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01.婚約破棄(1/2)

「あ、貴方たち……リヴァース様の前で惨めな格好しないで頂戴!くれぐれも」


さっきまで勝ち誇っていたフローネも、取り巻きたちも、蛇に睨まれた蛙のように硬直した。


リヴァースは、泥にまみれてひれ伏す私を――かつて「最愛」と囁き合ったはずの私を、ゴミ屑を検分するかのような眼差しで見下ろした。


(え…?)

「――静かに。私の時間だ」


低く、地獄の底から響くようなバリトン。

一瞬で、華やかな舞踏会は『処刑場』へと豹変した。辺り一面が静まり返る。


いつも冷静な令嬢たちは酷く困惑し、顔を次々に見合わせた。なぜ、接点すらないはずの最高権力者が、一介の令嬢の前に立ち止まっているのか……と。


(……リヴァース……?)

「リリア・ブライアン。いや……『千代』だったか」


………………え?


名を呼ばれた瞬間、心臓がはねた。なんで?なんで、その名前を知っている?

その名前は、花街にいた人、親戚、万屋のおじちゃん……薬師……華欄しか知らないのに………。


彼は優雅な所作で、私の拒絶を許さずポケットに手を滑り込ませる。引き抜かれたのは、あの一通の“手紙”と名刺《刺》。

リヴァースは無造作に封を引き裂き、その内容を冷淡な瞳でなぞった。


「これは何だ?外部への通信は私の許可がいる。……規則を忘れたか?」


(……やばいやばいやばい)

古くからこの王都では、情報の流出を防ぐため、外部への書簡はすべて当局の検問を経ることが“鉄の掟”となっている。とりわけ、王都の秩序を担う「十二家」に関わる者は、一通の紙片、一言の漏洩さえも国家反逆と同義とみなされる。その掟を統括する頂点こそが、目の前の男だった。


「宛先は『花街』。あんな掃き溜めに、なぜ手紙を出す必要がある」


(……やばいやばい。なにか言い返さなきゃ)


「いや……そんなつもりは。住所を間違えてしまい……」

「住所を間違えた? 笑えない冗談だな。あんな場所、地図に載っていることすら不快だ。泥を啜り、病を撒き散らす獣どもが詰め込まれた肥溜めだろう。」


宛先は、王都の華やかさとは対極にある「花街」。


秩序の番人である彼にとって、清貧な令嬢がそのような卑俗な“掃き溜め”と繋がること自体、あってはならない『汚点』なのだ。

見下すような嘲笑が、冷たい刃さながらに私の背筋を這い上がる。答えを絞り出すことさえ、彼が放つ覇気が許さない。


「……お前の身分を洗わせてもらった。お前、王都の生まれではないな」


「……ちょっと!待ってください……」

「どこ出身かは濁させてもらうが、お前がドブネズミ共の一種ということはわかったな」


リヴァースは冷酷な笑みを深め、とどめを刺した。

「婚約は、今この場で『破棄』する」



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