表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ひだまり童話館 参加作品

屋根の上にて

作者: 朝永有

「あれ? またやっているのか?」

「そうだよ。このタンポポを見ていただけさ」

「今回はどんな話なんだ?」

「気になるならお前も見るか? 前も見ただろ」

「何見たっけ?」

「あれだよ、ネズミ花火の話」

「ああ! アッチッチか! あれは面白かったな! やることもないし、良い暇つぶしにもなるか」

「じゃあ、見るか! ほら、虫眼鏡」

「お、サンキュー」

 二人は虫眼鏡を持って、タンポポを覗き込んだ。


「これは親子か?」

「多分、父と子だね。なんかのんびり歩いてるな」

「息子は楽しそうだが、父はなんかつまらなそうだ」

「おや、石を竹やぶに投げたぞ」

「息子が飛び上がって喜んでるな」

「父もなんだか楽しそうに見える」

「確かに。さっきまで父から話しかけることが無かったのに」

「今では父親の方が楽しそうに話している」

「なんか……いいな」

「そうだな」


 

「おや? もう一つあるぞ」

 二人の映像が途切れると、別の映像が流れ出した。

「本当だ」

「どうやら、商店街から小さい男の子が歩いてきたぞ」

「なんだか荷物をいっぱい持っているぞ」

「まったく! 母親は何をしているんだ!」

「いや、どうもこれはこの行動は少年の思いつきのようだ」

「どうしてそれが分かるんだ?」

「よーく見てみると、脇に貯金箱を抱えているんだ」

「どれどれ……本当だ。でも、なんでこんな寒い中出かけたんだ?」

「確かに。気になる」

「お、家の中に入ったぞ。靴も並べずに急いで部屋に入った」

「あ、誰か寝てる」

「小さい女の子だな」

「妹か?」

「それしかないだろ」

「袋から何か取り出したぞ」

「本当だ。それで、女の子に何かしているな」

「少年、笑ってないか?」

「ああ、笑ってる」

 そこで映像は途切れた。

 

 二人は虫眼鏡から目を離した。

「この景色、なんだか懐かしい気分にさせるな」

「そうだな。そして、この物語は彼らにとって特別な日みたいだ」

「何も変わっていないようで、何かが変わったような」

「そんな物語だったな」

 二人は笑いあった。

「これだからやめられないんだ」

 黄色く咲いていたタンポポの花に一息かけると、花びらは白いまん丸の綿毛に変わった。

「新しい物語をまた見せておくれ」

 もう一度息をフッとかけ、綿毛はふわふわと飛んでいった。

読んでいただき、ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] ひだまり童話館の一周年記念にふさわしいお話ありがとうございました! 朝永さんの詩は、いつもながらふんわりやさしいですね。情景もふわふわしていながら、はっきり見える――そんな感じです。 今…
[良い点] 一年を振り返る趣向にしみじみ感じ入りました。 散文詩のような形式で表現される不思議な世界がいいですね♪
[良い点] タンポポって小さなお日さまみたいで、その中に朝永さんが創った優しく懐かしい物語の世界がひろがっているのですね(^-^) 屋根の上から虫眼鏡で見ているという発想も良いなと思いました。 タ…
2016/02/23 00:28 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