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鬼追師の姫緒   謡言の澱  作者: カンキリ


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付喪神 その2

 風小が叫ぶが早いか、姫緒の両手が高々と掲げられ振り下ろされた。

 すると、高速でアヤカシの周りを飛び交っていた四つの青白い炎は紅蓮のそれに変わり、その場にとどまるかに見えた次の瞬間!一斉にアヤカシ目がけてぶつかって行く!

 アヤカシの身体が熱火に包まれ、真っ黒な煙を立ち上げる。

 激しい閃光!光を内部に溜めた煙の中で、アヤカシは苦しみもがき、大きな咆哮を上げた。

「やった?のか――?」

 うつろな目で、その光景を眺めていた北條の口から、ため息の様に言葉が漏れた。

 風小は、北條の身体を抱くように庇いながら、険しい視線をあやかしと姫緒に向けている。

「ちぃ――」

 姫緒が舌打ちするのを見て取ると、風小の顔からは険しさが消え、微笑みながら北條の顔をのぞき込む。

 つられる様に、北條が微笑み返すと、風小が口を開いた。

「遅かったみたいデスよ」

 その言葉が合図だった。

 突然、火炎の中から、女性の腕の太さほどもある二本のぬらぬらとした触手が現れると、激しく振動しながら宙を漂い出した。

 触手は、あやかしから炎をそぎ落とすように、身体のまわりで風を切る音をたてて飛び交い出し、やがて、それが数回振り回されると、あやかしを包んでいた炎は、その表皮とともに遂には消えて無くなり、下から新しい身体が現れた。

 ぬめぬめと浅黒い皮膚、鎌首の先の方でぶよぶよと泳ぐ縦長の瞳孔をもつ数十の猫のような瞳。

 丁度胸の位置あたりから二本、最初に見たときには無かった触手が生えている。

 その触手が、唸りを上げて空間を裂きまくる、擦った壁紙が裂け、テーブルがへし折れる! アヤカシの身体は、今までの幻影のような身体とは違い、完全に質量を兼ね備えていた。

 流れ弾のような予測不可能の一撃が、姫緒の肩口に炸裂した!

「うっ!ぐう゛うううぅ――」

 苦悶するかのような唸りを上げ、姫緒がその場にうずくまる。

 姫緒のワンピースは、背中にかけて大きく裂け、白い肌に血が滴った。

「風小、依頼主を――守れ!」

 床で悶える姫緒が、吐き捨てるように叫ぶ。

「依頼主?」

 依頼主とは、自分のことだろうか?。

「風小が?俺を?守る?」

 風小に視線を移す。

 そして――。

 その異変にすぐ気づいた。

 風小はまるで糸の切れた操り人形のようにぐったりと生気を失って床に倒れており、抱き上げて顔をのぞき込むと、目は、大きく見開かれた人形の瞳のように視線が飛んで、瞬き一つしない状態だった。

「し、――しんでる?」

 北條が思わず風小を床に投げ出すと、彼女の投げ出された場所に、直径一メートルほどの黒く丸い影が広がって行き、風小の身体は、ゆっくりと揺れながら、その影の中に沈み込み始めた。

 北條はあわてて風小の身体を引っ張り上げようとするが、身体――、いや、洋服さえも、まったく摩擦が消えており、つるつるとして爪を立てる事すら出来ない。

 生暖かな氷の様になった風小は、段々と沈み込む速度を速くして床の『穴』に消えて行き、ついにはすっかり沈み込み、後にはまあるい影だけが残った。

「だ、ダメじゃん!」

 叫ぶ北條の表情が、みるみる蒼白に染まって行く。

「カオォォォォオン」

 アヤカシは、大きく一度伸び上がって吠えると、北條の方へ向き直り、身体の前方で、より一層触手を激しく震わせ始める。触手の先端は小さな感電音を立てながら放電を始め、床や壁紙を焦し出した。先ほどの幻のような炎とは違う!本気でヤバイ!

「あぁぁぁぁぁー!イヤー!」

 叫び、逃げ出そうとした北條は、その時初めて自分が動けない事に気づいた。

 腰が――ぬけている。

 見ると、触手先端の放電は、空中――、アヤカシの頭上に集まって行き、大きく丸い塊に変化しながら、いよいよ輝きを増して行くのだった!

 そして、その塊は、いずれ的に向かって放たれぶつけられる物であろう事は誰の目からも明白らかであり、誰が見てもその的は、アヤカシの前で腰を抜かして泣きながら鼻水を垂らしている北條だった。また、北條もそう認識した。

「!!!!!!!!!」

 声にならない悲鳴。

 恐ろしさのあまり目を閉じる事も出来ない。

 そう思った次の瞬間、彼の目の前を何かが遮った。

 それは――。

 『扇子』いや……『扇』というべきか?

 二メートルに満たない程の、赤い扇が北條の目の前で大きく開いたのだ。

 ほぼ同時に!アヤカシの作った放電の塊が北條目がけて発射され、彼を庇うように立ちはだかった扇に命中すると、目も眩むような眩い閃光とともに拡散した!

 雷鳴のような轟音の後、あたりにオゾンの焦げるような乾いた臭いと拡散した放電の残光がキラキラと充満する。

 何が起こったのか?

