好きの将来性
空気が暖かく始める春の頃。
それでも朝はやはり寒い。
寒いから布団を被ってしまう。
俺はスマホのアラームを寝ぼけた頭で止めた。
「あら、スヌーズモードになってるわよ」
「んあ……、あー……。めんどいしシャットダウンしよ……」
「怠惰ね。陸上をやっていた頃はもっと早くに起きていたでしょうに」
眠たい目でベッド横にいる女を見る。
高校の制服をきっちりと着ている。
長い黒髪は綺麗に手入れされ、白い肌はまるで日光を知らない吸血鬼のようだ。
糸目の端を少し釣り上げ、実に面白そうだ。
俺をからかっているのだろう。
「うるせぇ……。で、なんで家にいるんだ? それも俺の部屋に」
「あなたのお母さんが招き入れてくれたわよ」
「方法を聞いてるんじゃねぇよ。目的を聞いてるんだよ」
「あら、可愛い幼馴染が起こしに来るのがそんなに不満なの? 失礼しちゃうわね」
「答えになっていない。はぐらかすな」
「そうは言っても、あなたも知っているでしょう? 私の目的を」
「……知らんな」
「乙女心の分からない男ね。それじゃモテないでしょう。都合がいいわ」
「ちっ……」
もちろん俺も分かっている。
だが、それを認めたくないのだ。
認めてしまえば決断せざるを得なくなるからだ。
「私はあなたの事が好き。だからこうやって好感度を稼いでいるのよ」
見た目清楚なイカれた女の求愛を、俺はどうにも認められなかった。
先日、俺はこの女に告白された。
愛の告白だ。
だが、それは酷いものだった。
『私、あなたに将来性があると思うの』
『……はあ』
『つまり、将来的に物凄く稼げると思うのよ。資本主義の世界ではお金が全てでしょう? だからあなたと結婚して資産を共有したいのよ』
『は?』
『だから好き。あなたの事が好き。付き合って』
これだ。
これを愛の告白と言い張るこいつの精神が理解不能だ。
金を稼げそうだから好き、なんてイカれてる。
本人に言うか、普通。
だから返事を保留にし続けている。
普通に断ればよかったのだが一つのイレギュラーがあり、断るに断れない状況となってしまった。
「クソッ……、なんでこんなことに……」
「陸上部に入ったせいね」
「それはっ! ……………………確かに」
確かに、入らなければよかった。
入らなければこいつの告白を断れたし……、何よりここまで惨めな思いをすることもなかった。
入らなければよかった。
もしも過去に戻れるなら、俺は陸上をしていないだろう。
「さ、学校へ行く時間よ。時間は有限なの」
「……まだ6時前だぞ」
「早く行って今日の授業範囲を予習するのよ。あなた、ちょっと前まで陸上一筋だったでしょう? もう三年生、受験が控えているわ」
ああ、憂鬱な受験シーズンがとうとうやってきた。
どれだけ嫌だったか。
勉強、しなくちゃいけないなぁ……。
陸上もやめちまったからスポーツ推薦は使えねぇし。
一応推薦はされてるが……、もう陸上は辞めるからな。
「仕方ねぇーか。行くよ」
「ふふっ、登校デートね」
「ざっけんな。あん? そう言えばなんでアラームがこの時間に鳴ったんだ?」
「指紋認証でちょちょっと」
「……パスワードに変えよう。まあいい、着替えるから出ろ」
「ふふふふふふ……」
こいつ……、さては出る気がないな?
