ミラクルモルモット
朝起きたら、玄関にモルモットがいた。
見覚えのない小動物に困惑しつつ、よく見てみるとモルモットには首輪が着いていた。
誰かのペットだろうか?
そんなことを考えながらモルモットのことを観察していると、首輪に札が付いていることに気づいた。
『ミラクルモルモットです』
札には雑な自己紹介が書かれていた。
「ミラクル?」
首をひねっても答えはわからず、俺はとりあえずその小動物をリビングへと案内した。
モルモットはリビングに入ってすぐにテーブルへと昇り、テーブルに置かれた食パンを見つめ始めた。
「食べる?」
朝食に準備したものだったが、まだたくさんあるからいいか、と思い訊ねてみた。
モルモットは首を横に振る。
次の瞬間、食パンがフランスパンに変わった。
「なにこれ?」
「ミラクルです」
「誰だ?」
声の主を探してみれば──モルモットだった。
「これがミラクル?」
「朝は軽めです」
午後になると、モルモットは鉢植えを見つめ始めた。
しばらく見つめていると、鉢植えに植えられていたサボテンがブロッコリーになった。
「ミラクルです」
「方向性がおかしいだろ」
「緑つながりということで」
だいぶ雑なミラクルだな。
心の中でツッコミを入れてから、俺は試しに宝くじを差し出した。
「一等にしてください」
俺の言葉を聞いて、モルモットは目を閉じる。
ドキドキしながらしばらく待っていると。
「えいっ!」
宝くじが二枚になった。
「増えました」
「……あたってない」
「ミラクルですよ」
枚数の問題じゃないんだよ。
そんなモルモットとの楽しい日々を過ごしていると、ある日の夜。
「これが最後のミラクルです」
俺を見つめそう言うと、モルモットは激しく光り輝いた。
何が起こってるんだ。
こんな光、初めて……。
ていうか、最後って……。
頭の中に湧き上がる思考が途切れるよりも早く、光は落ち着き、やがて消滅した。
「なんだ? なにが起きて? というかモルモットは⁉」
突然姿を消したモルモットを捜していると、違和感に気づいた。
なんだかやたらと髪の調子がいい。
過去一番の髪の質感。
癖なんてひとつもない。
……ミラクルこれ?
いや、髪の調子が良くなったのは嬉しいんだけど。
あんな盛大な光を放ってすることがそれなのか。
そんなことを考えながらリビングを飛び出し、廊下を捜していると。
「ん?」
玄関になにかが置かれていた。
駆け寄り見てみれば、モルモットの着けていた首輪だった。
その首輪の札にはこう書かれていた。
『ミラクルは気にしすぎないくらいがちょうどいい』
「ふっ。なんだよそれ……」
軽く笑った後に俺は玄関の扉を開けた。
まだ近くにいるかもしれない。
そう思って、外を捜し始めた。
しばらく捜して、わずかな違和感に気づいた。
通る信号が、全部青だった。
「ふっ」
小さな笑みが自然とこぼれた。
「たくっ……離れようとしてるのか、早く来てほしいのかどっちなんだよ」
俺は足に力を込め、夜の街を駆けだした。




