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作者: じゃこ

先日みた夢がこんなんでした。また適当にコメディを選ぶ悪い癖が出ています。

 我が家に穴が空いていた。一階の床に、人一人がすっぽり入るような穴だ。昨日の夜までは無かった穴。きれいな円柱状の穴。底の見えない大きな穴。吸い込まれそうな穴。僕にはこんな綺麗な、こんな深そうな穴を掘る技術も時間も無い筈なのだが。ともかく空いてしまったものは仕方ない。何処かで仕切りを買ってこなければ。


 縄と杭で作った急ごしらえの仕切りをあざ笑うかのように、次の日には穴のとなりに穴が空いていた。同じ大きさ、同じ形の穴だ。身に覚えの無い穴が二つ。何となく嫌がらせかと思ったが、今までの半生、他人に大きな恨みを買われることをした覚えは無い。何より、こんな綺麗な穴を空ける技術を持つ者が僕を恨んでいるならば、もっと効果的な嫌がらせをしてくる筈だ。突拍子も無く、意味もわからない現象に、僕はただ唖然とするしかなかった。


 大方の予想通り、次の日には穴のとなりの穴のとなりに穴が空いていた。これまたとなりの二つと同じ大きさの穴である。僕には恐怖どころか、予想が当たった事による妙な安心さえあった。そのうち、一階そのものが一つの穴になってしまうのではないか。穴から何か出てきている訳でもなく、何か物が無くなっているわけでも無いが、どうしたものか。とはいえ何をする?気がつけば空いている穴。音も無く現れている穴。深さのわからない穴。ともかくこの穴を知る事から始めなければ。


 「おーい。」穴に向かって呼びかけてみる。もしかしたら何処か別な世界に繋がっているのかもしれない。そんなくだらないことを考えながらの呼びかけに、答える声は無かった。反響さえ返ってこないあたり、相当に深い穴なのだろう。次に、小石を投げ入れてみる。直後、何となく遠い未来に空から石が降ってくる様を想像して若干後悔したが、投げ入れてしまったものは仕方ない。やはり何の反応も無い。次に、仕切り用に買ってきたロープの余りにビデオカメラを括りつけ、録画ボタンを押す。暗くても大丈夫なようにライトをつけ、ロープを誤って落とさないよう、端を杭に括りつけて固定する。少しずつ下ろして行くものの、底に行き当たる気配も、何かにぶつかる感覚も無い。ロープの長さの限界が来たので、ゆっくりとビデオカメラを引き上げる。帰ってきたカメラには、ひたすら同じ壁面を映すだけで、結局何もわからなかった。個人で出来ることはここまでだが、さて。どうしたものか。こういう問題をどこに相談するのかはわからないが、実のところ、この穴にそこまで困らされている訳では無い。家の出入りが若干面倒だが、どういう訳かこの穴、家具類は避けている。しっかり仕切りを作れば誤って落ちる心配も無い。何より、ペットも飼っていない一人暮らしの身としては、穴に妙な愛着が沸いていた。


 仕事で大きなミスをした。幸い早いうちに気がつけたので、会社に大きな損害は無かったが、一歩間違えれば僕一人のクビでは足りないくらいの損失を生んでいたかもしれない。上司にどやされ、一人で酒を引っ掛けた帰り、何となく穴の一つを覗き込む。最早僕の家の一階は、穴でない場所の方が少なくなっていた。この穴に落ちれば、嫌な事も忘れられるだろうか。何となく、そんな事を考える。馬鹿馬鹿しい。その思いとは対照的に、僕は吸い込まれるように穴に入っていった。何に激突する訳でもなく、どんどん落ちていく。気がつけば僕は、穴の中で意識を失っていた。


 ベッドの上で目が覚めた。寝惚け眼に、穴の事を考える。あれは夢だったのだろうか。だとすれば妙な夢である。そんなことを考えつつ、朝刊を取りに一階へ降りる。一階の床には、一つの穴が空いていた。

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