それなら俺にも考えがある。
俺は窓を開けた。
「寒っ……」
「ははっ、お前は寒さに弱いだろ」
観念するんだな。
幼馴染の弱点くらい知っている。
朝5時48分の寒波を喰らいな。
「くっ……、コートは下か……。やむなし」
奴を撃退した。
帰ってくる前に着替えよう。
洗面所で顔を洗い、寝癖を直してから歯を磨く。
ワイシャツを着て、裾をしまい込むようにズボンを履く。
ネクタイを締め、鏡で確認したらブレザーを持って下の階へ行く。
この間1分と40秒丁度。
奴は母さんに捕まって俺の部屋に戻ってこれない。
ウェディングドレスだとか、式場だとか、不穏な単語は取り敢えず無視する。
「理人、さっさとご飯を食べなさい。林檎ちゃんが待っているでしょうに」
「ふふっ、いいんですよ。私が勝手に待っているだけなので」
「……」
こいつ――林檎は母さんの前では猫を被っている。
いや、その他あらゆる人間の前で猫を被っている。
ただ一人、俺を除いて。
なぜかこいつは俺の前で演技をしない。
好きだと言うなら好かれるような演技をすればいい。
俺にそれを見破るスキルはない。
「今日の朝ご飯、林檎ちゃんが作ってくれたのよ〜!」
毒入り?
「いえいえ、早朝に押しかけた身ですから」
「いい子〜。……ほら理人、うかうかしてたら他の男に取られちゃうわよ」
「……その手があったか」
「え? なんて?」
「いや……、なんでも。弁当ありがとう」
「お弁当も林檎ちゃんが作ってくれたのよ〜」
「毒入り?」
「え?」
「いやなんでも」
いかんな。
つい本音が。
俺は妙に豪華な……、というか俺の舌に合った朝食を胃に送った。
なんでこいつは俺の好みを知ってんだ。
いや、幼馴染だからか。
そうしていると林檎が俺に近づき、耳打ちをした。
「……理人、毒なんて入ってるわけないじゃない」
「……そう言われると怪しく思えてくるな」
母さんはそうこうしている俺たちを「あらあらお熱いわね」とでも言いたげな目で見た。
恥ずかしい。
俺は林檎から離れ、弁当をカバンに入れた。
「じゃ、じゃあ行ってきます」
「行ってきます、お母様」
「あらあらあら、あらあらあらあら…………、あら〜」
「……」
俺は林檎を小突き、家を出た。
ここから決まった道を決まった順路で歩けば高校へと着く。
ということは待ち伏せも容易ということ。
早朝だと言うのに、待ち伏せされていた。
「ちっ……、智ね……」
「ああ、面倒なことになりそうだ」
なぜ俺の登校時間を知っているのだろうか。
血色の良い肌に、柔らかそうな頬。
小さな背に高校の制服はアンバランスに思える。
肩にかかる程度の茶髪は、後ろで綺麗に束ねられている。
智は良いやつだ。
天真爛漫という言葉のよく似合う少女だ。
少なくとも、俺以外に対しては。
「おはよ! 理人!」
「ああ、おはよう」
「おはようございます。智さん(理人の名前は呼んだのに私を無視したわね?)」
「あ、おはよう! 林檎ちゃん! 今日の天気悪いね! (林檎ちゃん、いたんだ。影が薄くて気が付かなかった)」
「そうですね。天気が悪くて智さんのお顔もよく見えません。あなたの鮮やかな顔が好きでしたので。あれはなにか工夫があるのですか?(メイクで塗りたくった顔が見えなくてよかったわ。気色が悪くて見てられないもの)」
「ええー、何もやってないよぉ……。私からしたら、林檎ちゃんの白いお顔はすっごい憧れる! (メイクなんてしていない。でも林檎ちゃんはいつも死人みたいだからメイクしたほうがいい)」
心の声が聞こえる。
どうやら俺は読心術を会得したらしい。
二人は笑顔で睨み合う。
しかしそれは数秒で終わった。
智は俺に向き直り、こう言った。
「理人、陸上を再開しない?」
それは一番言ってほしくない言葉だった。
しかしそれと同時に、もっとも言ってほしい言葉でもあった。
もうやりたくない。
だが、背中を押してほしい。
本心では陸上が好きだから起こる葛藤。
