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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。

“デルタエルフ”にすがられて

作者: 甘渇
掲載日:2026/04/11

「ぅわびっくりした……ぇなんなんこれ?」


「あなたは召喚されたのです、“召喚デーモン”様……!」


 大好きなヌードル食べるひと口め、寸前。


 うちは『異界』に降って湧いた。


「召喚て……デーモンて……けどほんまやわ! あんたらの耳とがってるもん!」


 加えて、みんなめちゃめちゃ美人なうえ、髪はつやつやファンシーカラー。


 着てる服も、魅惑のファンタジカル。


「すんなりご理解くださる他次元存在……! 助かります! あなた様なら……お願いします! 私たち“デルタエルフ”をこの戦いから救ってください……!」


「でるたえるふ?」


「はい、正式には“デルタールエルフ”といいます。私たちにはもう……あなた様しかいないのです!」


「デルタールて。なんか今にも滅んでまいそうな……」


キルマニヨン(なんてこと)! 名前だけでそこまで……! お姉様方、喜んでください! この御方こそ、本物の“救世魔”様です!」


 そう喜んではる胸先で、絹糸みたいに細くて綺麗なネックレスがきらりきらりと跳ねてるけど、


「ちょお待って? うち素っ裸やんっ!」


「召喚デーモン様がそんなこと気にしてはいけません。さあどうぞこちらへ、戦場へ……!」


 一糸まとわず、神殿から連れ出された。


 聖なる丘から見下ろせば。


 荒野に群れなす、半裸アーマーのアマゾネス系軍団。


 全員アメコミから抜け出てきたみたいな、筋肉質でむっちむちの、濃いぃ女傑たち。


「あれが、私たちの敵種族、その名も“マニヨン”です……!」


「へぇ……確かに強そうで『マニヨン感?』はあるけど……いや無理! うち能力とか全然……!」


「彼女らは私たちをどぎつい欲望のためだけに襲い、さらい、もてあそぶのです……! またの名を“吸液鬼”……!」


「待って? うち裸やねんでっ?」


「彼女らは美を好む種族です」


「言葉選ぼっ? これでもモテる方なんやけどっ!」


「ともかく彼女らを撃退しなければ! あなたがそんな世界へ帰るためにも!」


「……。そういえば、向こう、武器持ってへんね? 目的が目的やから当然なんやろか……? ほんでも、なんであんたらも武器持ってへんの?」


「デルタエルフは魔法によって立つ種族です……来ました! 敵襲っ!」


 ワイルド美女の群れが動いた。


 ありあまる活力の疾風怒濤と化し、引くほどの速さでこちらへ迫り来る……!


「よく見ていてください……! これから始まるのは『投射なげ』対『接近じか』の戦いです!」


「なげ? じか? ……ぁほんまやわ」


 エルフの前衛部隊が『魔法の投げキッス』を放った。


 ピンク色に輝く唇の幻影がピンク色の軌跡を曳いて飛び、目標を追う。


 ほんでマニヨン族の女傑らの、あの肉感まるだしな唇に次々に命中する……!


「“飛唇鳳聖デルタハール”の魔法を受けたマニヨンは、性欲を強制閉鎖され、長期にわたって“聖賢者状態サピエンヌ”に陥ります。こうなった彼女たちは、もう無害です。そう、たとえ目の前でどんな光景がくり広げられていようと……!」


 ほんにそのとおり。


 投げキッスが命中したマニヨンらは、その場に座りこみ、ぼんやり戦いを眺めてる。


「ですが、もしこちらの魔法をかいくぐられ、マニヨンに直接唇を奪われると……」


 抱きすくめられたエルフらが、くにゃん、となって相手のマニヨンに身をゆだねていく……!


