屋根の上にて
「あれ? またやっているのか?」
「そうだよ。このタンポポを見ていただけさ」
「今回はどんな話なんだ?」
「気になるならお前も見るか? 前も見ただろ」
「何見たっけ?」
「あれだよ、ネズミ花火の話」
「ああ! アッチッチか! あれは面白かったな! やることもないし、良い暇つぶしにもなるか」
「じゃあ、見るか! ほら、虫眼鏡」
「お、サンキュー」
二人は虫眼鏡を持って、タンポポを覗き込んだ。
「これは親子か?」
「多分、父と子だね。なんかのんびり歩いてるな」
「息子は楽しそうだが、父はなんかつまらなそうだ」
「おや、石を竹やぶに投げたぞ」
「息子が飛び上がって喜んでるな」
「父もなんだか楽しそうに見える」
「確かに。さっきまで父から話しかけることが無かったのに」
「今では父親の方が楽しそうに話している」
「なんか……いいな」
「そうだな」
「おや? もう一つあるぞ」
二人の映像が途切れると、別の映像が流れ出した。
「本当だ」
「どうやら、商店街から小さい男の子が歩いてきたぞ」
「なんだか荷物をいっぱい持っているぞ」
「まったく! 母親は何をしているんだ!」
「いや、どうもこれはこの行動は少年の思いつきのようだ」
「どうしてそれが分かるんだ?」
「よーく見てみると、脇に貯金箱を抱えているんだ」
「どれどれ……本当だ。でも、なんでこんな寒い中出かけたんだ?」
「確かに。気になる」
「お、家の中に入ったぞ。靴も並べずに急いで部屋に入った」
「あ、誰か寝てる」
「小さい女の子だな」
「妹か?」
「それしかないだろ」
「袋から何か取り出したぞ」
「本当だ。それで、女の子に何かしているな」
「少年、笑ってないか?」
「ああ、笑ってる」
そこで映像は途切れた。
二人は虫眼鏡から目を離した。
「この景色、なんだか懐かしい気分にさせるな」
「そうだな。そして、この物語は彼らにとって特別な日みたいだ」
「何も変わっていないようで、何かが変わったような」
「そんな物語だったな」
二人は笑いあった。
「これだからやめられないんだ」
黄色く咲いていたタンポポの花に一息かけると、花びらは白いまん丸の綿毛に変わった。
「新しい物語をまた見せておくれ」
もう一度息をフッとかけ、綿毛はふわふわと飛んでいった。
読んでいただき、ありがとうございました。