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政略結婚


カルロッタは皇女として決められたレールの人生に不満はなかった。

国民の税金で養われていたのだ。自分の役割ぐらい享受できなくて、何が王族か。

勉強も作法も、幼い頃から定められていた婚姻も、自分の立場では当たり前のことと受け取っており、苦痛ではなかった。

普通では受けられない高い教養も、飢えることなく与えられる豪華な食事も、それらのほとんどが国民の税金によって賄われているのだから。だから、レールの上に人生に不満はない。


国民により、生かされている。だから今度は国民のために、より豊かなものを返さなくてはならない。

与えられれば与える。それはカルロッタの生家の家訓でもある。

だからこそ、彼女の国は帝国と言われるまでに発展したのだ。

自分はその一端を担うのだと、カルロッタは幼き頃より理解していた。


だから年端もいかぬ頃から定められていた、隣国タイトスの第二皇子であるジュリオとの婚姻にも否やはなかった。


帝国であるカルロッタの国へ、留学という形でジュリオが王宮へ来たのは彼が6歳の時。カルロッタが5歳の頃だった。

実質、留学とは名ばかりの人質のようなものであったのだが、ジュリオは特に問題を起こすわけでもなく、立場をわきまえていた。

ジュリオの国はさほど大きくなはなく、小国と言える。

農作物も豊かとはいえないが、国にある鉱山からとれる鉱石がジュリオの小さな国を潤していた。しかしそれ故に近隣諸国から虎視眈々と狙われていた。

鉱山は国の財産だが、先を見ればいつ果てるとも知れない。

ならば、と技術を磨こうにも、他の国と比べてこれといって秀でることはできなかった。

長い目で育てようにも、鉱山が尽きればジュリオの国の強みは失われる。これは先代からの問題であった。

それならばいっそ、帝国と強固なつながりを持てばいいと提案したのは、ジュリオの父である国王と元老院であった。

ジュリオに弟が生まれた時点で、彼は第一王子の予備としての役目もよりも、国の保護強化の目的としての役割が振られるようになり、それが帝国への留学と言う名の人質という役割であった。

これにはカルロッタの帝国としても否はなかった。

うま味あるが故に、小国でありながら何処にも属国していなかった国の第二王子を人質にできるのだ。

タイトスは確かに鉱石以外に秀でた生産物はないが、帝国としてジュリオの国を取り込む強みは、タイトス国のもう一つの隣国にある強国、ニレッツェとの繋がりでもある。タイトス国を国交の通り道として使えるのだ。

まして、ジュリオと誰かが婚姻を結んでしまえば、国同士の力量は誰の目を見るよりも明らかだ。国の接収はしないが、実質帝国の属国扱いできる。

そしてタイトスの利として、帝国の保護と、鉱山が尽きた時の保険の意味合いもある。

互いの国の利害が一致し、ジュリオはカルロッタの帝国へと来ることになり、帝国からはタイトス国王の要望により、自衛の意味を込めて鍛えられた兵士百人を譲渡され、現皇帝の側室も差し出された。

その側室が選ばれたのは、彼女はまだ年若く、側室となって日が浅かったので、皇帝にお手つきもされていなかったためである。身分も成りあがりの伯爵家ということもあり、彼女に白羽の矢が立ったのである。彼女の父もいくらか渋ってはいたものの、状況次第では更に成り上がれるという下心もあってか、彼女を差し出したのだ。実質、皇帝から労いと謝礼を授けられていた。

兵士は、ニレッツェではなく帝国の属国となることを選んだことへの警戒のために。そして側室は、王族程に影響力は無いものの、帝国の中で程々に高い地位にいる者を。これは帝国からの実質な人質であった。


そして帝国への人質同然、第二皇子の婚約者として選ばれたのがカルロッタだった。


カルロッタには兄が二人に姉が一人、そして弟妹も二人いる。

長兄と姉は皇妃の子で、長兄は父王によく似た顔立ちと黒髪を持ちながら皇妃譲りの青い目をしていた。精悍さと美しさを兼ねそろえているが、切れ長の鋭い目つきは他者を寄せ付けない。だけども、それでも恐れられながらも他者を惹き付けてやまないカリスマ性は、次代の皇帝として申し分ないだろう。