しかし、だからこそ俺はその気持ちを綺麗な思い出として飾っておきたい。
「なんで、俺なんかを……」
まただ。
また答えの知っている質問をしてしまった。
智は小さく笑みを浮かべ、俺に近付いた。
そして林檎に聞こえないくらいの小声で俺にささやいた。
「君を、好きだから」
これがあるせいで俺は林檎の告白を断れない。
俺が林檎に告白された日。
唐突で頭が追いつかず、取り敢えず保留にした。
その時、一人で悩んでいた所に智が来た。
『理人、話がある』
『え? なに?』
『私、君なら世界に通用する走りができると思う』
『……はあ。でも俺は……』
『それはいい。私は君に将来性があると思う』
『…………………嫌な流れだ』
『世界一の陸上選手に君はなれる。勝って勝って勝ち続ける事ができる。一度負けても、次の試合では必ず勝てる。私はそう確信している。世界の勝利者になれる。だから君が好き。付き合って』
『…………実はに林檎も告白されてて、まだ答えを出してないけど』
『じゃあ断ってきて。君が断ったら私と付き合おう』
このせいで俺は林檎の告白を断れなくなった。
そしての告白を影で林檎が聞いていたせいで智の告白も断れなくなった。
正直どっちも断りたい。
顔はいいけど片方ははお金が好きなだけ、もう片方は勝利が好きなだけだ。
お金を失えば林檎は俺から離れていくだろうし、負けが増え続ければ智は俺から離れていくだろう。
「それで、戻ってくる……?」
智は縋るような目で俺を見た。
これはこいつの演技だ。
林檎がいるからやっているポーズに過ぎない。
「……それは、まだ考えてる」
先送り。
俺は選択を先送りすることを選択した。
彼女はそれを聞き、一瞬だけ悲しそうな表情をした。
演技だ。
演技に違いない。
俺には彼女らの演技を見破る術はない。
だから、演技と信じるしかないのだ。
「それじゃあ学校に行こっか!」
智は明るく、天真爛漫にそう言った。
林檎は澄ました笑みでそれを了解し、俺たちは三人で登校した。
なにが正しいのだろうか。
俺には分からない。
学校へ着くと、授業が始まるまでの間に予習を行なった。
林檎のまとめ方はとても上手であり、今日一日分の授業内容を全て理解できた。
もはや授業を聞く必要があるのかすら不明だ。
「やっぱり林檎は凄いな」
「そんなことはないわよ。これは努力しただけだから。誰にだってできること」
「少なくとも俺はそれをできない」
「すぐできるようになるわよ」
林檎そう言って笑った。
ここに智はいない。
だからこうやって素でいられる。
智は陸上部のマネージャーだ。
朝練をしている陸上部の所へ行った。
「ところで、理人はどこの大学を志望してるの?」
「どこの……」
勉強の間に、彼女はそう言ってきた。
大学はまだ決まっていない。
監督から貰った推薦は断った。
どこかの大学を選ばなくてはならない。
近くの大学を適当に受験しようか。
もうそれでいいだろう。
「私、東大に行こうと思うの」
「……えっ」
「一緒に行かない? 理三」
「……俺じゃあ無理だよ」
「三年からでもあなたなら行けるわよ。努力じゃ届かない才能があなたにはあるもの」
「仮にあったとしても理三に行けるほどじゃ……」
「行けるわよ」
何を言っても聞かないな。
行けるわけがない。
理三を舐めてんのか。
ずっと努力してきた林檎とは違って、俺は陸上しかしてこなかった。
テストはドベとは言わずとも上位ではない。
ここから理三を目指すにしても、そうとうの努力をして落ちる可能性が高い。
浪人は当然として、何浪で入れるのだろうか。
親はきっと許してくれるだろうが、それが逆にきつい。
だって入れない可能性の方が高いのだ。
「理人は陸上に行かない方がいいわよ」
「……」
「陸上は運の要素があまりに強すぎる。陸上だけじゃない。勝敗が関わることは運が良くないといけない」
「それは……」