「催淫作用のある唾液を流しこまれ、あとはされるがまま……!」


「……その場でおっぱじめてるやんか……!」


「発情させられたデルタエルフは、自身の全魔力を解放して不可視・亜無敵の防御結界“天情ク・デル”を張るため、もう幻唇は届かない……!」


「……『結界それ自体だけ』が不可視なんやね……」


 中で何が起きてるかは、一目瞭然……。


「このままでは皆が汚されます! 召喚デーモン様、あなた様の御力が必要なんです!」


「うちに出来ることあるやろか……?」


「あなた様には“空気マナ”を読む力がおありのはず!」


「ぇ? くうき? まな? どっち? 両方聞こえた……」


 うちと話してるエルフの子が自分の唇に指当てて、『魔法の投げキッス』を三つほど作った。


 他のエルフも、同じようにしてる。


 それら浮遊する幻影の唇を、全部、うちの両腕いっぱいに抱えさして、


「召喚デーモン様、すべてをあなた様に託します……! どうか私たちの魔法をマナの流れに乗せ、敵に命中させてください……!」


「そんなん……! 『流れ』なんかわからへん……!」






 結局、マナの流れはうちには読めんかった。


 狙って投げてはみたものの、『魔法の投げキッス』は一個も命中せん。


 うちと、うちと話してるエルフの子以外の全員が、マニヨンの餌食になった。


 神殿の隠し部屋に潜んで、うちら二人は、丘で繰り広げられる出来事を息のんで見つめた。


 美女が、美人を、組み敷いて動いてた。


「なんかヨーロッパ絵画とかに出てきそうな情景やね……神話じみてるというか……」


 とは、口に出しては言いかねた。


「お姉様方……! なんて、おいたわしい……!」


 ほんでも、なんでか悲劇的な印象は受けへん。


 例の結界は、視覚情報以外も筒抜けに通すらしい。


 いろんな体臭が入り混じったやらしい匂いが、風に乗ってここまで漂ってくる……。


 エルフの子が、ぽつりと告げた。


「……次の神殿都市まで“旋回行軍デルタ”します」






 行く先々の戦場で、エルフ軍は負け続けた。


 ある時、ふと気づいて、


「あれ、あんたの……」


 間違いない。


 エルフの子の言う『お姉様方』が、ビキニ鎧つけてマニヨンの軍勢に加わってる。


 なんとなく、今の彼女らは顔も手足も日焼けして、筋肉質で、どうもマニヨンに寄せてってる気が……。


「デルタエルフは一度マニヨンに屈服すると、肉体を鍛え、彼女らの陣営に加わるのです」


 エルフの子が目を伏せて、教えてくれた。


「変わり身、早すぎひん……?」


「そして、彼女らに抱かれるままマニヨンとの不浄の子を産む……!」


「女同士でっ? 男は?」


「……? オトコ、とは?」


「……まあええわ、魔法の国や。ほんでも『不浄の子』はないんやないの? ひどいやんか」


「私たちは純血を尊ぶ、高貴な種族です」


「あぁこら勝負にならんわ……」


 エルフ側の尻すぼみは目に見えてる。


「ほな訊くけど……どないなったら、あんたらの勝ちなん? あんたらが勝たんと、うち召喚した魔法の効果消えてくれへんねやろ?」


