば出来る癖になかなか動こうとされないから……って、何故そこで神代だと思ったんだ?」


 普通にゆうりが出した彩花の名前に思わず応えてしまった立花は、“とある御方”としか言ってないはずなのに己の主を言い当てられた事に眼を見開いてしまう。


「あはー。 だって、前に見た夢で会った彩花と先生って同じような感じがするもん。 ただ、彩花の方が存在感があるって言うか、強そうって言うか……力? 立場? かは分かんないけど何となく上かなって。」


 当たり前のように言うゆうりの予想外な言動にしばらく立花は眼を瞬かせていたが、ニイッと口の端を持ち上げて何かを企む不遜な笑みを浮かべる。


「本当に園宮、貴女は予想を上回るびっくり箱のような御仁ですね。 お言葉の通り、私がお仕えせしは彩花様に他なりません。」


 気怠げな雰囲気を一変させた立花は、彩花に対応する際の本来の立ち振る舞いへと戻した。


「……うっわ?! すっごく違和感あるっっ!!」


 変化した立場の言動に大袈裟なまでに驚くゆうりに対し、立花は苦笑してしまう。


「園宮、驚く部分は其処ですか?

 普通は貴女の親友である彩花様の正体などに関してまず疑問に思い、異世界での事柄や夢を通して会いに来たこと……貴女が精霊王にされてしまった時の対応など、知りたいことや問いかけたいことは沢山あるのでは無いですか?

 例えば……そう、恨み言など。」


 苦笑しながら告げられた、眼の奥は決して笑っていない立花の問いかけ。


 主である彩花に対し小言めいたことを言ってしまう立花ではあるが、忠誠心が低い訳ではなかった。

 だからこそ、立花は彩花がゆうりに会いたいと言った際に一番懸念していたことがある。


 もし万が一にでも、ゆうりが彩花に対して負の感情を抱いていないかと言うことであった。


「何で? 私が彩花に恨み言なんて言わなきゃいけないの?」

「何でと言われましても……」


 だが、心底分からないと言った表情を浮かべるゆうりに、立花の方が逆に困惑した表情を浮かべてしまう。


「園宮が異世界に拐かされた際に何故助けてくれなかったのか、何故何もしてくれなかったのか……何故、正体を隠して親友などと(うそぶ)いていたのか、など……貴女は不思議に思わないのですか?」


 ゆうりが惚けたふりをして誤魔化そうとしているのかを見極めるために、立花は困惑した表情を消して厳しい視線を送り続ける。


「立花先生って変なことを聞くんだね。」


 立花の厳しい視線を真っ向から受け止めたゆうりは戸惑った様子で応える。


「先生がさ、何でそんなことを聞くのかよく分かんないけど……。

 えっと、彩花は見ない振りをしてわざと助け無いなんて事は絶対にしないよ。 本当に、私を助けられ無かったんだよ。

 それに、どうして何もしてくれ無かったって言うの? 彩花は、もう一度私に家族や友達と会わせてくれたもの。 凄く嬉しかったな。」


 優しい笑顔を浮かべるゆうりの言葉に立花は何も言えなくなってしまうが、もう一つの問いかけに応えて貰う必要があった。


「……親友だと嘯いた彩花様のことを、本当に怨んでいないのですか?」


「あのさ、先生。 さっきから嘯いたって言うけどさ、彩花は言わなかっただけじゃん。 親友だからって全部を話さなきゃいけないの? 全部を話さなきゃ親友になっちゃダメなの?

 やだよ、そんなの面倒臭い。 そんなのさ、何時までおねしょしたー、ベッドの下にエロ本隠してるー、とか言わなきゃいけないってことでしょ?

 生きてればさ、墓場まで持って行きたい隠し事の一つや二つ……うん、二桁、三桁はあるんじゃないかな。」


 笑いながら言い切ったゆうりは、納得出来ないがために何とも言えない表情を浮かべた立花に言い聞かせるように語り続ける。


「親友なんて関係は人それぞれでしょ。 私は相手の隠しておきたい秘密まで根掘り葉掘り聞きたいとは思わないよ。

 それに、彩花を怨む理由なんて私には無いもん。 出来ないことまでして、どんな無理をしてでも親友なんだからって理由を盾に助けて欲しいなんて思わないよ。……その所為で、彩花が傷つく方が私は嫌だ。」


 凛とした綺麗な立ち姿や、呆れた表情を浮かべていたのに最後には笑顔で手を伸ばしてくれる幼い頃からの親友を心に思い浮かべてゆうりは満足気に笑う。


 彩花を想って笑顔を浮かべ続けるゆうりの姿に立花は肩の力を抜いて、静かに微笑を浮かべる。


「……どうやら、私の杞憂だったようですね……」

「んん? 先生、今なんか言った?」


 小さく息を吐き、消え入るような微かな声で呟いた立花の言葉はゆうりに届くことは無かった。


「何でもありませんよ。 園宮……いえ、流石は彩花様が御親友だと認めた方だと思っただけのことですよ、ゆうり様。」

「……え? まさかの名前と様付け呼び……。 止めてよ、先生! 何か鳥肌が立ってきたっっ!!!」


 腕を擦りながら叫ぶゆうりの姿は、立花の悪戯心を刺激する。


「私が貴女のことを“ゆうり様”とお呼びするのに、其処まで拒否されなくても宜しいのではありませんか、ゆうり様?」

「むりっっ!! だってさ、担任の先生だった人が執事服着て、今更制服なんか着てる私を名前で様付けとか有り得ないっっ!!!」


 いやあぁぁっっ、と悶えるゆうりの姿は益々立花の悪戯心や嗜虐心を煽っていく。


「では……」


 うっすらと色香を漂わせた笑みを浮かべた立花は、窓際にいるゆうりへと近付いて行く。


「担任の教師に名前呼びされた程度で動揺する園宮は、その教師に迫られたらどうなるんだろうな?

 ……なあ、ゆうり? 試してみるか……?」


 背中に窓硝子の冷たい感触を感じるゆうりの目の前には、いつの間にか立花がゆうりの顔の脇に手を付き顔を覗き込むように立っていたのだった。




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