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ちびっ子?! ぱにっく!! その一。


 様々な分厚い本や、走り書きのような荒い文字で何やら書き留められている紙などが大量に所狭しと散乱し、コポリ、コポリと不気味な色の液体が泡を立て、試験管などの実験器具が並べられているフェリシアに存在するとある人物の屋敷の中に、その研究室はあった。


 一人の白衣を纏った小柄な人物が、慎重に有害そうな色合いの二つの試験管に入っている謎の液体を、一つのフラスコの中へと投入し混ぜ合わせれば、ボフンッと大きな音を立てて橙色の煙を上げてしまう。


「……完成だ。」


 橙色の煙が晴れた時には、フラスコの中身はますます怪しい雰囲気を纏う紫色の物体へと変化していた。


「……だが……僕が直接飲むのは危険かもしれないな。」


 怪しい物体の入ったフラスコを片手に持ちながら、その人物は思考を巡らせていく。


「……しょうが無いな。 科学の進歩に多少の犠せ……じゃなく、効果を確認するための実験を挟む必要がある。」


 何かを企む怪しい笑みを浮かべたその人物、蓮は犠牲しゃ……ではなく、快く実験に協力してくれるであろう人物を頭に想い浮かべ行動を開始するのだった。



※※※※※※※※※※



 ゆうりが変装しているとは言え、大国の王女が婚姻の儀を上げるにはそれなりの時間と準備が必要となる物である。


 しかし、準備という物は必ずしも当人達がする物でもなく、四六時中準備のために拘束されるわけでもなかった。


 それゆえに、その日のゆうりは普通に最高位精霊達の習慣となりつつ有る桜の屋敷においてお茶会に参加する事になっていた。


「さっくらー! お茶しに来たよっ!……って、其処の四人は何してんのさ?」


 ゆうりが桜の屋敷の庭へと転移して最初に視界に映ったのは、艶やかな笑みを浮かべて背中に回った牡丹に押さえ込まれそうになっている柊の固く閉じた口を、山吹が飄々とした笑みを浮かべてこじ開けようとし、片手に怪しい雰囲気を纏った紫色のクッキーを持った蓮が強引にねじ込もうとしている光景だった。