「否定できる? だってどれだけ努力をしようと、より才能のある人がいればその人に負ける。もしその人に勝てても、また強い人が来たら負ける。努力が必ずしも報われるとは限らない。それに勝っても勝ってもまた次の勝負がある。賽の河原よ」
否定できない。
否定できないから俺は陸上を辞めた。
俺より強い奴がいた。
それも圧倒的に。
努力はした。
コンディションも最高だった。
それでも勝てないと、心の芯で理解してしまった。
「勉強は、努力と才能が一定以上あれば必ず成功する。だから私は勉強が好きなの。運もある程度は絡む。でもそれは才能で補完できる程度。勝敗ほど運は絡まない」
「……俺に才能はないよ」
「本当に陸上一筋だったのに、勉強する時間なんて一切なかったのに、毎テスト平均点を上回っているわよね」
「平均点を超えたってだけだ。林檎はずっと満点だっただろ」
「授業内容だけで平均点を超えられるのがおかしいのよ。この学校、結構レベル高いわよ?」
「まあ……」
言っている意味は分かる。
だがそれでも納得はできない。
だって理三だぞ。
あの東大理三に受かると思えるかって話だよ。
そもそもあまりよく知らない。
目指す気もなかったからな。
「……まあいいわ、考えておいて。理三を目指すにしろしないにしろ、勉強は大切だから」
「そうだな」
話はそれで終わりだ。
勉強を再開する。
人がだんだんとやってくる。
ほのかに覚えた非日常感はすぐ日常にかき消された。
朝はもう終わった。
授業が始まる。
生徒たちは自分の席へと着いたのだった。
昼食の時間。
俺は林檎が作った弁当を抱えて今日の昼食場所を探した。
教室は居心地が悪い。
陸上部で一緒だった奴が同じクラスにいる。
つまり気まずいのだ。
俺は陸上部の元エースだった。
俺が一番速かった。
全ての競技で俺が速かった。
それなのに辞めてしまった。
だから気まずい。
林檎はいつも友達と食べるため、必然的に俺は一人で弁当を食べなくてはならない。
「理人、今一人?」
そこには智がいた。
春の陽気が差し込む、ピロティであった。
コンクリートの地面と無骨な体育倉庫。
グラウンド近くであり、地面には砂が散っている。
智は体育の終わりなのかジャージを着ていた。
「体育委員だから」
「ああ……、なるほど」
「今、ちょうど片付けが終わった。一緒にご飯食べよう」
「弁当あるのか?」
「購買でパンを買っておいた」
彼女は手に持っていた荷物からビニールに包まれたパンを見せてきた。
俺たちはピロティのベンチに二人並んで座り、一緒に昼食を始めた。
彼女は焼きそばパンとホットドッグを二個ずつ、メロンパンとロールパンを一個ずつ買っていた。
俺の弁当は今朝見たような食材と白米に漬物を添えていた。
「ねえ、私に会いに来たの?」
「……まあそれもある」
「嘘」
「嘘じゃない」
「同じクラスに陸上部の人がいるからでしょ」
「………………ぐぅ」
「君、嘘を吐いてる時に瞬きが多くなる癖がある」
「まじ!?」
「嘘」
「……そっかあ」
彼女は捕らえどころのない印象がある。
本心がなかなか掴めない。
演技をしている彼女の方が本心を掴めている感触がある。
彼女の顔を見る。
無表情。
その容姿も相まり人形のようだ。
「さっき、監督と会った」
「っ!」
「推薦、まだ完全には取り消してないって」
「俺は……」
「大学、どうするの?」
「……」
「大学は将来の仕事を決める重要な要素。陸上選手にならない?」
「ならない。なりたくない」
「嘘。君はなりたがっている。だって君は陸上から逃げただけ。心の中では勝ちたいと思ってる」
「無理だ。勝てるわけがない」
「勝つの。勝たないとあなたは未来に進めない。成長ができない。一生、あなたはこの敗北を背負って生きていかなくてはならない」
「それは……、だが……」
「敗北は勝利でしか拭えない。あなたはいつか敗北を克服できる。一緒に行こう。陸上の強い大学に行こう」
進路を、決めなくてはならないだろう。
