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鬼追師の姫緒   謡言の澱  作者: カンキリ


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エピローグ

 外が騒がしい――。

 当然だろう。

 家の中で花火を上げたような大騒ぎをしていたのだから。

 マンションのお隣さんや付近の住民が、言いたい小言は数あれど、何が起こっているのか理解するには不気味すぎて、文句を言うに言えずに遠巻きに見守っている――。

 といったところか。

 このまま自分たちが消えてしまえば後は丸く収まるのだが――と、姫緒は考えていた。

 自分たちが消えた後に住民の通報があって警察がやって来る。

 北條と警察の間で多少の押し問答は有るとしても『事件性が無い』ということになれば意外なまでにあっさりと片づいてしまうものだ。

 厄介なのは今回のようなケースだ。

「そんなぁ!退治したんだからお金払ってくれなきゃ困りますデスよー!」

 風小が声を裏返して叫んでいる。

「ふざけるな!こんな大金払えるか!」

 憤懣ふんまんやる方ないと言った口調で北條がたたみ込むように吠えた。

 こんな光景を警察が見たら何と思うだろうか?

 ボンテージまがいの黒いエナメル服を着た娘が、よれよれの着崩れしたワイシャツ男と金を払え払わないの言い合いをしているのだ。

 とても『事件性が無い』とは言い難い状態。

 『売春』『詐欺』『セクハラ』『窃盗』『(ある意味)ただ食い』――。

 どんな事件ともダイレクトアクセスだ。

 いわば怪しさのてんこ盛り状態。

 詐欺で訴えられるのは日常茶飯事だったし、どんな誤解でも解く自信はあったが、このままでは留置所へのお泊まりコースになってしまう。

 それだけは絶対に嫌だった。

 自分は疲れていたし、ナカナカに充実した仕事だった。

 後は風小の手料理でも食べて暖かいベッドで眠りたい。

 それはささやかな希望であり絶対条件だった。

 『あんな』ゴツゴツとした湿っぽい部屋で寝るのだけは絶対に嫌だと思っていた。

「だって退治していいって言ったじゃないデスかぁ」

 風小がなおも声を裏返す。

「何言ってんだ!あの場合は退治してあたりまえだろう!」

「当たり前じゃないデス。お仕事です。お金払ってくれなきゃ困るデスよ!」

 ウウっと唸りを上げながら風小が北條の鼻面に詰め寄った。

 ふっ――と北條がたじろぐ。

 先ほどの、風小が片手で携帯電話を砕くシーンを思い出したのだ。

 そう、携帯電話、砕かれた――。

「あっ!」

 北條は『それ』を思い出して叫んだ。

「携帯!俺の携帯電話!べ、弁償しろ!携帯!」

「だぁかぁらぁあー!」

 風小が肩をいからせる。

「それは必要経費です。壊してあげたんだからホントは請求したいくらいデスよ。それを電話の機体代で相殺してあげるって言っているのデス!」

「踏んだり蹴ったりじゃないか!」

「それはこっちの言い分なのデスよ!」

 どちらも一歩も譲らない。

「バケモノは、おまえ達が出したんじゃないか!」

「北條さんが飼っていたのデス!」

 話が低次元のレベルに転がっていく。

 外のざわめきの中、かすかにパトカーのサイレンの音が混じりだした。

「タイムリミットね」

 姫緒は、独りそう呟くと、言い争っている北條と風小の間に割って入った。

「北條さん」

 突然会話に加わった姫緒に、北條が身構えた。

「北條さん、今回の事件は『言霊』が原因と思われます。自分の名前に影響されて人生を進む人がいたり、他人の一言で感銘したり傷ついたり――。人の書いた文字やしゃべった言葉は多少なりとも霊的な力を持っているものなのです。それが『言霊』です。言葉は人の心の形、そして文字は心の記録――、そう考えれば解りやすいかもしれません。私が思うに――。あなたに対して発せられた恨みや辛みの言葉、それらは本来なら小さな力しか持たず、あなたの心を多少傷つける事があったとしてもその場で霊力は消滅してしまいます。しかし、あなたはそれらをあの携帯電話の中に保存し続けた――。言葉と文字は霊力を増大し続け、憑代となり、そこにあのあやかしが住み着いた。あなたの携帯電話は、アヤカシ――、妖幻を飼う『妖幻の檻』となったのです。やがてアヤカシは檻の中で呪詛の力を強めていき、そのなれの果てが今回の顛末のようです」

 そう言って、姫緒は傍らに立っていた風小を抱き寄せると、彼女の顎の当たりを、猫をあやすようにゆっくりとなで回した。

 風小は子猫の様に目を細め姫緒に身を委ねる。

 姫緒の瞳が妖艶に潤み出す。

「アヤカシを出現させるほどの憑代は偶然に発生するほど簡単な物ではありません。つまり北條さん、あのアヤカシはあなたに対する呪詛――、呪いです。あなたの日頃の行いが人々の呪詛を誘いその結果、必然と言ってもよい呪いを完成させたのです。あなたが自分の本質を改め無い限り、またあやかしが現れることは充分考えられるのです」

 姫緒が話している間中、風小は甘えるように彼女の手に頬ずりしていた。

「でもねぇ、北條さん。人間てば何十年もかけて出来た人格をそんなに簡単には修正できないんですよ。実際の話」

 姫緒の瞳の妖しい輝きが増していく。

「また今度、あやかしが出現したとき――」

 姫緒は意地悪そうに微笑んだ。

「私でなきゃ――駄目でしょ?」

 そう言って風小の額にキスをした。


捜査完了














オカケニナッタ電話番号ハ、電波ノ届カナイトコロニアルカ――





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