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1つの悲恋  作者: ボッコちゃん
1/3

⒈天使 

起こった事実は1つでも、人が違えば受け取り方もまた異なります。

それを小説に出来たらおもしろいと思い、このようなものになりました。

僕は天使だ


魂を天国へ導く天使だ


僕には愛するヒトがいる


同じ天使の彼女


僕は彼女を愛した


彼女も僕を愛した



僕らは幸せだった







彼女の魂が輪廻した。


輪廻転生の理は知ってる。

もちろん知っているけれど、天使となってからずっと長い時を共にしてきた彼女が人間になるなんて

考えたことも無かった。


人間になる時、魂は全ての記憶を失ってから、新たな人生を歩み始める。


そう、彼女は人間になったのだ。


僕のことも、天使であった彼女自身も全て忘れて、全くの別人として

彼女は新しい人生を歩み始めた。

僕にはそれが耐えられなかった。


探して、探して、僕は彼女をようやく見つけた。



躊躇うことなどなかった。

彼女は生まれ変わったというのに。

自分勝手な僕は人間になっても彼女を愛した。

彼女の美しい魂を愛した。


僕は彼女に会いにいった。

月の綺麗な夜だった。


「やっと見つけた」


そう言ってすっぽりと彼女の身体を包むと、なんだか泣きそうになった。

昔から僕は涙もろくて、よく彼女の前で泣きそうになると、「男のクセに」と笑われた。

しかし、目の前の彼女は僕を笑わなかった。

それが少し寂しかった。


僕は彼女に全てを伝えた。

彼女が人間として生まれて来る前、彼女が天使だったこと。

長い長い時を、共に過ごしてきたこと。

僕らが互いにどれほど愛し合っていたかを。


住む世界が違う人間と天使が結ばれることはない。

僕はそれでも構わなかった。

ただ彼女がそばに居て、僕を愛してくれるだけで良かった。

彼女がいつか年老いて死んだ時、魂だけの姿になった彼女は僕とともに過ごすことが出来る。


また、二人で幸せな時間を過ごせる。


だから僕は彼女が魂だけになるのを待つだけだ。

僕が彼女を手にかけることは出来ない。

そんなこと、もちろん出来ない。


汚れた魂は天に行けないから。






彼女が悲しそうな目をするようになった。

僕らの愛は形にはならないからだろうか。


それでも僕は彼女を愛した。

彼女と天に帰る、その日を待った。






いつからか、黒い影が彼女を見つめているのに僕は気付いた。


あれは死神だ。

魂を地獄へ導く死神だ。

彼女を見つめる死神の目は、僕と同じ目だった。


僕は死神を警戒した。

彼女の魂をとられないように。

地獄に導かれてしまわないように。






その日、空は分厚い雲で覆われていた。

僕は彼女の元へ行こうとしているところだった。

ふいに、空を厚く覆っていた雲が流れて月が顔を出す。

彼女を見つけたあの日のような。

月の光が闇夜をゆっくり照らし出したその時だった。




彼女の魂が変化した。




僕が愛したヒトと同じ、美しい魂になった。




僕はひどく驚いた。

どういうことだ?

懐かしくて温かい、僕が求めてやまない魂。

それがどうして、人間の彼女から感じられるのだろう。

僕は急いで彼女の元へ向かった。



彼女のすぐ側に黒い影があった。

その影の頭上に月光を弾く銀色が一瞬閃いた、と思った瞬間、彼女の身体が崩れ落ちるのが見えた。



静かに、彼女の身体が倒れた。

彼女の美しい魂がむき出しになったのがわかった。



僕の愛した彼女が、死神の手にかけられた。

死神が人間に手を下したなんて、信じられない。

彼らはあくまで魂を誘うだけ。

直接人間に接触することなんてあり得ないことだ。

死神は巨大な鎌を背負い直した。

その刃に血は付いていなかった。



彼女の身体から、ゆっくりと魂が身を起こした。


淡い光を放ちながら、不安定に揺れながら。

魂は空に浮かんだ。



しばらく死神は彼女を見つめ、そして音も無く消えていった。

後に残されたのは、立ち尽くす僕と空に浮かぶ彼女だけ。


甘く汚い感情が僕を満たした。

たった今彼女は死神の手にかけられたというのに、僕の胸は高まっていた。

これで僕は彼女と同じ世界に生きられる。


背中の翼が唸り、地面がだんだん遠のいていく。



「      」



僕は彼女の名を呼んだ。

愛してやまないその名前を。


僕は彼女に手を伸ばした。

もう離れないよう、強く抱きしめるために。



彼女の背から純白の翼が生えた。

それと同時に、腕の中で、彼女が涙を流した。

月の光に輝くそれは、何よりも美しかった。



ここまで読んで下さりありがとうございます。

よろしければ別視点の物語もご覧下さい(^^)

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