姉はほとんど全てが皇妃に似通っており、金の髪に青い眼、華奢な体つきだが傾国の美女とも言うべき美しさを誇っており、女ながらに頭の回転が速い。

第二側室の子である次兄は母譲りの茶色い髪と父王譲りの金の目、そしてやはり母譲りの柔和な顔立ちで、性格も穏やかながら頭が良く、幼い頃から長兄の補佐をしている。

弟妹は第三側室の双子として生まれた。二人とも母譲りの銀髪に、双子の兄は父譲りの金の目をし、妹は青い目をしている。そして二人ともが天使もかくやという愛らしさであった。

そしてカルロッタは第一側室の子として生まれ、母譲りの赤い髪と、先代皇帝である祖父の緑の目を受け継いでいる。

父王は皇妃と側室まんべんなく子を設けているが、彼の父が愛したのは皇妃一人であった。だからなのか、側室同士の小競り合いは少々あったのだが、皇妃の人柄が良く、王の采配も行き届いていたのでその程度で済んでいた。

しかし子どもたちはそんな親同士のことなど眼中になく、兄妹皆、仲が良かった。


カルロッタは第一皇女ほどの利用価値はなく、王位継承権も遠い。年も近く、彼女がジュリオの相手として相応しいと誰もが意見し、それは通った。

けれども第二皇女とは言え、大陸内で勢力を誇る帝国の皇女である。普通は格下の国相手ならば第一王子の正妃候補となるはずだが、相手に第二王子が選ばれたのは、ジュリオが国王という位置よりも融通の利く、未来の宰相頭となることを約束されているからだ。そのことにどんなうま味があるのか解らないが、二国で色々な規定が設けられたようで、カルロッタに口出す権利はなく、それら全てを享受した。


そのようなありきたりの政略結婚であったがしかし、むしろ幼い頃から顔を見合わせている分意思疎通がしやすく、配下や家臣、父においても、ことあるごとに二人を同席させていたのだから、二人は半ば刷り込みのように仲良くなっていった。

それに二人は幼いと言えど、出会った頃より自分の立場を弁えていたのだ。

自分たちの行く末が見えていただけに、二人は仲良くしようと意思疎通を怠らなかった。



だけども結果的に、ジュリオとカルロッタの間に恋愛感情が生まれることは無かった。



互いを理解しようとしてきた努力は当たり前となって気易くなり、恋愛というよりも、むしろ親友と言うレベルに行きついたのだ。

けれども、それでいいと二人は思う。

恋愛は互いにしていないが、好きなことは好きなのだ。不満は無い。

むしろ幼き頃より共に過ごしていたのだから、見知らぬ誰かよりも、見知った相手の方がまだ安堵感があった。

姉に比べれば、カルロッタは良い方なのだろう。

姉は第一皇女という立場と美しさ故に、更なる利益を求められる婚姻をしなければならないのだから。

それに比べてカルロッタは幼少を共にした、気の合う者との婚姻なのだ。

運がいい。素直にそう思う。


そしてジュリオが十五歳の春、見地と身分整理、そして直下領地の視察として自国に戻るに至ったのは、カルロッタの国に来てから凡そ九年の月日が流れていた。

カルロッタがジュリオの元に嫁ぐのは、あと二年の猶予がある。その二年で、カルロッタはジュリオの国の勉強や、作法なりに時間を費やした。


カルロッタは側室の子として生まれたが、皇妃の人柄が素晴らしく、兄妹全員ほとんどが同じ境遇と教育の上で育てられた。

流石に皇妃の御子で、しかも長兄であるアガレスは特別であったがしかし、兄妹同士で憎み合うことなく、むしろ共に笑って過ごしていた方が多い。

だからこそ、隣国へ嫁いでも兄妹に恥じぬ作法を身につけなければ。

そう意気込んで、カルロッタは益々己を磨くことへの余念を怠らなかった。




そしてそれから二年後。

仲の良い兄妹に惜しまれつつ、うららかな日差しを受けて、カルロッタは恙無く隣国のジュリオの元へ嫁いだのだった。




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