「電撃的な反転攻勢による一大打撃、そこからのこちらに有利な均衡と対峙……! 当面は、そこへ持ちこむことこそがこの戦役の目的です」


「泣けてきたわ。先長いなあ……」






 負けは、続いた。


 エルフの神殿都市は次々に落とされ、『逆転の切り札』らしき召喚デーモンにとっては、針のむしろもええとこ。


 最後の神殿まで退却させられ、残りの全エルフがそこに集結した日の、たそがれ時やった。


「“デルタキルマニヨン”……私たちにはもう、これしかありません」


 エルフの子が、静かな顔でそう告げた。


「でるたきる……て?」


飛唇鳳聖デルタハールの幻唇を、一人ひとりのエルフが握りしめ、マニヨンめがけて疾駆前進、自分ごとぶつける戦術です」


「それって……」


「デルタキルマニヨンは、『特別なる攻撃』を意味する古代エルフ語です」


「そんなとこやろ思たわ、あんなあ……」


 うちはため息交じりに、


「その言葉、『捨て身の絶望突撃』とかに変えたら……? 誤魔化したらあかんて」


「誰のせいだと思っているんです!」


 怒りもあらわやった。


 エルフの子が声あらげて、


「けだもののような敵に勝つには、もうこれしかないのにっ!」


「あんた、うちのせいて言いたいん? ほんなら言わしてもらうけどっ!」


 つられて、つい語気が強なった。


「けだもの言うけど、先さんのほうがよっぽど、こちらの動きも戦法もちゃんと研究してきてるやんか! 何より向こうは、あんたらのこと正当に評価してる! あんたらエルフを物にするときのあの目、賛嘆がこもってるやないの!」


 黙りこんだエルフの子に、少し言い過ぎか、とは思てんけど。


 うちは続けた。


「よう聞き。あんたらには『評価(はぇ~)』も『危機感ヒェッ』もないねん。自分らは高貴、私らは洗練されてる、エルフは恐れへん、ほな、なんでこんなに負けるねんな? あんたらが自分から……!」


 角笛が轟いた。


 今ではもう、耳なじみになったマニヨンの陣触れの角笛。


 神殿の丘から見渡せば、平原を埋めつくすゾネスでビキニなアーマーの軍勢……。


 完全に、包囲されとった。







 誰もが『これが最後』と、覚悟してるみたいやった。


 エルフらが次々に出ていく。


 ある者は鹿に乗り、ある者は『浮遊の魔法』で地上数十センチをすべるように、ほんで、ある者はみずからの細い脚で、なだれを打って。


 彼女らの言う“デルタキルマニヨン”を、敵に仕掛けるために。


 つかまれ、引き倒され、のし掛かられて、唇を、ほんで、それ以上を奪われていくエルフたち。


 抱きすくめられた彼女らの表情がどんな風やろうと、陵辱には違いない。


「さよならです、召喚デーモン様」


 エルフの子が、笑ろうて、言うた。


 自分の手に『魔法の投げキッス』握りしめて。


「こんな世界ところ召喚よびだしたりして、本当にごめんなさい……でも、いつかきっと、元の世界に無事帰ることのできる日が来ますから! 短い間でしたが、ありがとう、楽しかった……! 私、思います、あなたならマニヨンの獣欲の前でも、やっぱり大丈夫……!」


