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甘党陛下と酒やけ王女  作者: 煤竹
こぼれ話
19/20

こぼれ話 甘党陛下と悪戯皇妃②

引き続きハロウィンネタです。




 「……アウリス?」


 部屋の奥から聞こえた皇妃の声にはっと我に返り、「ああ」と返事をした。


 「リューディア、これは一体、」

 「こっちに来て…?」


 陛下の声を遮るように皇妃が誘う。常に無い声の艶を感じ取ったと陛下が思ったのは、妖しい雰囲気の部屋のせいか。

誘われるままにかぼちゃが照らす道を進み、この場所にこんなものは無かったはずだ、と部屋の途中に垂れ下がる夜色の薄紗の幕を手で退けた。

 幕の中へ入ろうとした刹那、ちりん、と鈴の音が聞こえた瞬間。

 


 「アウリス!」

 「ぅわ!」


 死角から飛び出して来た皇妃ががばっと陛下に抱き着いてきた。

突然のことでその勢いを殺すことが出来ず、皇妃を抱えたまま尻もちをついてしまった陛下はそれでも皇妃に怪我の無いようしっかりと抱き込んでいる。


 「っ痛…」

 「あああ、ごめんなさい!勢いが付きすぎちゃった」


 陛下が痛みに瞑っていた目を開けると、そこには―――



 「大丈夫?腰痛めてない?」

 


 突進してきた皇妃はいつもの皇妃の姿ではなく、別の生き物が、そこにいた。


 艶やかな黒髪から覗く黒い毛の獣耳。

 頬にはどうやって貼り付けたのか細い髭が左右に三本ずつ。

 首元には鈴の付いた黒いリボンのチョーカー。服装は侍女らが着るお仕着せに似てはいるものの少々首回りや袖の辺りが肌の露出が多い物で、何よりスカートの裾が短かった。もう一度言おう。裾が短い。普段長いドレスに隠している足を惜しげもなく出しているのだ。


 えへへ、とはにかむ皇妃の強烈な姿に何てこったと力が抜け、背を支えていた陛下の手が腰まで落ちた。そして指先に感じる違和感。まさかと思い掴んでみると、それはひょろりと伸びた黒い尻尾だった。


 「まさかと思うが、これは……」

 「見ての通り、お化け猫よ!」

 「お化け…?」


 そうよ、怖いでしょ?と軽く握った両手をくいっと曲げて皇妃は笑うが、どう見てもお化け猫なんかには見えはしない。可愛い可愛い黒猫だ。可愛すぎて尻尾を掴む手に余計な力が入るくらいに凶悪だ。そういう意味では確かに、怖い、…のかもしれない。

 このまま撫で繰り回してしまいたい衝動と戦っていた陛下からするりと逃げ出した皇妃の身のこなしは正に猫のようであった。



 「あのね、後でアウリスにも用意した衣装を着てもらうからね」

 「いやまて、話が見えない」


 そもそも今日は何なのだと、黒猫扮する皇妃へ問い掛ける。うーん、と少し唸った皇妃は「とりあえず席についてからにしましょう」と、既に用意が整っている晩餐の席へと陛下を促した。





 「今日はね、私の故郷で行われてる収穫祭の日なの」

 「収穫祭?」

 「そう。これまでの一年の実りに感謝を、そしてこれからの一年の豊作を祈って皆でこうやってお祭りするの」



 こうやって、と言いながら自分の衣装を抓んでみせる。だが陛下には何故仮装するのかが分からなかった。



 「仮装する意味はあるのか?」

 「収穫祭の他にも鎮魂祭も兼ねているからそのせいね。一年に一度のこの日、死者が家々に戻ってくると言い伝えられているから、一緒に収穫祭を楽しむことが出来るようにっていうことで皆お化けの格好をするの。国民も王族も関係なく、それこそ動物たちもね」

 「国を挙げての大仮装祭が繰り広げられるということか…」


 想像をしてみるものの、異文化ゆえに具体的な図は浮かばない。包帯を巻いた者と猫の姿をした者、その二種類だけが陛下の脳内を占めた。



 「大人も子供もみんな一緒になって飲めや歌えやで大騒ぎするから楽しいわよ」


 ―――でもね、楽しいのはそれだけじゃないの。

 そう言って、晩餐を終えた席を立つ黒い猫。口元に綺麗な三日月を描き、丸いテーブルに左手で軽く触れゆったりとした足取りで陛下へと近付く。一足ごとに鳴る首の鈴。夜色を纏った黒猫が、己に擦り寄らんばかりに身を寄せてくることに気分が高揚していく。


…これは一体どうしたことだろうか、開いてはいけない扉を今まさに開かんとしているのは気のせいだろうかと、陛下はこくりと息を呑んだ。



 時間をかけて陛下の元へ歩み寄り、椅子に座ったままの背後へと回った黒猫は、その顔を陛下の耳元へと近付けた。三本の髭が肌を擽り、吐息を感じて肌が粟立つ。すう、と息を吸い込んだ黒猫が、いつもよりも掠れて甘い、正に猫なで声を出して陛下の肩を一撫でした。



 「おさけをくれないと、いたずらしちゃうぞ」



 本来ならばお菓子を強請る場面。けれどお菓子よりもお酒が欲しい皇妃なので、陛下が知らぬのを良いことに少しばかり改変して囁いたのだ。

 皇妃の読みが当たればここで悪戯されるのは困る陛下が「存分に飲め」と酒を勧めてくれるはずなのだ、が。





 呆然としていた陛下が突如、にやり、とそれはそれは楽しげに顔を歪め、皇妃の考えとはほど遠い答えを返してきたのだった……。








お久しぶりでございます!ハロウィンという美味しい行事に食いついて小話が浮かびましたので投下しました。

ハロウィン=こすちゅーむぷれいでしょう!という脳内回路の持ち主です。そして最後の台詞を皇妃に言わせたいがための小話でした。


ハロウィンの解釈はwiki先生を参考にして都合よく解釈しました。ファンタジー!





---この話、もうちょっとだけ続くんじゃよ。

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