こぼれ話 酒やけ皇妃の甘い願い
お久しぶりです。
短いお話ですが、どうぞ。
酒やけ皇妃が、風邪を引いた。
「起きたか?粥を持ってきた」
ベッドの上。身体を起こした皇妃の下へ、甘党陛下が食事を運んできた。
仄かな湯気を立てている粥が、食欲が減退している今とてもありがたい。ありがたいのであるが、素直に食べることが出来ない。
何故ならば、食べる為のスプーンを渡してもらえないのだ。
口元に差し出された銀色のスプーン。その先には一口分に掬われた粥。陛下はこれを食べろと言っているらしい。
熱っぽさにふらつく頭が余計にふらふらしてきた、と皇妃は枕に背を預けた。
「あの…、自分で食べられる、けど…」
喉が腫れていて常よりも数段しゃがれた声を絞り出す。
その声を耳にした陛下の顔が一瞬辛そうに歪めて「無理して喋らなくていい」と言った。
「まだふらついているだろう。お前は素直に甘えておけ」
ほら、と唇に近づけられる。ほんのりとした温かみを感じておずおずと口を開いた。
とろとろに煮込まれた粥が痛む喉に優しく通る。僅かに感じていた空腹感が一層増し、この分なら食べきれるような気がする。…彼がスプーンを渡してくれるなら。
美味しさと恥ずかしさで皇妃がほう、と息を吐くもすぐにまた試練が訪れる。
「次だ。あーん」
遂には「あーん」とまで言い出す始末。
いい歳をして言われる方が恥ずかしいと何故気付かないのか。
いや、言う方も恥ずかしい気がするのだけど。
「あのねアウリス、やっぱり私じぶんで…」
「あーん」
「……」
譲る気の無い気配がびしびしと感じられ、皇妃は餌付けされる小鳥の如く、陛下の運ぶスプーンを受け入れ続けた。
「…もうお腹いっぱい」
結局半分ほどしか食べられなかったけれど、胃の中にほっこりとした温かさが灯り少しばかり眠気も覚える。
ぼうっとし始めた皇妃の頭を陛下が優しく撫でた。
「眠いのか」
「……すこしだけ」
もぞもぞと身体を動かして陛下の方へ向き直る。
その際、陛下の手が頭から頬に移り、ひんやりとした心地にうっとりと目を瞑った。
「このまま寝てしまえ」
陛下の低い声が意識に染み入る。まるで子守唄のようだ、と皇妃は思った。
―――子守唄。
「アウリス……?」
「なんだ」
―――優しい声。
「私が、眠るまで……」
「ここにいる」
―――ありがとう。
ほどなくことん、と眠りの世界に入った皇妃の側で、愛する人の滅多に無い甘いお願いを聞き入れた陛下は飽くことなくその寝顔を眺めていた。
周囲に風邪引きさんが多かったので酒やけ皇妃にも風邪を引いてもらいました。
季節の変わり目は体調の変化にも気を付けたいです。
お読み頂きましてありがとうございました!