 北條は――、そしてアヤカシさえも、事態を飲み込めずに呆然とする。

 アヤカシの頭頂部に集中していた猫の瞳が身体中に散らばって行き、何かを探すようにぐりぐりと蠢いていたが、北條とアヤカシの間に浮かぶ赤い扇が、大きく開いたまま、ゆっくりと回転を始めると、アヤカシはせわしなく触手を振り始め、次々に小ぶりの放電の塊を作り、弾のようにして放射し始める!矢継ぎ早に放電が繰返され、轟音と閃光により真っ白になった空間に浮かび上がる、深紅の扇の黒い影!

 扇は回転しながら、的確に北條を放電から遮蔽していた!

「ムダよ」

 自分の背後からしたその声に、アヤカシがたじろぎ振り返る。

 そこに立つのは、腕組みし不敵に笑う姫緒の姿だった。

「風小は齢千年を越えた扇の付喪神つくもがみよ。お前ごときアヤカシには傷一つ付けられない」

「へ?」

 姫緒の言葉に北條は、自分を庇いながらゆっくり回転する扇を指さしながら言った。

「風小?」

「はい!」

 扇が北條の呼びかけに反応したような気がした。

「目にもの見せてやる」

 姫緒はぞくりとする程冷ややかにそう言い放つと、自分の長い黒髪を雅やかに手櫛で梳いた。

「風小召還!」

 姫緒が叫ぶ!その言葉に答えるかのように扇は一際早く回転すると、ガラスが砕けるような音を立てて四散し、赤い花吹雪となった。

 やがて、姫緒の前方の床に、あの、マンホールのような黒い影が現れる。

「I wouldn’t say no.(承知しました)」

 冷く押し殺した女性の声とともに何者かが床の黒い影からせり上がって来る。

 現れたのは、際どい格好をした小柄な女性――。

 彼女は黒ずくめで、エナメル系のボンテージ服に身を包んでいた。

 大きな襟の付いた、ヘソ出しビスチェタイプの上着、ハイレグ気味のホットパンツ。

 ガーター付きの網タイツに膝の上までの長いブーツを合わせ、両の腕は肘の上まで隠れるエナメルの手袋を纏い、首にはチョーカー――、と言うよりは大型犬の首輪と表現した方がしっくり来るものを巻いている。

 ブーツと手袋にはたくさんの小さなベルトもついていた。

 そして、そんな格好の彼女の左手には――。

「風水銃!」

 北條は確認した。

 風水銃を顔の前に掲げてせり上がって来たために誰なのかを確認し辛く、今まで此処にいた彼女の顔つきより多少気丈な顔つきになってはいたが――。

 それは――、それは、紛れもなく――。

「風小!」

「霊査開始します」

 風水銃を掲げたままの姿で風小が静かにそう言うと、風水銃の同心円部分の円盤が、それぞれ高速に回転を始めた。そして、ゲームマシンの絵柄が止まるように一つずつカチカチと止まって行き、やがて全ての同心円が停止する。

「霊査完了『火の属性』」

「があっ」

 風小の声にあやかしが怯んだように吠えた。

属性石(キャラクタル)

 再び風小が口を開くと、彼女の額が輝き出し、まるで、その光に圧力があるように、彼女の額を隠していた前髪がさわさわと沸き出した。

 額の光は中央に集中しだし、やがて小指の先ほどの大きさの、透き通るような蒼い石に変わるとそこに固定された。

「相殺の属性石『アクアマリン』。『水の属性』召喚!」

 風小が叫び、風水銃を胸の前に持って行くと水平に構えなおす。

 風水銃の円盤が再び――、いや、今まで以上に高速で回転を始める!

 回転は――、加速してゆく!

 円盤状の同心円同士の速度は多少違うのか、お互いの金属部分の擦れ合う音が小動物の悲鳴のように響き渡る。

 擦れた金属部が火の粉を散らしだし、やがて円盤そのものが燃え上がっているかのように火片にまみれ出した。

 風小の左腕がゆっくりと前に突き出され、あやかしに向けられる。

クリスタルの裂ける様な音を立てて次々に回転板が停止し出す。そして最後の回転板が停止すると、目交ぜし間、時すら止まったような静寂が訪れた。

「相殺の水波動」

 背筋が震えるような声で風小が言い放った。

 と、同時に、風水銃の全体が輝きだし光の固まりと変わっていく。

 やがて光の固まりは風水銃と分離し銃の上方に浮いてとどまる格好になった。

「相殺!」

 風小の掛け声とともに『光』となった水の波動がアヤカシに発射され、命中すると、それは『波動』へと姿を戻した!

 悲痛なあやかしの咆哮が部屋を震わせ響き渡る!

 あやかしのその姿は、空中に起きた波紋に激震され、ノイズのような音とともに拡散し始めていた。

 あやかしは、崩れた身体を炎に包まれた時のように修復しようとしているのか、あわてて二本の触覚を体中に忙しなく這わせる。

 が、しかし――、その触手が、細かい破片や粒状になってこぼれ落ち出した――。

 怯えているのか――、たくさんの猫目の瞳孔が一斉に大きく見開き潤み出す。

 間際、あやかしが大きく身体を震わせるせると、身体からたくさんの触手が一斉に湧き出した!

 だが。

 それで終った。

 波動があやかしの全身を包み込み、湧き出した触手もまたノイズとともに塵のように崩れていった。助けを乞うように潤んだ猫目達も、それらすべてが――、無へと還って行く。

 あやかしの断末魔か、それとも波動の捲く音か――。

 風音とともにあやかしの姿は跡形なく消え去ったのだった。

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