「ママ上様っ!」

「ムッティっ!」


 ゆうりが現れたと同時に雛菊と桔梗がいつもの如く抱きつくために走り出し、ゆうりも危なげなく二人を受け止める。


「はいはい、雛菊も、桔梗も、いい加減走って飛びついちゃ駄目だよ。 私が受け止められなかったら危ないじゃん。」


 苦笑しながら二人の頭を撫で、行動を諫めるゆうりへと雛菊と桔梗は抱きついているゆうりの胸元から顔を上げ、明るい笑顔で応えた。


「うにっ! ママ上様は私達を絶対に受け止めてくれるから大丈夫だもん!」

「オーホッホッホッホッホッ! 雛菊に賛成ですわっ! ムッティがわたくしの熱い正義の抱擁を受け止めてくれないはずがありません!!」


 明るい太陽のような笑顔を浮かべる二人に、やれやれと思いながらもゆうりの顔には微笑が浮かぶ。


「もう……二人ともしょうが無いなあ。 じゃあ、早速お茶会を始めようか? 桜、此処は取り込み中みたいだし、あっちに行こっか?」

「……ええ、そう致しましょう。 あのような方々など放っておくに限りますわ!」


 大きなため息を付いて、眉間に皺を寄せた桜がさっさと己が用意したお茶菓子の数々を移動させようと行動を開始する。


「んがぁぁぁぁっっ!!!」


 躊躇うことなく、その場を立ち去ろうとするゆうり達へと必死の形相を浮かべた柊が身体の拘束を解こうと藻掻きながら、大きな叫び声ではなく唸り声を発した。


 ゆうり達を止めるために大声を上げ、口を開ければ必ずその隙にクッキーを放り込まれると言うことを柊は過去の経験から学び取っていたのだ。


「……ちっ! 流石に学習しやがったか!!」


 ゆうり達に助けを求めるために叫び声を上げると考えていた蓮は、予想が外れてしまったことに舌打ちをする。


「ふぅむ……ならば、これに耐えられるかな?」


 次の手を考え始めた蓮の代わりに、すでに別の方法を考えついていた山吹がニンマリとした笑みを浮かべ、柊は山吹が取り出した物を視界に映し顔色を蒼白にする。


「ひぐぅっっ?!」

「ほーら、柊? 我慢しなくても良いんだぞ?……こちょこちょこちょ……」


 山吹が懐より取り出した物……それは大きな羽根ペンだった。


「あらまあ! すっごく楽しそうねん!! 妾も……こちょこちょこちょ……」

「ふぎゃっっ?!」


 牡丹と山吹の二人がかりで押さえ込まれながら、二人の片手は羽根ペンを持ち、柊を笑わせ口を開けさせようと体中をくすぐっていく。


「くくく……柊ぃ? そろそろ諦めて口を開けたらどうだ?……楽になるぞ?」

「ふぐぅぅぅぅっっ!!!」


 全身を襲うくすぐったさに耐えるために唇を噛みしめ、我慢をしていることで顔を紅く染め上げた柊は、怒りの籠もった涙眼で蓮を睨み付け、首を必死で横に振る。


「ふん! 強情な奴だ!!」


 ニヤリと笑った蓮も、何処からともなく羽根ペンを取り出して柊を楽しそうに笑いながらくすぐる山吹と牡丹に加わろうとした……その時。


「……あのねえ、そこのアホなことしている四人組。 桜が折角さ、お菓子とか用意してくれたってのに無駄になるじゃん。」


 いつの間にか雛菊と桔梗の抱擁から脱出したゆうりが蓮の背後に立ち、その手に持っていた怪しい雰囲気を纏った紫色のクッキーをヒョイッと取り上げてしまう。


「母君っ?!」

「……んぐっ……ん-、見た目に比べれば味は普通かなあ……?」


 手の中から消えてしまったクッキーの行方に蓮が慌てた様子で声を上げるが、ゆうりは止める暇も与えずにパクリと躊躇うこと無く一口で口の中に放り込み、咀嚼して呑みこんで首を傾げる。


「ちょっ?! マードレっ、大丈夫なのんっ?!」

「母上っ! 今すぐ良い子ですから吐き出して下さいっ!! そんな怪しげな物体を口にしてはいけません!!」


 まさか、ゆうりが躊躇うことなく食べてしまうとは思っていなかった牡丹と山吹は慌てた様子で、羽根ペンを放り出してゆうりの下へと近寄っていく。


「……てめえら……怪しいって分かってた癖にっそんな物を俺には平気で喰わせようとしてやがったのかっっ!!!」

「「「柊だからな。」」」


 解放された身体を怒りに震わせた柊が声を荒げて、己を拘束していた蓮達三人へと抗議をすれば当然のように言葉を返す三人。


 わなわなとその返答にさえも怒りを燃えたぎらせる柊だったが、それよりもまずゆうりの無事を確認しなければならないと、思考を切り替える。


「だぁぁぁっっくそっっ!!……お袋っ! 身体は大丈夫なのか? 何か可笑しいところはないのか?」


 冷静さを取り戻そうと髪の毛を片手で掻き回し、ゆうりへと視線を向けて問いかける柊。


「お母様っ! お腹が痛いとか、気分が悪いなどはありませんか?……出来れば呑み込んでしまった物を吐き出した方が良いのでは……」

「ムッティィィィッッッ!! あのような怪しさ満点な物を口にするなど、正義の味方ではありませんわっっ!!!」

「ママ上様ぁぁ! にゃっ、にゃにゃ?! だいじょうぶなの?」


 お茶会の場所を移動するための準備をしていた桜も手を止め、桜の手伝いをしていた桔梗と雛菊も、ゆうりへと駆け寄ってくる。


「あはは! 大丈夫、大丈夫! 何ともない……よ……?」


 子供達の声に応えて笑って返事を返そうとしたゆうりだったが、言葉の途中でドクンッと心臓が大きく鼓動を打つ。


「……あれ……可笑しい……な……うぐっ?!」


 ドクン、ドクンと心臓が大きく鼓動を刻み、ゆうりの視界が回り始め、狭まっていく。


「母上っ?! しっかりして下さいっ!!」

「母君っ?!」


 酷い眩暈の時のように世界が回っている感覚に立っていることが出来無くなったゆうりの身体が傾き、山吹の腕の中に抱きとめられ、子供達の叫び声が脳内で木霊するなか意識が混濁して……途絶えてしまったのだった……。


「……え……? 母上……か?」

「……おいおい……冗談だろう、母君?」


 山吹の腕の中で倒れて意識を失ったゆうりの変化していく姿に、普段は飄々としている山吹すらも引き攣った表情を浮かべ、その過程を間近で見ることになった蓮も、想像していたこととは全く持って違う効果に戸惑った表情を浮かべる。


「……お袋……だよな?」

「……マードレ以外には……考えられないと……思うけど……。」


 山吹の腕の中に抱えられたゆうりの姿の変化に狼狽してしまった柊は己の頬を抓り、同様の余り素の言葉使いに戻ってしまった牡丹。


「お、お母様が……」

「……わたくしよりも……ちっこいですわ。」

「にゃは! ちっちゃーいっ!!」


 ゆうりの変化した姿を眼にした桜は眩暈を起こしたかのように頭を押さえ、桔梗はまじまじと見詰め、雛菊は笑顔で感想を口にする。


「……うみゅ……おねーちゃんたち、だあれ?」


『…………っ?!』


 山吹の腕の中で変化が終了し、ぱちりと閉じていた眼を開けたゆうりは首を傾げる。


 その姿を言葉を聞いた最高位精霊達は、声にならない悲鳴を上げるのだった……。


 

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