 まだ言うか。


 エルフの子は、いついかなるときも肌身離さずつけてたあのシンプルやけど吸いこまれそうに繊細で綺麗なネックレスはずして、うちの首にかけ、


「母の形見なんです。あなたが持っていてください、なくすといけないから」


 それから、ついでというみたいにうちの唇にキスして、笑ろて。


 駆け出した。


 美人ぞろいのエルフの中でも、一番のべっぴんさんや。


 すぐにマニヨンが十数人、目の色変えて走り寄る。


 うちは、知らず、進み出ながら、胸に抱えた『投げキッス』を半狂乱になって投げた。


 一つも当たらん。


 言われ続けた“マナ”も読めんし、見えん。


 エルフの子が囲まれ、二の腕つかまれ、顎つかまれて、仰向けに倒される。


 悲鳴と一緒に、彼女の手から『投げキッス』が転がり落ちる。


 うちは……その時。


 自分の脳の血管が切れた音、聞いた気して。


「当たりーや!」


 叫んで、投げた幻唇が、こちら向いたマニヨンの口つらぬくようにぶち当たった。


 どう見ても、マニヨンの方から進んで命中しにいったようにしか、見えんかった。


 うちは、ついに、召喚デーモンとしての力の一端に、たどり着いた……。


「ああ、召喚デーモン様……!」


 エルフの子の、喜びの声。


キルマニヨン(なんてこと)……! あなたの“魔界語”は……マニヨンを従わせることが可能なのですね……!」


「当たりーや! 当たりっ! 当たりよしっ!」


 うちは夢中で投げた。


 面白いように、というか、実際面白い。


 ノーコンが投げる唇に、自分から当たりに行ってくれる筋肉美女軍団。


 されど、しかし。


 うちのこの『能力』も、ここまでやった。


「キルマニヨン……! “ピグマニヨン”……っ!」


 ていう、エルフ軍の誰かの、恐怖にあえぎながらの叫び声。


「今の、何?」


 手え引っ張って、助け起こしたうちに、エルフの子は、


「“ピグマニヨン”……! マニヨンの上位種族、『伝説の悪夢』です……! ああ、ああ、あそこに……!」


 そう指さして、身ふるわせた。


 丘の裾野に、新たな軍団がおった。


 全員、裸やった。


 身長は、マニヨンのほとんど倍。


 体形は、はっきり言うて『土偶』か『大地母神』。


 顔は大きく、眼はでかく、胸も腹も腰も張り出して、脚は短く、手は長く……!


 乳房と、尻たぶが、六つずつ。


「当たらんかいなっ!」


 相手に聞こえるようわめいて、うちは幻唇を投げた。


 異形の女傑らが、こちらへのしのし向かってくる。


 幻唇が、先頭の“ピグマニヨン”に当たる寸前、


「AAAAAAAAAAAALL……!」


 標的が発した奇声によって、『魔法の投げキッス』は空中で粉々に分解した。


 エルフの子が、その場にへたりこんで、


「おしまいです……なにもかも……!」


 手近のエルフらをつかみ、かかえて、舐めながら、ピグマニヨンの軍勢がこちらに攻め寄せてくる。


「……っ! 当たりっ! 当たれっ! 当たってーやっ!」


「AAAAAAAAAAAAAAAAAAALL……!」


 ほんでも。


 うちは。


 エルフの子とは、まったく別の意見やった。


 なんでそうなったんかは、わからん。


 何がしかの『チャクラ』や『第三の目』でも開いたんか。


 それとも、あのものすごいピグマニヨンらが、うちをも好む『性的雑食』に見えたんか。


 ともかく、うちは、初めて。


 “マナ”が見えた。







 それは、無色透明な宙舞う女の子らやった。


 くすくす笑いながら、あちこちで楽しげに飛んでる。


 飛びながら、エルフの足元に石転がして、こけさしたり。


 いきなりマニヨンの耳に息吹きかけて、びくってさせたり。


 遊んでる。


 ただ、遊んでる。


 うちがぼんやり『投げキッス』投げてても、当たらんはずやわ……。


「あんたらっ! なにやってんのんっ!」


 うちの怒声が届いた範囲内のマナが全員、おびえた顔で動き止めた。


 いける……!


 うちは残りの幻唇、全部放り投げて、自信たっぷりに命令した。


「当たらしーやっ!」


 しゃんとなったマナっ子らが、一人一個ずつ幻唇を両手で大事そうに持って、ピグマニヨンに向かって飛んでいく。


「AAAAAAAAAAAAAAAAAAAALL……!」


 幻唇は、奇声を物ともせんとマナに守られたまま……。


 驚愕するピグマニヨンらの口へ、手当たり次第に押しつけられた。


 形勢、逆転やった。


 うちはマナをこき使い、ピグマニヨンを片端から聖賢者状態サピエンヌに落としこんでいった。


 エルフらの幻唇つついて、その軌道をでたらめに変えとったマナも、今はご機嫌取るみたいにマニヨン側にばっかり、いたずらしてる。


 エルフ軍の、大勝利やった。


「ありがとうございます、召喚デーモン様っ!」


 エルフの子が、声弾ましてうちに抱きついた。


「ああ、ああ……! やはり、あなたは『世界の希望ネアン』……! これからもまた、一緒に戦いましょうねっ……!」


 うちは照れ半分、疲れた声で、


「……もう、うちの言葉覚え? その方が絶対早いわ」


 抱きしめ返して、そう言うた。


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