まだ春、ではない。
もう春なのだ。
高三の春なのだ。
陸上の道に行くのか。
理三の道に行くのか。
どちらも嫌だ。
早く、この場から逃げ出したい。
逃げて、逃げて、逃げて……。
「逃げて、どうするの?」
「……」
逃げた先には何もない。
敗北を考えるから陸上にはいけない。
無垢の楽園に浸らなければ、勝利に縋れない。
だが、そこまで愚かになれるだろうか。
愚直に料理を目指せるだろうか。
賢く逃げるのが一番だ。
そうは分かっている、分かっているのだが……。
「勝とう」
つい、勝利の炎に飛び込んでしまいたくなる。
彼女の熱に当てられて、炎が俺に燃え移りそうになる。
一緒に燃えて、灰となるか。
はたまた燃料として新たな炎を生み出すか。
林檎の言う通り、運だ。
才能がどれだけあろうが、平均が高ければ凡才だ。
天才とは相対的なものだ。
だから、俺は決められない。
「……考えておくよ」
「そうして」
結局は先延ばし。
選択肢は十全にある。
あとは選ぶだけ。
それが、妙に怖かった。
なんの仕事がしたいか。
陸上選手に憧れはあった。
だが、医者の道も目指していた時期があった。
だから林檎は俺を理三に誘ったのだろう。
林檎は中学二年の頃、入院をしていた。
今でこそ元気に学校へと通えているが、当時はそれすら難しかった。
彼女の親が言うに、白血病らしかった。
血液のがんだ。
当時の俺が覚えたのは果てしない無力感であった。
図書館にあった病気の本を食い入るように読んだ。
医学、病理学、薬学、微生物学、看護学、その他多くの学問書を読んだ。
内容は、今でも全て覚えている。
林檎はそんな俺を覚えているから誘うのだろう。
だが、俺は林檎のために努力した訳じゃない。
林檎を助けられない無力感を払拭するために頑張った。
ただそれだけの男だ。
結局は自分のため。
自分の誇りを守るため。
ただ、それだけなんだ。
放課後、俺は林檎と共に帰っていた。
夕方、智は部活に行った。
俺はどうすればいいのだろう。
横目で林檎を見る。
林檎も俺を見る。
妙に気恥ずかしく目を逸らす。
告白に応えなければならないだろう。
結局、それからも逃げているだけだ。
言い訳をして、理屈をこねて、決断から逃げている。
感情と向き合うのが怖いから、一丁前に理屈っぽく考え逃げている。
「理人って智が好きなの?」
「えっ別に」
「ふーん」
「なんでさ」
「なんでもないわ」
急になんなんだ。
そんなことを気にする奴でもなかろうに。
お金を稼げそうだから俺のことが好き。
ただそれだけだろ。
でも、それでも……。
「理人……」
なんでそんな、辛そうな顔をしてるんだ。
林檎は俺を好きな訳じゃないだろ。
お金のためなんだろ。
なんでだよ。
「……好きよ。本心で好き」
「お前は……」
「あなたがお金を稼げそうだから好き、なんて嘘よ。好きになっちゃった言い訳をしたいだけ。それはきっと智も同じ」
「……」
「怖いのよ。好きっていう感情が。その感情が正しいものか分からないし、でもあなたを思うと心が爆発しそうになる。だから、その感情に合理的な理由付けをしているだけ」
彼女は少し頬を赤らめ言った。
彼女は高校三年だ。
俺も高校三年だ。
子どもといえば子どもだし、大人といえば大人である不思議な時期だ。
納得できない感情と、一見合理的な言い訳。
俺も、彼女たちも、みんな正解が分からないのだ。
経験したことのないことばかりだ。
だから、この経験をいつか活かせるのだろう。
彼女たちのどちらかと付き合うにしろ、しないにしろ、まだ俺には経験が足りていない。
ここから、完全な大人になるのだろう。
ならないといけないだろう。
家へと帰る。
決められた道を決められたように帰る。
その道に、桜の木が一本あった。
最後の花が、俺の前を舞っていった。
そろそろ、葉桜の季節だ。
紅葉し、葉が散り、また花が咲く。
季節は、巡ったのであった。




