こぼれ話 甘党陛下と悪戯皇妃①
ハロウィンネタ。
途中までです。
10の月の最後の日。
今日は少し特殊な行事が行われる日である。
結婚をしてから初めて迎える今日という日を、酒やけ皇妃は楽しみにしていた。
嫁ぎ先のジェヴォークスにこの行事が無いというのは既に調べ済みである。ということは少しばかり改変を加えても誰も分からない。
くふふ、と少し悪い笑みを浮かべた皇妃は、事情を知る自分の侍女ライハの手伝いで夫妻の部屋の一日模様替えを執り行うことにした。
***
月末というのは疲れるものだ、と書類仕事でやられた目をほぐしながら甘党陛下は自室への道を歩いていた。
もうすぐ夕食の時間であるが、今日の夕食は自室で摂りたいという皇妃の要望があったのでそれを叶えることとした。
何やら生き生きした表情をしていたな、と今朝の皇妃の姿を振り返る。そういう表情の時は何かを企んでいる時と承知しているが、とても楽しそうにしていたので知らぬふりをして乗っかってやろう、と。陛下は凝った首を回しながら歩みを早めた。
「……ん?」
前方に見えてきた自室の扉、その周辺が少し明かりを落としているのか薄暗くなっている。
秋も深まり太陽はつるべ落としのように隠れるのも早く、城内はろうそくの明かりで照らされる刻限であるはずなのに。
首を傾げながら近付いていくと、扉の前にはきちんと控えの侍女がいるようだった。
「おい、少し暗いのでは…」
無いのか、という陛下の疑問は最後まで口にすることが出来なかった。
「おかえりなさいませ、皇妃様は既に中でお待ちでございます」
「あ、ああ…」
扉の外にいたのは皇妃付きの侍女ライハである。…声だけ聞けば、そのはずだ。
「……怪我でもしているのか?」
陛下がそう問うのも無理はなく、目の前の侍女は顔の大半を包帯でぐるぐる巻きにしており、顔の表情が分かるのは包帯から出ている右目と口元だけだ。
また、お仕着せから覗く素肌部分も全て包帯で巻かれている。もしもこれが怪我なら大怪我だ。侍女が怪我を負ったという報告は入っていないが、頭の先からつま先までといった具合に包帯をしているなら立っていることも辛いのではないか。
けれどもそんな陛下の問いに侍女は薄笑いを浮かべただけで、「皇妃様がお待ちでございます」と扉を開け、綺麗な一礼をして陛下を部屋の中へと促した。
侍女を振り返りながら部屋の中に足を踏み入れた陛下が前を向くと、びたりと足が止まり目を見開いた。
部屋の中も、異様な雰囲気に包まれていた。
薄明りが灯る部屋には、大小様々なかぼちゃが置かれており、良く見るとそれはランプの役割を果たしている。
笑っているような、泣いているような、怒っているような。表情豊かな顔のようにくり抜かれたかぼちゃの中にろうそくが入れられているのだろうそれが所狭しと並べられ、その灯りのみで部屋を照らしているようだ。
幻想的と言うよりは、ここまで大量のかぼちゃに囲まれると少々薄気味が悪いな。陛下は呆然と部屋を見渡していた。